公園ワルツ

ヴァカアポ。あまりにもステキなイラストに脳天をぶっ刺されたので勢いで書いた反省していますごめんなさい。付き合ってるヴァカアポが仕事帰りにスーツのまま公園でワルツを踊る話です。ほんわかイチャラブ。


とある要人警護の帰り道。アポロンVIとディオニソスXII……もとい、アポロニオとヴァッカリオの兄弟はお互い、スーツ姿のままとぼとぼと帰路についていた。とぼとぼ、歩くその後姿はゴッドナンバーズとは思えない。どちらかと言えば哀愁漂うサラリーマンだ。

今回、それぞれ指名されて別の政治家の警護にあたったのだが、どちらも「本当の警護」というよりは接待のようなものだった。てっきり、政治パーティーだと思って向かった先は舞踏会なわけで、呆れるより早く政治家の娘をそれぞれ紹介されたのだ。もちろん、やんわりと二人ともお断りしたが。

ディオニソスXIIは室内勤務でも仮面を外さないから顔の造形が伺えないというのに、よくそれで娘を差し出すものだ、とヴァッカリオは心中でため息をつくことにもなった。と、言う話をアポロニオにすると満面の笑みで「お前はもはやオーラがハンサムだからな!」とわけのわからないことを言うので、ヴァッカリオのもやもやを分かち合ってくれる人間は残念ながら今のところいない。もっぱら、クリュメノスの墓に愚痴を言いに行って発散している。

さて、そんな舞踏会というパーティーであるから、任務中にも関わらずアポロニオもヴァッカリオも多少のアルコールを飲まされることになった。特に、アポロニオは任務中ですから、と何度も断ったものの警護対象の本人に無理矢理勧められて、様々な大人の事情を勘案して折れたという経緯がある。

向かい側で見ていたヴァッカリオはあの古狸、と濃い殺気を一瞬だけ泳がせたが、当のアポロニオに視線で制されて大人しくしていた。その後も兄が男女問わずセクハラまがいのことをされる光景を視界に収めつつ、何とか我慢してようやく地獄の任務を終えたところだ。恋人兼肉親が目の前でセクハラされているのに、よくも我慢できたと自分で自分を褒めてやりたい。

ちなみに、アポロニオもヴァッカリオが多数の女性にダンスを申し込まれる姿を見ていたが……それについては、さすが私の自慢の弟、モテモテだな!と全く気にしていなかった。むしろそのたびに渾身のドヤ視線を送っていたという……。知る人が知れば、ただのノロケだし、他人へのマウント取りなのだが恐らくそのことに気づく人間は誰もいない。二人が恋人同士であることを知っている人間はあの会場にいなかったはず、たぶん。

通じ合ってるのか通じ合ってないのかよくわからない兄弟だったが、今の思いはただ一つ。

「疲れた」
「そうだな……」

そう、とにかく二人とも疲れ切っていた。ヴァッカリオはディオニソスXIIとして復帰した後も、そこまでの経緯の関係上しばらくこういった接待任務は避けていたし、アポロニオも、何回やっても慣れるようなものではないと常々口にしている。

「ところでお兄ちゃん、飲みすぎてない?」

疲れ、以外の要因だと一発でわかるような千鳥足で、ふらふらと隣を歩くアポロニオの手首を掴んだ。周りに誰もいないことを確認してから、手首からするりと手のひらへと移動し、いつも以上に温かい手を繋いだ。アポロニオもそれを拒否することもなく、優しくヴァッカリオの手を握り返す。

「普段、あまり飲まないからな……」
「ちょっと水でも飲もうか」

ちょうど、以前にも二人で弁当を食べた公園があったので、例のユニコーンの遊具に兄を座らせてからヴァッカリオは水を買いに走った。
……まあ、なんというか、本当は飲みすぎでもないし、この程度で潰れる兄ではないけれど、せっかくの二人きりの夜道だから手を繋いでゆっくり帰りたくなったのだ。ここまで我慢した自分へのご褒美である。誰も見ていないから、誰にも文句は言わせない。

「ああ、ありがとう」
「どういたしまして。気持ち悪いとかない?」
「大丈夫だ。私も、そこまで弱くはない」

心配そうな弟の声に、アポロニオはふわりと笑って応えた。……この笑顔が、また周囲の人間を勘違いさせるのだ。ヴァッカリオは心の中で嫉妬の炎が大きくなるのを感じていた。この程度で嫉妬にかられていては、アポロニオの隣に立つにはいくら心があっても足りない。

「それにしても、お前がダンスをする姿は素晴らしかったな。任務中でなければすぐにでも写真や動画に収めたいところだった」
「そうかなあ……」
「そうだとも。お前は長身だから女性と踊ると本当に見栄えが良い。会場で一番高かったんじゃないのか?ダンスに慣れていない女性へのリードも完璧だし、申し込みを受けてからホールにエスコートするまでの所作もまるで貴族か王子様のようだったな。お前が中央で踊るたびに、会場中の視線が集まっていたぞ。もちろん、私はしっかり任務もしていたが、それでもつい目を奪われてしまう程だった」

ヴァッカリオが口を挟むまでもなく、興奮した様子のアポロニオがペラペラといかにヴァッカリオのダンスが素晴らしかったかを並べ立てる。これはヴァッカリオを褒めている、と言うよりも、完全に本人が舞い上がって興奮しているだけだ。目の前で褒められることには慣れているヴァッカリオも、さすがに恥ずかしい。

「お兄ちゃん、ちょっと褒めすぎだよ」
「そうか?まだまだ褒め足りないぐらいだ。……お前と踊る女性がうらやましく思えたよ」

苦笑をするアポロニオはそう言って水を一口飲んだ。ヴァッカリオは、その兄の一言にさきほどまでの嫉妬の炎がフッと消えていくのを感じる。兄は兄で、それなりに嫉妬をしていれくれたようだ。むずむずした気持ちに体をのせて、ヴァッカリオはユニコーンの遊具に座る兄の足元に跪き、手を差し出す。

「では、私と踊っていただけますか?」

その仕草に、ぱちり、と目を瞬いたアポロニオだったが次の瞬間にはさっと顔を赤く染めた。それからまた少しだけ時間をおいてから、ヴァッカリオの手の上に自分の手を置く。

「よろこんで」

了承を得たヴァッカリオが手の甲にキスをして、アポロニオを立ち上がらせる。別に、曲が流れているわけでもないけれど。ヴァッカリオはアポロニオの腰に腕を回して、さきほどの舞踏会のようにワルツのステップを踏んだ。

「お兄ちゃんもダンスすれば良かったのに。誘われてたでしょ?」
「なかなか、私の身長だと見栄えが悪くてな……ほら、女性陣はみなヒールをはいていただろう?」
「そうかなあ、それでも踊りたいって子、多かったと思うよ。お兄ちゃん、ダンスも上手じゃん」
「まあ、警護任務だったから……」

ぐる、とヴァッカリオに回されて、アポロニオはクスクスと笑みを漏らした。

「私は煌びやかな会場で美しい女性と踊るより、何にもない公園だとしても、お前と踊るワルツの方が好きだぞ」
「……お兄ちゃん、そういうとこだよ、ほんと……!」

たまらず、ステップを止めてアポロニオを抱きしめる。ほのかに香るアルコールの匂いが、より兄を魅惑的に感じさせてくれた。
少しだけ体を離して見つめ合うと、アポロニオがすっと背伸びをしてヴァッカリオと唇を合わせた。もちろん、ヴァッカリオもそれに合わせて身を屈める。

「……帰ろっか」
「ああ……続きは、家で、な?」
「お兄ちゃん!」

考えていたことを見透かされたようで、ヴァッカリオは思わず声を上げた。アポロニオは、相変わらず楽しそうに笑っている。
スーツのジャケットを片手に、二人は手を繋いだまま公園を後にした。

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