エプロン記念日

お兄ちゃんの黄色エプロンが公式設定だったから今日はエプロン記念日。というわけで君の本のチラ見せがあまりにも幸せヴァカアポだったので盛り上がってエプロン記念日が制定(?)された事に乗ってエプロンにまつわるヴァカアポ。いつもどーりにイチャラブしてます。ヴァカアポが結婚する話(n回目)。


(うわ、ホールケーキ、それも超巨大なヤツ!)

アポロニオの呼びかけに振り返ったヴァッカリオは、かろうじてその言葉を口に出さずに押しとどめることができた。

「記念のケーキだからな!」
「そうだけど……お、おすそ分けもするよね? ヴァンガードのメンバーにもお兄ちゃんのケーキ食べて貰いたいなあ」

冷や汗を垂らしながら、ヴァッカリオはやんわりと「食べきれないからね? その量は無理だからね??」とアピールしてみる。が、その甲斐むなしく、アポロニオはさらにテンションを上げて「ではもう一つケーキを作るとしよう!」と言うだけだった。

「あ〜これはまた頑張るしかないパターン〜」

いそいそと出来上がったケーキを筆頭に、午後のティータイムの準備をするアポロニオを見ながら、ヴァッカリオは一人ぼやいた。

そう言いつつも、その顔は言葉ほど困っている様ではない。どちらかと言えば苦笑いの類である。

「せっかく作ったのだから、魔法使いとウィズにも食べてもらいたかったのだがな」
「まあ、あの二人は神出鬼没だからねえ……あ、紅茶ストレートでいいよ」
「砂糖もミルクもいらんのか?」
「うん。甘いケーキ食べるからね」

よっこいしょ、とヴァッカリオはアポロニオが用意した席に座った。目の前でアポロニオがケーキに包丁を入れ、切り分けてくれる。……そのワンカットはやはり「ヴァッカリオサイズ」であった。市販のワンピースケーキとはかけ離れた大きさだ。

まあ、これも愛情愛情、とヴァッカリオは自分自身に催眠術を掛けるかのように口の中で何回か呟く。

「じゃあお兄ちゃんのケーキ、頂きます」
「どうぞ召し上がれ」

いつからか(それこそ、20年ぐらい前から)やるようになったお決まりのやり取りを経て、ヴァッカリオはフォークをケーキに挿し入れた。クリームは柔らかく、スポンジはしっとりとした弾力で。間にはフルーツがたっぷりと挟まれている。

フォークに乗ったひとかけらを零さないように気をつけて、ヴァッカリオは大口を開けてケーキを運んだ。

「ん〜! あま〜〜い!!」

予想通りに激甘なケーキだった。まあ、ケーキだし甘くて当然、とヴァッカリオは思い直して口の中のケーキを飲み込んだ。

甘いとは言え、アポロニオの手料理は絶品だ。クリームは溶けるように消えていき、スポンジもパサパサしていない。フルーツの酸味も良いアクセントになっている。

「どうだろうか?」
「ん、美味しいよ。さすがお兄ちゃんだね」

不安そうに瞳を揺らして尋ねてきたアポロニオに、ヴァッカリオはにっこりと笑みを浮かべながら返した。ヴァッカリオの答えに、アポロニオはホッとしたような表情を浮かべる。そこでようやく、アポロニオはエプロンを脱いで椅子に掛けた。

ヴァッカリオはなんとなく、そのくたびれた黄色のエプロンに目を向ける。ヴァッカリオの向かい側に座ったアポロニオはこれまた甘そうな濃厚ホットココアを手にしていた。

「あら、お兄ちゃん、もしかしてそのエプロン……おいらが子供の時にプレゼントしたやつ?」
「ああ、そうだぞ」

裾のところに、太陽の刺繍があるシンプルなエプロン。ヴァッカリオが学校の授業で縫い上げたエプロンだ。もちろん、太陽の刺繍部分は既製品そのもので、ヴァッカリオは手順に沿って布の端を縫って、肩紐と腰紐をつけただけ。

そんな子供のままごとの延長線にあるような、シンプルなエプロン。よく見れば、かなり年季が入ってくたびれている。ヴァッカリオの記憶の中のエプロンはもっとオレンジ色に近かったような……。

「さすがにもう限界じゃない?」
「いや、まだまだ使えるさ。お前のプレゼントを無下にするわけにはいかない」
「無下って……そういうレベルじゃないと思うんだけどな」

呆れた声を出すヴァッカリオに、アポロニオはことさら明るく快活な笑いで返した。

「ハッハッハ、このエプロンは大事なときにだけ使わせて貰っているからな。普段使いは別の安物のエプロンだよ」

アポロニオが言う「安物のエプロン」の方が、よっぽどお高いエプロンであることをヴァッカリオは知っている。そして、この記念のケーキをヴァッカリオと食べるために作る今日は、そのエプロンを使うぐらいにアポロニオにとって大事な日であることを、ヴァッカリオは今知った。

「は〜。お兄ちゃんがそのエプロンがいいと言ったから、今日はエプロン記念日、と」

有名な一句になぞらえてヴァッカリオが呆れ半分に呟けば、アポロニオはさすがに照れ臭そうにはにかんだ。

「別に記念日という程でも無いと思うのだが……」
「まあ……あー、じゃあ、ケーキ終わったら新しいエプロン買いに行かない?」
「む? これはまだ使えるし、他のエプロンもまだまだ大丈夫だぞ?」
「そうじゃなくて……おいらにプレゼントさせてよ、新しいエプロン。新生活始めたんだし、新しいのがあってもいいでしょ?」

ふむ、と考え込んだアポロニオに、ヴァッカリオはふと閃いた。少し、言うのも照れくさいが……こういうタイミングで言っておくのも、良いだろう。

「そんでさ、おいらが買ったエプロンで毎日ご飯作ってよ」

きっと、鈍感なアポロニオに言葉の本意は伝わらないだろうが。いわゆる、「プロポーズ」に類する言葉をチョイスしたヴァッカリオは言ってから恥ずかしくなってきてしまった。

この一軒家に二人で同居を始めてまだ日が浅い。まだこの手の発言をしても許されるだろう。

と、ヴァッカリオは瞬時に計算高く考えていた。それに対してアポロニオは、と言えば。

「それは良いな! では、お前にエプロンを選んで……貰って……っ!」

……時間差だった。最初こそ名案だと言わんばかりに輝かしい笑顔を見せていたのだが、途中から突然、言葉を途切れさせ、俯いてしまった。よく見れば、耳まで赤くなっているのがわかる。

「お、お兄ちゃん……」

同じように顔を赤くしたヴァッカリオがなんとか声を絞り出す。まさか。まさか、アポロニオに本意が伝わってしまうとは思ってなかった。

ヴァッカリオとしては、もう同居もしているし、いまさら、のつもりだった。同居に際してひと悶着あって、そこから恋人の形に納まりを見せて。それはもう、あんな発言は、いまさら、なアピールに違いなかったはずだ。

アポロニオはのろのろと顔を上げると、真っ赤な顔のままヴァッカリオを見た。

「それは、その、そういう意味で言っているのか?」
「そういう意味って……そ、そうだよ! プロポーズ的な意味で言ってんの!」

ヴァッカリオはやけくそ気味に叫んだ。ここで変に誤魔化そうとすると、アポロニオは謎の変換をして斜め上の方向に走っていくから、相違ないようにしっかり意味を伝えなければならない。

チラ、とヴァッカリオがアポロニオの顔を伺えば、アポロニオはわなわなと震えていた。そのまま、口をはくはくとさせたあとに深呼吸をしている。おかげで、ヴァッカリオとしてはほんの些細な発言のつもりだったのに、突然、一世一代の大舞台になってしまった。

「ヴァッカリオ……」
「な、なに?」
「その……新しいエプロン、私に買ってくれないだろうか。一生大切にしたい」
「!!」

ガタッ!と音を立てて椅子から立ち上がったヴァッカリオを、アポロニオは赤い頬と潤んだ瞳のまま、柔からかな笑みをたたえて見上げていた。

「あー、もう、お兄ちゃん……! どうしよう、なんも考えてなかったからなんも……なんも準備してないよ」

昔からヴァッカリオは直情型で、思ったらすぐ行動に移すタイプだったが。それとは別に、極度のカッコつけでもある。

そうやって頭を抱えるヴァッカリオに、アポロニオはくすくすと小さな笑いを零した。

「まずは、ケーキから片付けるか」
「そうだね。……記念のケーキが違う記念になっちゃった」
「まさか! これはこれ、それはそれだ。また別に新しいのを作るぞ!」
「それは今日じゃなくて後日で頼むね!?」

いつもと変わらないやり取りに、ヴァッカリオは頭をかいた。しかし、アポロニオは楽しそうに微笑んでいるし、自分も……たいそう、幸福に包まれていると感じる。

今日は、二人でエプロンを買いに行くからエプロン記念日!

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