夏祭りの夜に

夏至の日設定を1mmも活かせていない結婚済みヴァカアポの夏祭りのお話。ほんわかギャグ。これが私のサマコレ2020です!!!!!!!ちなみに、最初はアポロニオの誕生日設定だったんですけど、個人情報そんな簡単に晒すか?と思い直してアポロンVI生誕祭になりました。


※結婚済み(すぐその設定生やす)
———————

アポロンシティでは、アポロンVIに感謝をする日として、アポロンVIの誕生日……つまり、代替わりした日にちょっとしたお祭りをする慣習がある。偶然なのか必然なのか、歴代アポロンVIの襲名は夏至の日ばかりで、そして当代のアポロンVIも夏至の日に誕生したのであったから、やはり夏祭りになるのは当然であった。
暑くなってきたタイミングで行われる夏祭りは、アポロンシティに夏の訪れを感じさせる風物詩として定着している。

さて、ではその主役であるアポロンVIは何をするか、と言えば、この日は何があろうと一日オフだ、休日だ。あまりにもアポロンVIが休みを取らなさすぎて、困った英雄庁がこの日を公休扱いにしたという事実があるが、アポロンVI本人には「市民からのお願い」として伝えられている。市民からのお願いには弱いアポロンVIなので、今日は祭りの始まる前から浴衣を着て楽しむ気満々だ。

「相変わらずすっごい人出だねえ」
「うむ、このような日こそ犯罪も増えるのだが……フォースが特別シフトを敷いてくれているからな、安心して良いぞ」
「そういうことじゃないんだけどね……」

アポロンVI……今日はオフの日なので一市民のアポロニオは、弟であるヴァッカリオの手を引きながら人混みへと足を向けた。二人そろってお揃いの浴衣、何よりヴァッカリオの長身は非常に目立つ。
しかし、この日だけは、市民もアポロンVIを見つけても知らんぷり。今日は、いつも市民のために働いてくれているアポロンVIに休息を捧げる日なのだから。
なので、例えアポロンVIが弟であるディオニソスXIIことヴァッカリオといい歳して手を繋いできても、そっと見ない振りをする。というか、さすがに慣れてきた。

アポロンVIが結婚を公表した年は本当にいろいろと荒れまくった(相手がまさかの弟でしかもゴッドナンバーズとか爆弾にも程がある!)し、祭りの日に二人が手を繋いで現れた時はさすがの市民も鉄の掟を忘れて騒いだ、本当に騒いだ。夢じゃなかった、現実だった。
中にはディオニソスXIIを鬼の形相で睨む人間も多少はいたが、なんだかあまりにも楽しそうで嬉しそうで、幸福に満ちたアポロンVIの笑顔を見たら……もうやけ食いするしかなかった。その年のたい焼きはしょっぱかったという思い出の人が多いのだとか。
そして、翌年からディオニソスXIIグッズを取り扱う店や酒を扱う屋台が増えたというのも、市民の記憶には新しい。

「先に腹ごしらえとするか」
「そーだね。あ、お兄ちゃんあのお酒買ってもいい?」

いつもは多少渋い顔をするアポロニオも今日は笑顔で許可を出す。アポロニオは知っている、この店が出店を始めたのは自分たちが結婚を公表してからだということを。

「つまみはたこ焼きか?」
「あっちのお好み焼きも美味しそうだよ」
「両方買おう……あ、わたあめ買ってもいいだろうか?」

きゃいきゃい、冷やかし半分で屋台を覗き込みながら夕飯を調達していく二人。一応、贔屓にならないように毎年違う屋台から買っているというから、アポロニオの記憶力は恐ろしい。
今日だけは、歩きながら飲み食いしても誰も怒らない。まあ、それでもどことなくお行儀が良いのがアポロン市民だ。観光に来ている他の市民は明らかにお作法が少々アレなのですぐわかる。例えばヴァッカリオとか。

「はい、お兄ちゃんお誕生日おめでとう~」
「私ではなく、『アポロンVI』だろう、そこは」

そう苦笑しながらも、ヴァッカリオの差し出した何杯目かの缶ビールとミルクセーキ入りのプラコップを軽く合わせて乾杯した。
その辺の空いている地面にそのまま座り込んで、買った食べ物を広げる。この場所は毎年空いている……そう、市民が気を利かせて誰も座らないようにしているのだが、二人が気づいているかどうかは……たぶん、気づかれているだろうな、と市民たちは苦笑している。

「もうすぐ就任30周年?」
「ああ、記念式典をやるという話が上がっている……」アポロニオはお好み焼きを器用に切り分けながら恥ずかしそうに続けた「断ったのだが、市民からも要望が多数来ているとのことで、行われることになりそうだ」

ポセイドンシティで就任30周年記念式典が行われたことに触発されたのだろう。アポロンシティのアポロンVIに対する親愛の情は深い。さぞ盛大な式典になるだろうな、とヴァッカリオは少しだけ遠い目をした。変な飛び火が来ないことを祈るばかりだ。

「はふっ、あちち、長いよね、30年」
「火傷に気をつけろよ……そうだな、長かったな30年は……」

ミルクセーキを飲むアポロニオ。30年を思い返してみれば、いろいろとありすぎて……祭りの場に、ふさわしくない憂いが顔に浮かんだ。楽しいこと、嬉しかったことも多いが、悲しかったこと、辛かったこと、そして長くやっている分、多くの人間を見送ってきた。

「なんかしんみりしてるけどさあ、まだまだ現役でしょ?」
「まあ……」
「だってもう結婚しちゃったし、辞めるタイミングないじゃん」

クスクスと笑ってヴァッカリオはアポロニオの左手を取り、薬指に輝く結婚指輪にキスをした。
アフロディテIXを筆頭に、ゴッドナンバーズだけではなく一般ヒーローも含めて寿引退というのはよくある話だ。英雄庁としては引きとめもしたいが、殉職や力を失っての引退ではない分、ある意味でおめでたく、意外ともろ手を挙げて歓迎している引退理由の一つでもある。

「おいらだってまだまだ続ける気だからね、ディオニソスXIIは」
「ふふふ、お前が立つと言うなら、その背中は私が預からねばならんな。まだまだ、アポロンVIを辞めるわけにはいかない」

ヴァッカリオに取られた左手で軽く拳をつくり、面前に上げるとヴァッカリオもニヤリ、と口角を上げて右手で拳を突き合せた。
それに合わせて、周りの空気もほっと弛緩した……そう、市民は知らんぷりをしながらめちゃくちゃ聞き耳を立てていたしものすごくバレないように絶妙にアポロンVIを監視していたのだ!

アポロニオはおそらく気づいていない。市民のことを無条件に信じているし、「見られる」ということに慣れすぎていてこの程度では動じないのだ。代わりに、ヴァッカリオがその視線と無言の圧力を受けて、アポロニオのご機嫌を立て直すのに必死だ。ここで泣かせたら、無事に会場を出れるかアヤシイ……。

「ほら、冷ましてやったから。はい、あーん」
「あーん!……タコが大振りでおいしいねえ」
「だろう?ポセイドンシティからわざわざ取り寄せたタコを使っているらしい」

見られているのがわかっていてもイチャイチャはやめられない。むしろ、ヴァッカリオ的には牽制の意味を込めて普段よりもスキンシップ多目だ。
まだあきらめていない過激派が事あるごとに「ついに別居か!?」「離婚秒読み!?」「アポロンVI、ディオニソスXIIの酒癖に愛想を尽かす!」といった飛ばし記事を出すので、それを潰す意図を存分に含めて。……最後の酒癖は半分ぐらい本当かもしれないが。

腹ごなしをしたら、あとは最後の花火まで遊ぶ時間だ。やっぱりアポロニオに手を取られて、ヴァッカリオはよっこいしょ、と立ち上がる。
アポロン神の神話特性のせいか比較的若年層が多く、身長が平均的に低めなこの地区にいると、ヴァッカリオは頭ひとつ飛び出ることになる。目の下でひょこひょこ揺れる金の髪を見ながら、ヴァッカリオはアポロニオに引かれた手を握り返した。すいすい、進んでいくアポロニオに置いてかれないように。

「お、射的だって」
「ふむ……任せろ、得意分野だ」

職権乱用……ではないが、アマチュアの中にプロが紛れ込むようなものだ。とは言え、アポロニオ以外にもアポロン神の神話還りが何人か景品をかっさらっていくせいか、この地区の射的ゲームはかなり難しくなっている、との噂だ。ヴァッカリオはいまだに射的で景品を取ったことがないのもそのせいだと信じている。
アポロニオの顔を見た店主が嬉しさと微妙な及び腰を見せつつ、射的に使うおもちゃの銃を渡す。

アポロニオはどれにしようか、とヴァッカリオに聞いた。ヴァッカリオは当然、一等賞でいいんじゃない、と返した。アポロニオが外すわけもなく、どの景品でも取れてしまうのだから、とりあえず一番良さそうなのを狙っておけ、という雑な兄弟の会話だ。

「はい、お客さんおめでとうございます!!!一等賞です!!!!」

カランカラン、と鐘を鳴らしながら屋台の主がなぜかやけくそ気味に叫んだ。音につられて振り返った市民たちも、その姿を認めて自然と拍手をする。

「これが一等賞の景品!『アポロンVIなりきりセット』です!!」
「ぶふっ……お、お兄ちゃん……あははははは!」
「あ、ああ……ありがとう……いや、ええ……?」

困惑するアポロニオの手になりきりセットを押し付けた店主も必死に笑いをかみ殺している。一方のヴァッカリオはもう腹を抱えて大爆笑していた。もちろん、周囲の市民もスッと顔を下に向けてぶるぶると震えている。
アポロンVIがアポロンVIなりきりセットを持って歩いている!こんなに面白い光景が見られるのも今日だけ!

「ひー、ひー、なりきりセットだって!お兄ちゃん、アポロンVIになりきりできるよ、やったね!」
「おい、笑いすぎだぞヴァッカリオ……しかし、良くできているな」

店の邪魔にならないような場所に二人で移動し、さっそく袋を開けてみる。さすが一等賞、と言うべきか、なかなか凝ったセットのようだ。
面白くなってきたアポロニオも、ノリノリで月桂冠を頭につけて、子供用にいく周りか小さくリサイズされた弓矢を手に取る。矢の先端は吸盤になっていて、これを手に入れた子供は冷蔵庫の壁面でも狙って遊ぶのだろう。アポロンVIの顔っぽいお面はさすがに恥ずかしかったので着けなかった。

「うわあ、お兄ちゃんすっごい似合うよ!!まるで本物みたい!!!」
「ヴァッカリオ……!!!そうやって人をからかうヤツにはお仕置きだな、くらえ、アポロン・バスター!!」

アポロンVIの一番有名な技名を言い放って、アポロニオが放った吸盤付きの矢はヴァッカリオに見事命中してぽろん、と地面に落ちた。
ぶふっと吹き出す音が聞こえたのは気のせいではないし、音の発生源も一か所ではない。

「ぐわーやられたー!!」
「この世に悪は栄えない!この私、アポロンVIがいる限り!」

ばっちり、決めポーズまで。頭の上でゴム製の柔らかい棒に支えられた月桂冠がぽよんぽよん、と揺れた。

……だめだ、もう耐えきれない、と二人は顔を見合わせると腹を抱えて大笑いし始めた。
市民は鉄の掟を必死に守って、腹筋に力を入れまくって、あるいはパートナーの胸に顔を埋めたり、テーブルに突っ伏したりしてどうにか笑いを堪えているというのに、この二人ときたら……。

「死ぬ、死んじゃう、腹筋がヤバイ……!」
「死ぬなヴァッカリオ、私は腹筋もそうだが頬の筋肉もだいぶキているぞ……!」
「お兄ちゃんがアポロンVIのなりきりうますぎだからさぁ!!」
「はっはっは、私も自身が世界で一番アポロンVIの物まね上手だと思うぞ!!」

ひぃひぃ、息も絶え絶えになりながら矢を拾うと二人はまた手を繋いで人ごみに戻っていった。あっそのなりきりセット取らないんだ、とその場にいた市民は何とも言えない気分で二人を見送った。この先の市民たちの腹筋に健闘を祈りながら。

「なんでアポロンシティなのにディオニソスXIIのなりきりセットがあるの」
「市民の好意だろうな……ぶっ、ヴァッカリオ、仮面が……入らないのか……ぶははっはは」
「だって子供用だろこれ!」

次の屋台でくじ引きをしたヴァッカリオはなぜか一等賞を当ててしまい、そして、またさきほどの店主のようにめちゃくちゃ必死に笑いを堪えて脂汗浮きまくりの店主からディオニソスXIIセットを受けとっていた。

当然のように、嬉々としてアポロニオが開封してヴァッカリオに手渡す。やっぱり安物のゴムの棒に支えられた月桂冠(二重)が頭の上でぽよん、と揺れているし、ディオニソスXIIのトレードマークである大剣はヴァッカリオが持てば子供用の傘程度の大きさだ。何より、顔全体を覆うはずの仮面は鼻の頭に突っかかって止まっていた。マントも両肩に着けるほどの幅が足りず、とりあえず右肩にぶら下がっているだけ。……変質者として職務質問されそうだ。

「でい!神剣ザグレウスをくらえ!」
「わー!やられたー!」

べし、と小さな大剣でアポロニオの頭を叩くと、アポロニオは頭を抱えてしゃがみこんだ。

「オリュンポリスは俺が守る!この最強のヒーロー、ディオニソスXIIが!」

バッチリ、決めセリフと決めポーズ、それからやっぱりぽよよん、と揺れる月桂冠(二重)。
アポロニオはヴァッカリオの決めポーズをちょっとだけカッコいいものを見る目つきで見ていたが、頭の上の月桂冠に視線が動いた瞬間に、吹き出した。

「か、かっこいいぞヴァッカリオ……良く似合っている、ぶっ」
「へへん、おいらだって世界で一番ディオニソスXIIの物まねがうまい男だからね!!」

やけくそのように叫んだヴァッカリオの言葉に、周囲の市民の肩が一斉に揺れた。咳き込む声がそこかしこから聞こえたのも、偶然ではないだろう。

結局、世界一アポロンVIの物まねがうまい男と世界一ディオニソスXIIの物まねがうまい男は、なりきりセットを身に着けたままぶらぶらと散策する。二度見する市民もいれば、視界に入った瞬間に吹き出す市民もいるが、アポロニオは気にしないし、ヴァッカリオはお前らも巻き添えだと言わんばかりに堂々と歩く。

「金魚は?」
「さすがにもう増やせないからな……あきらめよう」

金魚すくいをうらやましそうに見つつも、アポロニオはそう言ってため息をついた。マメなアポロニオのことなので、毎年捕まえた金魚はすべて一匹も死なすことなく部屋で飼い続けている。最初の年に持って帰った金魚はずいぶんと大きくなった。
なぜだろう、兄が育てるものは何でも大きくなる傾向にあるのだろうか、と部屋に赴くたびにヴァッカリオはその巨大化の一途をたどる金魚を眺めて首を傾げている。

「んー、じゃあ代わりにチョコバ……りんご飴にする?」
「それもいいな。お前は?」
「あのフランクフルト……いや、やっぱりイカの姿焼きにするよ」

チョコバナナはいろんな意味でダメだ、と思ったヴァッカリオが咄嗟に方向転換してりんご飴を勧めたし、フランクフルトも緊急回避してイカ焼きにした。フランクフルトを買ったら絶対、あーんしなければならなくてそれはいろいろとマズい。他の人には見せられないよ。

最後のおやつを買い込んで、花火の見える位置に移動する。ここも、毎年同じ場所だが……たまたま空いている、わけではない、もちろん。この場所に二人が来ることを知っている市民たちで周囲の場所取りが激化していることまでは、さすがのヴァッカリオも知らないが。

程なくして、アポロンシティの空に花火が打ちあがる。どれもアポロンVIをイメージしたもので、オレンジ色であったり金色であったり。大輪の花々が夜空を彩る。

「キレイだねえ」
「うむ。癒されるな……これを見ると、また一年頑張ろうという気力が沸いてくる」
「さすがお兄ちゃんだね!……おっ、紫と黄色って……これは、おいらたちのことかな?」

そうヴァッカリオが言うと、アポロニオは顔を赤らめて頷いた。花火のレパートリーに、紫や緑が増えたのも二人が結婚を公表してからだ。そういう市民の気遣いが恥ずかしくもあり、嬉しくもある。
現役のゴッドナンバーズが家庭を持つだなんて、場合によっては批判もあるかと最初は心配したのだが、アポロンシティの市民は軒並み祝福をしてくれた。たくさんの花と拍手に囲まれて、とても幸せだったあの日のことを思い出す。

「なあヴァッカリオ」
「ん、なに?」
「これからも、公私ともによろしく頼む」
「もちろん!言われなくても、一緒にいるよ」

どちらともなく見つめ合って、紫と金の光彩の下で二人の姿が重なる。

盛大な市民の拍手は、二人の影に対するものなのか、花火のフィナーレに対するものなのか、それは今日のお祭りに参加した人間だけの秘密だ。

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!