某所地下で極秘裏に行われたとある企画へ寄稿したものです。4P制限なので短めですが、提示されたテーマを全部盛り込んだ個人的にお気に入りの一品です(?)ちなみに終焉終了直後に勢いで書きました。ヴァカアポがいちゃいちゃしてるだけの夏のお話です。
神々の侵攻を払いのけ、街も復興の明かりを灯し始め。アポロニオは、アポロンフォースのビル内執務室からアポロン区の大通りを見下ろした。今日は、毎年行われるアポロン区の夏祭りの日。一時は開催も危ぶまれたが、「こういう時こそ元気が出ることを」と官民一体となって必死に進めてきた結果、無事に行われることとなった。
夕日が赤く街を染める中、待ちきれずに飛び出してきたのか、走っていく幼児を追いかける少年、その後ろをさらに追いかける父親と母親の後姿を見つけた。アポロニオの顔に、穏やかな笑みが広がる。その光景は、アポロニオが守りたかった平和そのものだ。
定時後の静けさに包まれたアポロンフォースとは対照的に、大通りはどんどん賑やかになっていく。アポロニオはぼんやりと約束の相手が来るのを待ちながらその光景を眺めていた。
「ごめん、遅くなった」
「構わない。ちゃんと仕事をしてきたのだろう?」
ビルの明かりから夏祭りの提灯に明かりがほとんど切り替わった頃、待ち人はようやく執務室のドアを叩いた。走って来たのか、シャツの胸元をぱたぱたと仰ぎながら額に張り付いた髪の毛を手でかきあげている。
「もう、体が治ったからって人遣いが荒いんだよ」
ヴァッカリオは唇を尖らせながら、アポロニオの元に歩いてきた。弟のその様子にアポロニオはくつくつと笑いを漏らす。ディオニソスⅫとして表舞台に再び立てるようになったヴァッカリオは、英雄庁からもディオニソスフォース内でもこれまでの分を取り戻すかのように大量に仕事を振られているようだ。……ヴァッカリオはヴァッカリオで、甘んじてその横暴を許している節もある。
なんだかんだのらりくらりのへらりへらりしながらも、隠れ潜む必要もなく堂々とゴッドナンバーズとして働けることを喜んでいるようだ、とはアポロニオの談。まあ、間違ってはいない、と苦笑するのはヴァッカリオその人。
「ヴァッカリオ、おいで」
「なに、労ってくれるの?」
「もちろん。たくさん仕事をして偉いな、ヴァッカリオは」
アポロニオがヴァッカリオを手招きし、高いところにある頭をやや強引に手元に引き寄せて、わしゃわしゃと汗でしっとりと膨らんだクセっ毛を撫で回した。ヴァッカリオは驚いたような声を上げつつも、されるがままにしている。
「じゃあ、もうちょっと労ってよ。ご褒美ちょうだい?」
頭を下げて屈んだまま、ヴァッカリオは目を細めてアポロニオを見下ろした。ちょんちょん、と自分の唇を指で示すと、アポロニオは目をぱちくりとした後に「ここは執務室だぞ……」とあきれたような声を出す。それでも、ヴァッカリオが引かないと分かれば、弟に激甘な兄は頬を染めて恥じらいながら、触れるだけのキスをしてくれるのだ。
そのまま、アポロニオの頬を挟んでヴァッカリオの方からも軽くキスをする。アポロニオはくすぐったそうに笑ってくれて、面白くなってしまったヴァッカリオはつい、鼻の頭や頬、額にいたるまであちこちに唇を這わせてキスの雨を降らせた。
「おい、そろそろ行かないと目当ての物が無くなってしまう」
しばらくそうやってじゃれて遊んでいたが、アポロニオの方から終了のお知らせが出た。ヴァッカリオは名残惜しく思いつつも、中腰のまま固まっていた体をグッと伸ばす。
「なんだっけ、風鈴だっけ、ハンドメイドの」
「ああ。毎年、出店している店舗なのだが……鈴の音が綺麗でな」
「ふーん」
「……今年の夏は、お前とゆっくりできそうだから。記念に新しいものを買おうかと」
そう言ってアポロニオはヴァッカリオを見上げて照れながらも、ふわりと心から幸せを喜ぶような柔らかい笑顔を顔いっぱいに広げた。その笑顔に、ヴァッカリオも釣られて顔を緩める。二人の笑顔を、夏祭りの明かりが窓の向こうから照らしてくれた。
「いいね。風鈴があると夏って感じがするねえ」
自然と、ヴァッカリオの手を取って歩き出すアポロニオに、ヴァッカリオもその手を握り返して続く。すっかり暗くなった執務室から出て鍵を。定時後のフォース内には誰もおらず、廊下の隅々にある非常灯だけが光を放っていた。
「……そういえば、今度、休み取れそう?」
「うむ、何とかなりそうだ。三連休で良いのだったか?」
「うんうん。ポセイドン区のプライベートビーチ、コテージ付きのところ。予約取るからさ、近場で一泊しようよ」
「いいな、ポセイドン区であれば、万が一の緊急時にもすぐに対応できるだろうし」
「英雄庁に確認とったら、それぐらいなら構わないって」
なかなか、ゴッドナンバーズの生活制限は厳しい。特に、様々なごたごたが収まらず、ゴッドナンバーズ自体の稼働率が悪かった昨今は。それが今は、フルメンバーが揃い、稼働率も過去最高と来ている。そうなれば、英雄庁としてもブラック公務員と名高いアポロンⅥのプライベート充実には諸手を上げて賛成してくれる。ヴァッカリオが脅したわけではない、断じて。
「海か……お前と海に行くのは、いつぶりだ……」
「んー……二十年ぐらいじゃない? まあ、今回はさ、兄弟で海遊びするわけじゃなくて、ね?」
ヴァッカリオは意味深に微笑むと、アポロニオの腰を抱いた。するりと腰をなぞるヴァッカリオの手つきに、アポロニオが少しだけ体を震わせる。
「ヴァッカリオっ……そう言うなら、今日の夏祭りも?」
「! もちろん! なんなら、夜だって」
「ふふふ、期待しているぞ」
握りあうだけだった手が、自然と指を絡め合わせてより密着する。
「あー、でも、今は色気より食い気かも。お腹空いたな〜」
「ハハハ、屋台で何か買って食べるとするか」
「お好み焼き食べたいなあ。……ちなみに、ビールは?」
「好きにしろ。今日は、祭りだからな。昔も祭りの日だけは特別だったろうに」
「あ、それ、今も有効なんだ。やったあ!」
二人はお互いの顔を見合わせた後に、楽しそうに微笑みを交わして夏の夜に肩を寄せ合って消えていった。
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