クロスライン

※ラグナロク終了後

前にぼやぼや寝言で言ってた「ヴァの体が治ったから逆に距離を置こうとするお兄ちゃん」と「これまでの反動でめっちゃ甘えん坊になったヴァ」のヴァカアポ。
付き合ってないから勢いで付き合い始めるまで。

☆注意
ヴァッカリオは大人ですがショタです。マジで子供。
カッコいいヴァッカリオじゃなきゃ嫌だ!という人はご注意を。
お兄ちゃんはおろおろしてる


 

「は?」

ヴァッカリオは呆然と兄を見下ろした。今、この人はなんて言った?

固まったままのヴァッカリオのその反応に、驚いたアポロニオは目をパチパチとさせてから首を傾げる。

「どうした?」
「ごめん、お兄ちゃん、なんだって?? もう1回言って??」
「……週末はパトロールがあるから、お前と祭りには行けない、と……」

みるみるうちに、ヴァッカリオの顔が歪んでいく。アポロニオはその顔に心当たりがあって……非常に、動揺した。20年ぶりぐらいにその顔を見た気がする。

「はあ〜〜〜〜? お兄ちゃん、祭り一緒に行こうって言ってたじゃん!」
「ま、まあ……それは、そうだが……」
「なんで!? なんでパトロールの予定入れたのさ!?」
「……他に、パトロールに出る人間がいなくて……」
「本当に!? 違うでしょ、お兄ちゃん率先して手挙げたんじゃないの!?」

ヴァッカリオがダン!と右足で床を踏み叩いた。二人が今、話しているアポロニオの部屋は超高級マンションであり、例えヴァッカリオが床をキックしようが、アポロニオが室内トレーニングをしようが、階下には響かないだろう。
しかし、その音と振動はアポロニオに響く。アポロニオはびくりと肩を震わせた。

ヴァッカリオの怒りを宥めようと、アポロニオは引き攣った笑いを浮かべながら言葉を述べる。が、それは逆効果でしかなかった。

「う……し、しかしだな、空きがあったメンバーは以前から休日返上で働いてくれていて、たまには家族サービスもさせてやらねば……」
「おいらだってお兄ちゃんの家族じゃん! なんでおいらには家族サービスしてくんないの!」

ヴァッカリオの剣幕に、アポロニオは首を竦める。ちら、と顔を伺えばすっかり興奮で赤く染まり、普段から垂れがちなまぶたが引き上げられて大きくなった瞳はアポロニオを見据えていた。

あ、これは泣くぞ、とアポロニオは咄嗟に思った。怒りが爆発しすぎて、感情の制御が出来なくなって泣き出してしまう、癇癪。よく、幼いヴァッカリオがそうだった。

……まあ、ヴァッカリオは泣かなかった。さすがに、31歳にもなって泣く、と言う事はしなかった。しかし、顔は真っ赤なままだし、目に涙の膜が一切ないかと言えば、薄っすらとあるのがアポロニオにもわかる。

アポロニオは困り果ててしまった。まさかここまでヴァッカリオが拒否反応を示すとは思わなかったし、正直、ゴッドナンバーズとして復活した今こそ、そう言った活動にも理解を示してくれると思っていたのだ。

ヴァッカリオの言動が、いつも以上に幼いのもアポロニオの気のせいではない。例えアポロニオの前では一人称が「おいら」になって、少しばかりわざとらしくも甘えたような口調になっているのが常時だとしても……ここまで、子供の様な物言いや、癇癪を起すような事はいくらヴァッカリオでもやらない。

普通なら。平時であれば。

今は、普通ではなかった。
何しろ、ヴァッカリオは冥府から戻って来たばかりで、いわゆる「再誕」したばかりで。
アポロニオは、死んだと思ってあきらめた最愛の弟が復活してきたばかりで。

そういった奇跡の折り重ねがあって、今がある。今は、奇跡の延長線上でしかない。

ヴァッカリオは10年以上もずっと我慢してきたのだ。反抗期も含めたら、それより長く。アポロニオと離れていた間も、そこから仲直りしてしばらくも。体の事があるから、アポロニオとの間に線を引いて、それ以上に踏み込まないように。

それが今、奇跡によって境界線を越えることができるようになってしまった。長年の反動が一気に噴出してしまったのであった。何しろヴァッカリオはそもそもが甘えん坊体質であって、アポロニオに限らずいろんな人間に対して甘え上手な男だ。

人生で最もヴァッカリオを甘やかし、甘え上手に育て上げた兄が目の前にいるのだから、ヴァッカリオだって過去最大級に甘えん坊気質が出てのもおかしくはない……はず。本人も、ここまで感情のブレーキが効かなくなるとは思っていないだろう。それだけ、奇跡にあやかって気が緩んでしまったのだ。

「ヴァッカリオ、その、また今度……」
「今度って、来年でしょ! 今年の夏祭りは、今年しかないんだから!」

もういい! そう吐き捨てて、ヴァッカリオは肩を怒らせたままリビングのソファにダイブした。大きくて高級で、スプリングもばっちりなソファはヴァッカリオの巨体を受け止める。そのまま、ヴァッカリオは黄色と緑色の二つのクッションを両腕で抱えこんで丸くなった。

アポロニオはおろおろしながら、ヴァッカリオに声をかける。ヴァッカリオは答えずに、ただ丸くなったまま顔を背けた。再度、弟の名前を呼ぶ。

「ヴァッカリオ、お兄ちゃんが悪かった、約束したのに破ってしまって悪かったよ」
「……ふん」
「ごめんな、ヴァッカリオのことちゃんと考えてあげられなくて……っ!」

ヴァッカリオから投げつけられた緑色のクッションを顔の前で、反射的に手で落としたアポロニオ。ヴァッカリオはもう一つの黄色のクッションを大きく振りかぶって、全力でアポロニオに投げつける。何しろ全快したヴァッカリオの腕力と言えば、平均的成人男性を大いに上回るものであり。
アポロニオは顔面でボフッ!と言う音と共にクッションを受け止めた。

「……なんで、約束破ったの」

ソファに顔を埋めたまま、ヴァッカリオが低く、呻くような声でアポロニオに尋ねる。

「あー……お前なら、私の……アポロンVIの仕事に、理解を示してくれると思って……」
「理解することと、おいらの気持ちは別でしょ」

ばっさりと切られて、アポロニオは言葉に詰まった。その通りだ、何しろ、幼いヴァッカリオだって「アポロニオお兄ちゃんは忙しいから仕方ないね」と理解は示しても、その後で泣いたり、わがままを言ったり……そうだ、ヴァッカリオは昔も今も、変わっていなかった。

アポロニオは肩を落とす。

「すまない、本当に悪かったヴァッカリオ。お前ももう大人だから、と思って甘えてしまったな。……体が治ったから、もう焦らなくてよいと思ってしまったし……それに、私がいなくても他に誰か、一緒に遊びに行く友人ぐらいいるだろう、と」
「……夏祭りに遊びに行きたいんじゃないの。おいらは『お兄ちゃんと夏祭りに行きたい』って言ってんの」
「それはありがたいことだが……お前も、将来を考えることができるようになったのだから、別に私に構わなくても良いのだぞ?」
「俺が! 行きたいって言ってんの! お兄ちゃんが構うとか構わないとかじゃなくて! このわからずや!!」

ヴァッカリオはぐるり、とソファの上で寝返りを打って仰向けになると、本当に子供の様に手足をじたばたと動かした。そりゃあもちろん、成人男性どころか平均以上の体格を持つヴァッカリオが暴れれば、ソファはギシギシと苦しそうな音を立てる。

「ヴァ、ヴァッカリオ、お兄ちゃんが悪かったから……」
「もー! 悪かったからなに! だってもうシフト入れちゃったんでしょ、今更変更できないじゃん!」
「こ、今度、埋め合わせを……」
「今年の! 夏祭りはぁ! 1回だけなの! もう二度とないの!」

アポロニオは頭を抱えた。思い返してみても、ここまでひどい癇癪をヴァッカリオが出したことは、めったにない。あの時はどうして宥めたかな、と記憶を洗ってみる。

こういう癇癪を起したヴァッカリオを抱き上げて、あやしながら部屋中を歩き回って、疲れ果てて眠るまでいろいろと言って聞かせたような覚えがある。が、今のヴァッカリオを抱え上げることはアポロニオには難しいし、すっかり健康体になったヴァッカリオのスタミナだってほぼ無尽蔵の様なものだ。

「だいたいさ! 俺だってお兄ちゃんの家族でしょ! なんでそこ考えてくれないの!」
「すまない、すっかり大人になったと思ったから……」
「いつも子供扱いするクセに、そういう時ばっかり大人扱いして!」
「ぐっ」

ヴァッカリオの正論に、アポロニオも押し黙る。言われてみれば、まったくもってその通りだ。ヴァッカリオの体が治る前までは、いつも子供扱いして構い倒して、いざ治ったら「もう大人だから大丈夫だろう」と手を放してしまって。

「……お前の体が治って、そのうち良い人もできるだろうに私がそばにいると邪魔ではないかと……」

アポロニオは天を仰ぎながらぽつりとつぶやく。根本的なところは、そこだ。ヴァッカリオにはヴァッカリオの人生がある。体が治る前であれば、ヴァッカリオの残り少ない時間を、少しぐらい自分が貰っても良いのではないかと思っていたところがアポロニオにもあった。なんなら、自分こそがヴァッカリオを支えてやらねばならん、とまで鼻息荒く思いこんですらいた。

しかし、体が治ればヴァッカリオは立派な一人の成人男性だ。むしろ、ゴッドナンバーズと言う超上級職であり、わかりやすく言えばカースト上位の人間である。そんな男、アポロニオが支えてやらなくたって一人でやっていけるだろうし、引く手あまたに決まっている。

アポロニオだって最初はヴァッカリオとやりたい612の事! というリストを握り締めてウキウキしていたのだが、ディオニソスXIIとして表舞台に立ち、マスコミにしっかりと対応し、市民と交流を深め、部下にテキパキと指示を出すその姿を見ていたら……やはり、自分が入る隙間などないのだな、と思ってしまったのだ。リストは、そのまま家のどこかに仕舞い込んだ。もう日の目を見る事もないだろうとアポロニオは思っている。

「なあ、ヴァッカリオ、お兄ちゃんが悪かったから、な? お兄ちゃんができることなら何でもやってあげるから。明日の夕飯をハンバーグにしようか? それともビーフシチューにしようか?」
「別に、夕飯はなんでもいい」

ヴァッカリオはぷくーと頬を膨らませてまたソファの上で寝転がって、アポロニオに背を向けた。

「デザートにプリン……いや、ケーキをつけてもいいぞ。好きなだけおかわりしていいから……」

大人しくなったヴァッカリオのそばにアポロニオはそーっと近づいて、柔らかな髪の毛を撫でてやった。ヴァッカリオは大人しくしているが「そーゆー問題じゃないし」と不貞腐れたままだ。
アポロニオは困ったように眉を寄せ、目じりを下げるとソファの前に膝をついてヴァッカリオの頭を引き続き撫でる。

「では、高い酒を好きなだけ奢ってやるぞ? ワインでもいいし、ウイスキーでもいい」
「……物で釣らないでよ」
「う……だ、だったら、夏祭りではないが、今度、動物園に連れてってやろうか? 水族館でもいいぞ? ほら、ヴァッカリオが行きたいところを言ってみなさい。お兄ちゃんが連れて行ってあげるから」
「……別に。だって、おいら、大人の男だし。それぐらい一人で行けるもん」

ヴァッカリオは「大人の男」の部分をことさらに強調して嫌味ったらしくアポロニオに言った。

寄る辺もなくなってしまったアポロニオは、最終手段を使うことにした。ヴァッカリオがどれだけ癇癪を起しても、なんとか機嫌を直してくれる奥の手。今のところ、これで直らなかったのは10年間仲たがいしたあの時だけだ。

「なあヴァッカリオ、お兄ちゃんは、お前が笑ってくれてないと悲しいのだ。お前を悲しませてしまった事は本当に反省している。次はちゃんと気を付けるから……お兄ちゃんを許してはくれないだろうか」
「…………」

ヴァッカリオがもぞり、と動いて、腕の隙間からちらりとアポロニオの顔を見る。目つきは相変わらず鋭いが、その瞳に映っているアポロニオの顔はほとほと困り果てたもので、なんだかんだでアポロニオお兄ちゃんが大好きなヴァッカリオにとって、その顔はあまりして欲しくないものなのだ。

「パトロールが終ったらすぐに帰ってくるよ。最後の花火には、間に合うかもしれない。なんなら、ベランダから一緒に見ようではないか」
「……本当に、花火、間に合う?」
「……前向きに、努力はしよう。パトロールをする限り、不測の事態は常にあり得るからな。約束はできん」

もう、お前との約束を破るわけにはいかないからな、とアポロニオはいたって真面目な顔で言った。しばらく、黙ってじっ、とアポロニオの顔を見ていたヴァッカリオがごろり、と横になった。そして「ん」と両腕を伸ばす。

昔だったら、アポロニオがその両腕から脇の下に手を通して、ヴァッカリオを抱き上げたのだが。今は、逆にヴァッカリオの両腕にからめとられて閉じ込められる。アポロニオは大人しく、ヴァッカリオの腕の中に納まった。

「あと、お兄ちゃんができることなら何でもしてくれるんだっけ?」
「あ、ああ! 何でもいいぞ、お前の好きなもの、何でも作って――」

アポロニオが言い終わる前に、その開いたままの唇に、ヴァッカリオの唇が食らいついた。

「!?」

驚いたアポロニオが身じろぎしようとするが、ヴァッカリオが逞しい両腕でがっちりと抱え込み、大きな手でアポロニオの後頭部を抑えつけてくる。

「んんっ!!」

ぬるり、とヴァッカリオの舌が口の中に入り込んできて、アポロニオは震えた。その舌は探検でもするかのようにアポロニオの口の中をまさぐり、いろいろなところを舐め上げては刺激する。刺激。

そう思った瞬間、アポロニオは目を見開いた。ヴァッカリオの金色の瞳は前髪で隠されてよく見えず、何を考えているのかもわからない。

親愛の、家族がするようなキスではない。それぐらいはアポロニオにもわかる。息苦しく、頭がぼんやりとしてきたアポロニオでも、わかる。

「……ぷはっ」
「ぁっ、ヴァ、ヴァッカリオ、いきなり何を……っ!」
「お兄ちゃん、何でもしてくれるって言ったじゃん。恋人になってよ」
「はあ!?」

素っ頓狂な声を上げたアポロニオに対して、ヴァッカリオは真剣な顔をしていた。まあ、唇はほんのり尖っていて、まだへそを曲げたままであるというのが前面に出ている。

「だって、お兄ちゃん、俺に家族サービスしてくれないし」
「いや、それとこれとは……」
「前からお兄ちゃんとセックスしたかったんだよ。抱きたい、って思ってた」
「は……」

唐突なヴァッカリオの告白に、アポロニオは絶句した。かと思えば、ヴァッカリオは腕の力でアポロニオを自分の体の上に引き上げる。その途端、アポロニオの下半身に、ヴァッカリオの腰が押し付けられた。……何やら、固いものが当たる。
アポロニオが腰を引こうとすれば、ヴァッカリオの手が伸びて来て押さえつけてくる。そして、やっぱり不機嫌そうな声のまま、「大人の男、だからね」と当てつけの様に低い声で言い放った。

突然の展開に目を白黒させるアポロニオを置いて、ヴァッカリオは深くため息をつく。

「『良い人を作って一緒に祭りに行けばいい』って前言ってたでしょ。だから良い人作った」
「そ、そういう話ではなくてだな!」
「俺にとって『良い人』っていうのはお兄ちゃん以外ありえないの。俺はお兄ちゃんと夏祭りに行きたいってさっきもちゃんと言った!」

ムスッとした顔のまま、ヴァッカリオはアポロニオを責める様に言う。アポロニオはおろおろと狼狽えて視線を彷徨わせていた。

「じゃあ聞くけど、お兄ちゃん、さっき自分にできることならなんでもするって言ったじゃん。お兄ちゃんは俺の恋人はできないことなの? ねえ? どうなの? なんでもするって言ったの嘘だったの??」
「う、いや、それは、その、できない……いや、できない、ことも……ない……気がする……」

ヴァッカリオにじっと見つめられて、アポロニオは歯切れ悪くぼそぼそと呟いた。

「出来ない事もないならいいでしょ。……まあ、いいよ。これからちゃんと恋人として意識させるから」

大きなため息をついたヴァッカリオはアポロニオを解放した。戸惑いながら身を起こすアポロニオだが、ヴァッカリオから逃げるわけでも、殴り飛ばすわけでもない。ただただ、困惑の色を浮かべるだけだ。

「ヴァッカリオ、その……今の話は……」
「本気だから」
「っ!」
「言っとくけど、俺は本気だからな。大人の男で、将来もしっかり考えて、体も治ったから焦らない。じっくりやらせてもらう」

アポロニオが今日、言った様々なヴァッカリオに対する言い訳の言葉を踏まえて、刺々しい声音でヴァッカリオはそう宣言した。

アポロニオは言葉にならない呻き声を上げて後退る。癇癪を超えた先に、あったものは。

「……とりあえず。明日の夕飯は濃いめガーリックライスのオムライス大盛りとデザートにプリン、飲み物はビールとチューハイ!」
「! わ、わかった!」
「それから来週末は水族館! 連れてってくれるんでしょ!?」
「もちろんだとも!」

アポロニオはヴァッカリオのわかりやすいおねだりに顔を輝かせて胸を張った。……さっきの話はアポロニオのキャパを余裕でオーバーしてしまったので、そっと棚上げして、ヴァッカリオの機嫌が直った!という喜ばしいポイントだけをアポロニオは手元に置くことにしたのだ。

その態度を見透かしたヴァッカリオは、浮かれ始めたアポロニオをじろり、と見る。その視線に気づいたアポロニオはこほん、と咳払いして姿勢を正した。

「……お兄ちゃん」
「……なんだ」
「水族館、デートだからね。絶対、予定入れないでよ。いい? わかった? 埋め合わせしてくれるんでしょ?」
「デ、デート……ぐっ……わ、わかった……」

はあ〜とヴァッカリオは呆れたような息を吐いてソファから立ち上がった。同じようにソファから立ち上がりかけたアポロニオの腕を掴み、引き立てるようにヴァッカリオは強引に体を抱き寄せる。

え、と驚いた顔のアポロニオの小さな頭部を手で掴み、ヴァッカリオはまた唇に噛み付いた。二人とも立った状態で、ヴァッカリオはほとんどアポロニオに覆い被さるようにして唇を貪る。

アポロニオはヴァッカリオのシャツを掴み、上半身を反らせて苦しい体勢でふるふると震えていた。……それでも、ヴァッカリオに抵抗らしい抵抗もせず、キスを受け入れているのだから、それはつまり……。

ヴァッカリオはそんな兄の様子に気づいて、すっと金の瞳を細めた。
存分に自分が満足するまで貪って、ようやくアポロニオを解放したときには、兄は顔を真っ赤にしてへなへなと床に座り込んでしまった。腰が抜けたらしい。

「お兄ちゃん、おいら、もう機嫌直ったから大丈夫だよ。……ちょっと怒りすぎたね、ごめんね」
「はっ……は、ぁっ……いや、元は約束を破った私が悪いのだから……」

アポロニオは荒い呼吸のまま、立っているヴァッカリオを見上げる。その瞳は熱く潤んでいて、ヴァッカリオにたっぷりと唾液を注ぎ込まれた口の端からはたらりと糸を引き、唇自体は赤く色づいて艶めかしくてらてらと輝いていた。

その光景にヴァッカリオはたいそう満足した。肩を上下させるアポロニオを見下ろしながら、にっこりと笑いかける。

「もう拗ねてないから。……さあ、明日も早いんでしょ、お風呂入れてくるよ」

床に座り込んだアポロニオを置いて、機嫌を直すどころか一気に上機嫌にまでなったヴァッカリオは、鼻歌を歌いながら風呂場に消えていった。

残されたのは、顔を真っ赤にしたまま呆然と床に座り込むアポロニオ。
無意識に服の袖で唇を拭い、ぬるりとした感触にまた顔から火が吹き出してしまう。

「ヴァッカリオと………………キ、キ、キ、キス、を……………水族館で………デート………………デー……………!!!!」

どうしよう、と床に座り込んだまま、頭を抱えていたアポロニオはしばらく固まって。その後、遠くからヴァッカリオの「ねえ、お兄ちゃん、お風呂一緒に入ろうよ〜」という甘えた声に「兄」としての自分を取り戻してようやく立ち上がることができた。

まあ、次の週末には兄から恋人に強制的に衣替えされるわけだが。それを知っているのは、「大人の男」のヴァッカリオだけ。

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