サンクス!

ダンジョン40階ボイスバレです。中身はなんもなくていつもどおりにイチャイチャしてるだけ。


 

魔法使いとウィズを見送った夕方。今日はさすがに料理をするのも大変だろう、とヴァッカリオはアポロニオを外食に誘った。……断じて、兄の激甘料理が嫌になったわけではない、断じて。ヴァッカリオは大変に兄思いの弟なので、アポロニオの負担を減らしたくて外食に誘ったのだ、うん。もちろん、ヴァッカリオが全部奢るつもりである。

奢るから、と自分好みのそれなりに洒落たレストランへアポロニオを連れて行く。アポロンVIと言えば知らぬ人間がいない程の有名人。当然、ヴァッカリオは個室を選んだ。

「はい、お兄ちゃんお疲れ〜」
「ああ。ヴァッカリオもお疲れ様」

ヴァッカリオはビールを、アポロニオはミネラルウォーターを選んで軽くグラスを重ねて音を立てた。キンキンに冷えたビールはまさに悪魔の飲み物! ……だが、アポロニオがいる手前、ある程度は控えめにしておかないといけない。

運ばれてきたサラダに手をつけるアポロニオを片目に、ヴァッカリオは名残惜しくもビールのグラスを置いてフォークを手に取った。

「そういえば」
「ん?」
「お前のアドバイスどおり、魔法使いに……その、『サンクス』と言ってみたのだが」

ビールではなく、サラダに手を付けていて良かった。ヴァッカリオは咽そうになったのを何とかやり過ごし、さらに「ちょ、お兄ちゃんマジで言ったの!?」と驚きそうになるのをぐっと堪えた。

あの堅物の兄が本当に言うとは思わなかった。もう少し、アポロニオも肩の力を抜いて生きて欲しいな、と深く考えずに言ってみたのだったが。呆れと揶揄いの気持ちがゼロだったかと言えば、ほんの少しは入っているヴァッカリオの余計なお世話だったはず。

「魔法使いは驚いたようだったが、嬉しそうに笑ってくれたよ」
「……そう。それは良かった」
「お前のアドバイスのおかげだな!」

そうまでストレートに感謝されると、ほんのり揶揄いを混ぜていたヴァッカリオとしては複雑な気持ちになる。まあ何にせよ、魔法使いが大人の対応をしてくれたことに感謝だ。

「仲良く、親しい間柄になったって言うなら、多少言葉を崩すのも親愛の表れってことだよ」
「うむ。私ももう少し、くだけた言葉遣いを学んだ方が良いのだろうな」
「うん、まあ……」

ヴァッカリオは運ばれてくる料理を目にしながら、内心で頭をかいた。

どうにも、ヴァッカリオの兄は人を疑うことを知らない。言葉を変えれば、いろんな意味でピュアだ。もう40を超えたおじさん、だと言うのに。

そんなアポロニオが「くだけた言葉遣いを学ぼう」なんて真面目に取り組み始めたら……その辺の、わけのわからない与太雑誌の事を真に受けるだろうし、あのイタズラ好きの冥府の神が絶対に余計な事を吹き込む。間違いない。

そして、本人が無意識のうちに周りを驚かせるような突拍子もない行動に出るのだ。振り回される周りはたまったものではないし……アポロンVIのイメージが壊れるような事態は、ヴァッカリオとしては何がなんでも避けたい。

「お兄ちゃんさあ……」
「なんだ?」
「えーっと……」

少し悩みながらも、ヴァッカリオは恥ずかしそうに口を開く。

「おいら以外に、あんまくだけた言葉を使って欲しくないな。お兄ちゃんが他の人とたくさん仲良くしてると、寂しくなっちゃう」
「!!!」

ヴァッカリオはわざと子供のような口調で、アポロニオの兄心を全力でくすぐるような言葉を選んでそう言った。

そう、兄の為だけに神器を覚醒させた男ヴァッカリオ。アポロニオの評判を守るためなら、プライドを捨ててアラサーぶりっ子おじさんになることも厭わないッッッ!!!

我ながらキモチワルイ、と鳥肌を立たせながらもヴァッカリオはちらとアポロニオの様子を伺った。

「わかった、お前を寂しがらせるわけにはいかないからな! くだけた言葉遣いは、お前のためにだけ使うとしよう」
「わ、わーい、ウレシイナー」

ヴァッカリオの棒読みに気づくこともなく。アポロニオは鼻息荒くそう宣言してキラキラと謎のお兄ちゃん!オーラを出しながら太陽の様に微笑んだ。アポロニオの背後からペカー!と眩しい後光が差して見えるのはヴァッカリオの気のせい……だと信じたい。

まあ、アポロニオが変な言葉を覚えて、変なタイミングで使って笑いものになるよりは余程マシだ。ヴァッカリオはついでに「二人きりの時だけにしてね」と釘を刺すことも忘れない。アポロニオはさらに喜色満面の笑みを浮かべて頷くのだった。

後は魔法使いとウィズの話で盛り上がり、ゆったりと兄弟水入らずの時間を過ごす。事前に宣言したとおり、支払いはヴァッカリオ持ちだ。そもそも酒を数杯飲んだヴァッカリオに比べればアポロニオの食事代なと微々たるもの。

カードを出してスムーズに支払いを終えたヴァッカリオを店の外でアポロニオが待っている。

「お兄ちゃんお待たせ」
「いや待ってないぞ」

そう言って、アポロニオはちょいちょいとヴァッカリオを手招きする。ああ、これはまた「素晴らしい弟!」、と褒めながら頭を撫でられるのだろうか、とヴァッカリオは苦笑しながら少しだけ体を屈めた。ヴァッカリオの耳に、そっとアポロニオの手が伸ばされる。

アポロニオは背伸びをしてヴァッカリオに耳打ちをした。

「さ……サンクス、ヴァッカリオ」

ヴァッカリオが思わずフリーズしてから、ぎこちなくアポロニオを見れば……恥ずかしそうに頬をかいている、可愛らしい兄がそこにはいた。

「や、やはり、お前相手でも気恥ずかしいものだな。忘れてくれとは言わないが……」
「忘れない絶対忘れない」

何この可愛い生き物、とヴァッカリオはこの場でアポロニオを押し倒さなかった自分の理性が思っていたより鋼だった事に感謝した。

そして、こんな可愛いことをするアポロニオを独り占めできるなら、どんな汚名でも被れる。例え30超えたおじさんのくせに兄に対してぶりっ子する気持ち悪い男だと思われようとも。

「お兄ちゃん、ほんと、他の人にやったらダメだからね??」
「ああ、まだまだ、不慣れな身であるからな。それにお前と約束したのだから、約束は守るぞ!」

アポロニオお兄ちゃんのキラキラ笑顔が夜でも眩しい。アポロニオは約束を破るような男ではないから、ヴァッカリオはほっと安堵の息を吐いた。

「そ、それでだな、サンクス、以外にも良い言葉を教えて欲しいのだが……お、お前と、仲良くなれるような言葉を教えて欲しい……」

今でも十分仲良しだよ!? というヴァッカリオの嬉しすぎる悲鳴は心の中にしまっておいて。もっと仲良くなりたい、というアポロニオのストレートな好意にヴァッカリオは思わずアポロニオを抱き締めてしまった。

「いいよ、たくさん時間はあるからね。もっと仲良くなれるようにおいら頑張るから」
「? 頑張るのは私だぞ?」

ウンウン頷くヴァッカリオの腕の中、アポロニオがきょとんとした顔で弟を見上げている。

……ピュアなアポロニオに、果たしてヴァッカリオはどんな言葉を教え込もうというのか。アポロニオはヴァッカリオと仲良くなれる言葉をご所望らしいので……ヴァッカリオはくふふ、と悪い笑みをアポロニオに見えないところで浮かべるのだった。

 

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