アポロンVIはそんなこと言わない

2021 2 6作成. 202/1 2 6でヴァカアポの日って聞いたから慌てて用意した。何にもオチはない。二人が食事しながら昔あったバラエティ番組の話をしてるだけ。軽くキスがあるぐらいでそこまでヴァカアポじゃないかもしれないけど作者がヴァカアポって言ったらヴァカアポなんだよバーロー

ジャスティスカーニバル前の話。

タイトルの元ネタは「飛影はそんなこと言わない」
知らない人はググろう


 

二人でのんびりと夕食を取って。だらだらとテレビを流して。他愛もない会話をして。

ああ、平和っていいねえとヴァッカリオがのほほんと思っていたときに、兄であるアポロニオからちょっとした爆弾を投げられた。

「おお、ヴァッカリオ、お前このクイズ番組を覚えているか?」
「え? あー子供の頃にやってた奴じゃん、懐かしいね」

テレビで始まったのは、20年ほど前に毎週水曜日夜7時から放送していたバラエティクイズ番組だ。今日はスペシャル特番として復活したらしい。

「以前、私が出たときに……不甲斐ない姿を見せて、お前に泣かれた事があったな」
「うっ、そんな昔の話よく覚えているね……」

爆弾だった。アポロニオは平気でヴァッカリオの恥ずかしい子供の頃のエピソードを掘り起こしてくる。心底恥ずかしいのでやめて欲しいとやんわり言った事もあるが、なかなかアポロニオには伝わらない。

まあ、アポロニオがショックを受けるかもしれない、と穏やかに遠回しな表現しかしないヴァッカリオにも責任はあるのだが。

そうやっていまだにアポロニオに強く言えなかった今日の夕食で、また恥ずかしエピソードが出てきてしまったのだ。

ヴァッカリオは口の中に詰まったアポロニオお手製の卵焼きを、何とも言えない気持ちと共に飲み込んだ。

「あの時はなあ、『お兄ちゃんが出てる!』ってお前はだいぶ前から楽しみにして、ビデオの録画予約もバッチリだったな」
「ハハハ……本当に楽しみだったんだよねえ……でも」

そう言ってヴァッカリオが言葉を切ると、アポロニオは神妙な顔をして頷いた。

「クイズが始まってみれば、私はロクに正解を答えられず、チームの足を引っ張るばかりであったな」
「仕方ないよ、『今、女子高生の間で流行ってるスイーツは?』とか『今期視聴率ナンバーワンの恋愛ドラマは?』とか……お兄ちゃんには縁のない問題ばかりだったからね」
「とは言え、あまりにも情けない姿であったのも事実だ」

情けない姿。
頓珍漢な答えを出しては芸人にいじられ、観客に笑われて恥ずかしそうに身を縮こまらせて頭をかくアポロンVIの姿は――ヴァッカリオ少年にとっては、とてもショッキングな光景だった。

ヴァッカリオにとって、アポロンVIは、アポロニオという兄は、完璧な存在であったのだ。聞けば何でも教えてくれるし、ヴィランにも負け知らず、例えどの様な困難な局面を迎えたとしても、膝をつくことなく前を真っ直ぐに見つめ続ける、希望の光であり沈まぬ太陽。

そんな兄が、ミスをして周りから揶揄われている。芸人からはイジられてネタにされるし、観客は悲鳴を上げながら手を叩いて爆笑する。

「途中でリモコンを投げて、泣き出した時はどうしたものかと焦ったぞ?」
「いやあ……今思い返しても、おいらギャン泣きしてたね……しかも、フォークとかお兄ちゃんに投げてなかったっけ?」
「投げた投げた」

アポロニオは懐かしそうに目を細めてクスクスと笑った。代わりに、ヴァッカリオは肩をすくめるだけに留め、恥ずかしエピソードの続きを自らの口から語る。

「しかも、挙げ句の果てには『お兄ちゃんのバカ!だいっきらい!!』って言ってた気がする」
「……あれは、実に凹んだ」
「ごめんって!」

露骨に顔を顰めたアポロニオに、ヴァッカリオは慌てた。当時も、後から言い過ぎだったと、一人で洗い物をしているアポロニオの後ろにしがみついて泣きながら謝った覚えがある。

「いや、嫌われても仕方ないほどの不甲斐なさであったからな……」
「ちょっと、しみじみしないでよ。言い過ぎたって謝ったでしょ」
「確かにお前には謝ってもらったが……事実は事実だ。……実は、英雄庁の方でもチェック時に問題にはなったのだ」
「え、そうなの?」

当時のアポロンVIは就任したばかりでありながら、その端正なマスクと熾烈なヴィランへと対応で一躍時の人となっていた。市民からの人気はうなぎ上りで支持層も幅広く広がり、ゴッドナンバーズの中でもあっという間にゼウスIに近しい存在になっていたのだった。

ニュースに姿が映っただけでも視聴率が上がる奇跡の存在と呼ばれたアポロンVI。雑誌のインタビューも数多くこなし、当時から英雄庁の広告塔として存分にその力を発揮していた。

「私がバラエティに出演した本来の目的は、『アポロンVIに親近感を持ってもらう』であったのだ。その頃は私もゴッドナンバーズとして恥ずかしくない姿を、とかなり気を張っていたからな……」

それはこの前の10年間の方が酷かったんじゃないの、という言葉は、ヴァッカリオの喉元まで出かかって何とか漏れずに済んだ。和解してからぎこちなさはだいぶ減ったとは言え、迂闊に藪を突いて号泣させることもあるまい。

「しかし、編集後の映像を見たらあまりにも『アポロンVIをバカにしているのではないか?』と英雄庁内部でも問題になって……」
「そりゃそうでしょ、どう考えてもアポロンVIを完全にいじられキャラに置いた構成だったじゃん。明らかにアポロンVIが知らないような問題ばかり用意してさ」
「そうなのか?」
「そうだよ! ったく、おいらがその時ディオニソスXIIだったら絶対放送ストップさせてたのに」
「ハハハ、覚醒が10年遅かったな」

……『アポロンVIの負ける姿を市民に見せるわけにはいかない』という理由でディオニソスXIIとして覚醒たヴァッカリオは、なんとなくいたたまれなくなってスッと視線を逸した。散々、アポロニオに昔から変わってないと言われ続けてきたが、本当に変わってないのかもしれない。

「しかし、すでに放送できるまでに仕上げられたものをそう簡単にお蔵入りするわけにはいかないだろう。人でも金も時間もかかっているのだからな」
「もしかして、お兄ちゃんがゴーサイン出した?」
「ああ。批判されるのなら、それは私が悪いだけだからな。実際、テレビ局や英雄庁にもお叱りの電話やハガキが相次いだよ」
「あー……」

わかる、わかるぞ抗議した市民たちよ……とヴァッカリオは遠い目をした。確かに、完璧な存在であるアポロンVIの少しばかり抜けたところを見たら、親近感は沸くかもしれない。しかし、アポロンVIは自分たちのヒーローであって、アイドルではないのだ。

厳しい言い方をすれば、アポロンVIに親近感はいらない。ヒーローは、自分と同じ立場ではなく、一歩前で道を照らし、悪から自分を守ってくれる存在でなければならない。市民は、その後ろ姿をアポロンVIに求めている。

「それで反省してな、私もあまりバラエティには出ないようにしたし、英雄庁の方でもチェックは厳しくするようになったのだ」
「あ〜、なるほどね」
「あの頃はまだゴッドナンバーズも英雄庁も、市民との距離感を計りかねていたからな……いい教訓になったと思っているよ」

それでこの話は終わりだ、と言わんばかりにアポロニオは止まっていた手を動かし始めた。卵焼きを一つつまんで、口に運ぶ。

「うーん、動けないおいらが言う事じゃないかもしれないけど、お兄ちゃんはやっぱり頑張りすぎじゃない? 多少、抜けたところがあっても……長年の実績があるから大丈夫でしょ。市民からの信頼もその程度で無くなったりしないんじゃない?」
「そうだろうか。まあ、アテナVIIやヘパイストスXIが不在のこの状況でバラエティなどの娯楽にはかかわれんからな。また、落ち着いてそういう話が出てきたらその時に考えるさ」
「そう……」

不服そうに唇を尖らせるヴァッカリオに、目をぱちくりとさせたアポロニオは、少し逡巡した後ににんまりと笑みを浮かべた。

「なに、私生活では天然で抜けたところだらけだ、そこでバランスを取っているから問題ない」
「……そういう問題?」
「事あるごとにお前が可愛がってくれるからな」
「っ!! お兄ちゃん!」
「フフフ、またお前とこうやって笑いながら食事ができるようになって、それだけでまたアポロンVIとして立派に気張っていける」

にこにこと笑うアポロニオに、ヴァッカリオは手で顔を覆って天を仰いだ。やはり、兄には全く敵う気配がしない。

ふう、とヴァッカリオはため息をついた。テーブルに手をついて身を乗り出す。きょとん、とした顔のアポロニオがこちらを見上げていた。その顔の顎を取って、軽く唇を触れ合わせる。

「じゃあ、今夜は可愛いお兄ちゃんをたくさん見せてもらおうかな?」
「!!!」

兄には敵わなくても、恋人としてのアポロニオを転がすことは、今のヴァッカリオには簡単な事だ。顔を真っ赤にして俯くアポロニオを見て、ヴァッカリオはゆるく溜飲を下げるのだった。

そして後日、ヴァッカリオはアポロンVIの口から地上波に恥ずかしエピソードの数々を全国放送されてしまうことになる……。

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