いちゃいちゃヴァカアポギャグ。開幕一行で結婚している二人が終始イチャイチャしているだけのよくわからない何かです。あと、市民が全員ヴァカアポ民になっている恐ろしい世界設定です。
ディオニソスXIIとアポロンVIが実の兄弟でパートナーで先日結婚しましたおめでとうございます!ということが世間に浸透してから。
英雄庁の広報役はそれぞれがピンで担うことよりも二人セットで任されることが非常に多くなった。
お互いにお互いのキャンペーン内容を厳しくチェックするものだから、なかなか企画がとおらないと広報部の嘆きもある中、久々に許可が下りた企画があった。
「本日は一日署長として、ゴッドナンバーズのお二人、アポロンVIとディオニソスXIIに来て頂きました!よろしくお願いします!」
元気な司会の声に呼ばれ、二人は舞台に上がった。
会場から黄色い悲鳴と野太い歓声が半々ぐらいの非常にバランスが良い感じで上がってきた。
ここはオリュンポスの治安を統括する警察庁本署の駐車場。
ディオニソスXIIとアポロンVIが一日署長を行うと聞いてマスコミはおろかファンの一般市民も大量に押し寄せていた。
見に行けない市民からの熱い要望に答えて、絶賛生放送中でもある。
司会に紹介された二人は、イベント用とはいえしっかりとした警察官の制服を身にまとっていた。
二人の姿が見えた瞬間に、マスコミだけでなく、会場のあちこちから一斉に電子音が鳴り響く。
二人も慣れたもので、笑顔で一通り手を振ったあとに軽く会釈をした。
「さすがのお二人、とてつもない人気ですね!私も毎年こちらのイベントで司会をやらせて頂いておりますが、今年が一番の人出かもしれません!」
司会者のやや興奮した声に、会場からまた歓声があがる。
それでも、アポロンVIがマイクを口に持っていけば、あっと言う間に静まり返った。
「私たちの人気ではなく、各個人の意識の高さゆえと思っております。このような啓発のイベントにたくさんの方が興味を持って頂いているようで、大変感心しました。今日は一日、気を引き締めて頑張りたいと思います」
アポロンVIは曇りなき眼で微笑みをたたえてそう言って、マイクを下げた。
これが違う人なら皮肉か、と野次が飛ぶところだがあいにくと今日は正義と生真面目が服を着て歩いているようなやんごとなきお方だ。
制服姿を見たいだけで集まった群衆も、モニターの向こう側で興奮している人間も、アポロンVIの言葉で大ダメージを負った。たぶん、司会者もマスコミも、今から任命書を渡す署長も、同じく。直立不動のはずの警察官のほとんどが苦しそうに胸を押さえているのは気のせいではない。
「あー……VIは固いこと言ってますけど、まあ、イベントですから。各々、楽しみながら警察庁の業務や治安維持に目を向けていってもらえればと思います」
ディオニソスXIIがフォローをするように続けた。
「俺もVIの制服姿を楽しみにしていましたから」
よく似合ってますよね、とフリーズした会場に水を向ければ、おずおずと拍手が鳴り響いた。
「そうだろうか?あいにく、私の体型だと体の厚みが足りなくてどうにも服に着られているようにしか見えないのだが……」
そう言ってアポロンVIは隣に立つ自身の伴侶でもあるディオニソスXIIを見上げた。
「お前の方がよほど似合っていると思うぞ。肩幅があるし、肉厚だからな。それに、ズボンも足が長すぎて予定より一つ大きなサイズにしたんだろう?素晴らしいな、さすが私の自慢の弟だ。……あとでプロのカメラマンに写真を撮ってもらおう」
あっこれノロケだ、とさきほど大ダメージを負った全員の思想が一致した。ついでにダメージ分がモリモリ回復していくのもわかる。弟兼伴侶のことになると口数が増えるアポロンVIが尊すぎる件について。
「ああ、でもVIは姿勢がいいからさ、本物の警察官にしか見えない。俺はちょっと猫背気味だからね……」
知ってる、それって兄兼伴侶であるアポロンVIに話しかけるときにどうしてもちょっと屈むからクセになってるだけでしょ、とは聞いていた全員の心の声だ。
「そうか、似合ってると言ってくれるのか。嬉しいぞ。……服のサイズはあったのだが、手袋の方が、無くて指先が余ってしまって……」
「本当だね」
右手を顔の前に掲げて大きく広げるアポロンVIと、指先からさらに先のダブついた白い布地をフニフニといじるディオニソスXII。
そのままVIの手を取って流れるように恋人繋ぎに持っていくのを全員めちゃくちゃ凝視した。
ディオニソスXIIの方は確信犯として、そのまま流されたのはアポロンVIも共犯なのか、天然なのか、専門家の意見が待たれる。
「お二人ともね、よく似合っていると思います!さて、このあとの予定ですが――」
このままだと夫婦漫才が終わらないぞ、と危惧した司会のナイスプレーにより、進行は無事に軌道修正された。
少し残念そうな会場の雰囲気にも負けない、司会者のプロ意識の高さが伺える。
いやー尊かったね、うん、拝んだよね、なんて会場のあちこちで囁かれる中、事件は起きた。
舞台からはける時に、アポロンVIが足を滑らせたのだ!
がくん、と落ちる体に悲鳴が上がる。
「危ない!」
が、その小さな体は落ちることなく、後ろから伸びたXIIの両手に抱きかかえられていた。
悲鳴がおさまる前に悲鳴があがるという、君たちどうやって発声してるの、という摩訶不思議な現象は置いておいて。
一つ上の段にいたディオニソスXIIはその腕力でもってアポロンVIを引き上げると、器用に抱きかかえ直して横抱きにした。
つまり、お姫様抱っこだ。
そのまま、まるで重さなどないかのようにスタスタと彼は歩き去っていった。
会場は静まり返っていた、そして誰も身動きできなかった。ただ、今起きたことをもう一度脳内再生しては、幻覚か?と首をひねるばかり。
ここでも、プロ意識の高い司会者が真っ先に正気を取り戻して、イベントの終了を告げた。
止まっていた時間が動き出す。
それでもみな無口であった。
何も、語ることはなかった、たぶん、集団幻覚か白昼夢でも見たんじゃないかと。
帰宅したあとの、夕方のニュースでもう一度あの映像が流れても、誰も彼も夢うつつな気分であったのは仕方のないことだった。
ネットで騒ぎになって大荒れになったのは翌日の朝からだ。なぜなら、朝起きてニュースを見たらやっぱりお姫様抱っこしていてされていた……ということで夢じゃなった!ところどっこいこれが現実!これが現実です!
どちらのファンも恐れ戦いた……!一日署長というレアなイベントで、めったに見れない警察官の制服で、なんか割としょっちゅうやってるような気がするお姫様抱っこが見れるとは!
今年の運はもう使い果たした、と嘆く彼らあるいは彼女らは知らなかった、まだこんなものは序章でしかないということを……。
まだ二人の結婚生活は始まったばかり。
「あれ、お兄ちゃんその写真……」
「ん、この前の一日署長の写真だ。記者がわざわざ届けてくれた」
二人で敬礼をするもの、それぞれ一人で写っているもの、壇上で二人がトークしているシーン、なぜか恋人繋ぎの手がピックアップされている写真、その他もろもろもろもろ。
二人はこんなものもあったな、とキャッキャしながら写真を漁る。
よく、あれだけ爆撃があった中で撮り切ったものだ。さすがプロのカメラマン。
爆撃をした二人はそのような苦労など露知らず、お互いによく似合う、かっこいいなどとイチャイチャしているぐぬぬ。
「ちなみにお兄ちゃんはおいらの警察制服、どこが良かった?」
「そうだな……全部、というところだが、やはり、体格の良さだろう。この胸板の厚さ、肩幅、どれをとっても実に男らしい。白手袋のゴツい手も良いものだ」
うんうん、とうなずくアポロニオ。ストレートな物言いに照れつつも、嬉しそうなヴァッカリオ。
「ではお前は、私の姿のどこが良かった?なんだか、子供が職業体験でもしているようにしか見えないという感想もあったようだが……」
「あー……それは、そう言いたくなる気持ちもわかる」小さなアポロニオの頭を抱き寄せてつむじにキスをする、そして言葉を紡ぐ。「別に悪い意味じゃないと思うよ。お兄ちゃん、可愛いし」
むう、とやや不貞腐れたように口を尖らせる兄を死ぬほどかわいく思う。俺の伴侶がかわいすぎる件について。
結婚する前は、なんだかんだいって「兄」としての威厳を一番に考えていたのかいつでも、ヴァッカリオの前では格好つけであった。
結婚してからは、ずいぶんと柔らかになってくれたと思う。ちなみにどっちのアポロニオもヴァッカリオは死ぬほど好きだ。もちろん、ちゃんと本人にも伝えた。好きという事実は何回伝えたって無駄にならない。
「おいらはねぇ、イベントでも言ったけどやっぱ姿勢の良さかなー。子供っぽいって言っても、お兄ちゃんの威厳は隠しきれないよね、めっちゃオーラ出てたもん。すっごいカッコよかった」
アポロニオが見上げれば、弟が少し上気した顔でいかにカッコよかったか、を語ってくれる。私の伴侶がかわいすぎる件について。
ディオニソスXIIとしては、男らしい言い回しだし、一人称は「俺」だし、アポロニオのことも「兄」あるいは「アポロンVI」と呼ぶ。
いつものふにゃふにゃしたヴァッカリオも好きだが、男らしいディオニソスXIIにもときめく。部下いわくそれってぎゃっぷもえ、ってやつですか、という話だが、たぶんそのようなものではなくて二面性をひっくるめて全部ヴァッカリオであって、なんかまあ、ものすごく愛おしいのだ。
こんな重苦しい愛情を嬉しいよ、といって受け止めてくれるのはやはり弟が良くできた人間だからだろう。私の弟が世界で一番最強だ、うん。
「ああ、あとね……その、白手袋をはめなおす時の手首がすっごい、色っぽかったよ」
「手首?」
うん、とうなずくとヴァッカリオは写真の山から一枚引き抜いてきた。
それはアポロンVIが右手の手袋を左手で引っ張って深く嵌めなおしているシーンだった。よく撮ってたなカメラマン。
「手袋がすぐぶかぶかになってしまうからな。……そういわれてみれば……」
アポロニオがこれまた一枚の写真を引っ張り出してきた。
ディオニソスXIIが手袋を口でくわえて深く嵌めなおしているシーンだった。ほんと、よく撮ってたなカメラマン。
「ふむ、たしかに色っぽい。ふと見たらお前がこんな仕草をしていたから思わず見惚れたぞ」
「……後で怒られるかなあと思ったけどむしろ褒められた」
ね、ね、今度コスプレエッチしよ?とねだる弟に、兄はまんざらでもなくうなずいた。
二人の新婚生活が楽しそうで何よりです。
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