バラ持ちイケメンスマイルお兄ちゃんの妄想

グッズフェア告知のシルエットお兄ちゃん(仮)に早くも解釈違いを感じて(早すぎる)しんどかったので、妄想で補強しました。書いてるうちに自分でもわけわかんなくなったので、内容はとっちらかってます。ごめんね~。


 


バレンタイン近づく、オリュンポリス。どことなく、世間の空気も浮ついている中、英雄庁の「宣伝資料作成室」……通称、撮影スタジオにアポロニオを筆頭に、一部のゴッドナンバーズが集められていた。

何名か辞退(一部はサボりとも言う)した中で、生真面目に英雄庁の要請に応じたアポロニオはタキシード姿で困惑したように眉を寄せている。今日の撮影は英雄庁の求人ポスターだと聞いていたのに、到着するなりこちらに着替えてください、と渡されたのがタキシード。

「お兄ちゃん」
「む、ヴァッカリオか。……お前もこういった要請に素直に応じるように――」
「そうだねおいらもう元気だからね大丈夫だからねー!」

話が長くなりそうな気配を瞬時に嗅ぎ取ったヴァッカリオは兄の言葉を遮って予想される結論を先に出しておいた。そうしないと、アポロニオは一日中ヴァッカリオがいかに素晴らしいかという話を語り続けるだろうし、滑らかすぎる口が滑ってヴァッカリオの恥ずべき「若気の至り」を大公開されかねない。

まだ何かを語りたそうにしているアポロニオを制して、ヴァッカリオが口を開く。

「今回の求人ポスター、ホワイトデー仕様なんだってさ」
「ホワイトデー……そうか、もう来月か」
「そういうこと。まあお兄ちゃんは素直に撮影スタッフの言うこと聞いて、そのとおりにやってればきっと大丈夫だよ」
「うむ、全力で事に当たるとしよう」

……と、ヴァッカリオはアポロニオを「仕事モード」にさせることに成功した、はずだったのだが。

ヴァッカリオの順になっても、まだお呼びがかからない。どうやら、アポロニオの撮影に手間取っているようだ。スタジオの隅で暇そうにしていたヴァッカリオだが、スタッフに焦りが見え始めたのを見て、口を出そうと決心する。

正直、ここにいるだけで面倒くさい書類仕事をやらなくて済むのだから、ヴァッカリオとしては好きなだけ延長して欲しい……のだが、それはそれとして、アポロニオが困り切って右往左往しているのを眺めているだけなのも、どことなく気まずい。

「どうした、なんか機材トラブルか?」
「あ……ディオニソスXII様……それが、その……いえ、お待たせしてすみませんっ!!」

適当に声をかけたスタッフがヴァッカリオに驚いた後、ぺこぺこと体を九十度に倒して謝罪を始めてしまった。ヴァッカリオとしてはそんなつもりはなかったのに、どうやら長身の男が不機嫌そうな顔で声をかけたから、イラついていると思われてしまったらしい。

仕方ないだろう、今日のヴァッカリオはビシッと全身黒のタキシードで決めていて、髪もオールバックにかっちりと固めている。一応、顔出しはNGと伝えてはあるからポスターに加工する際には後ろ姿などでいい感じにデザインしてくれるとヴァッカリオは信じていた。

普段のへらへらした態度と声であればまだしも、撮影、ということで最初から「真面目なディオニソスXIIモード」に入っているヴァッカリオは、その長身もあって意外と他人から怖がられやすい。特に、小柄な人間が多いヘルメス区やアポロン区の人間からは。

「あー、怒ってるわけじゃない、アポロンVIがずいぶん撮影に手間取っているようだから、何かあったのかと」

頭をかきながらそう伝えると、心配そうに二人を見守っていた他のスタッフがそうっと近寄ってきて、口を挟む。

「なんだか、アポロンVI様のポーズと表情に監督が納得いかないみたいで……」
「へえ、珍しい。あの人、撮影慣れぐらいしてるだろうに」

さんきゅ、とヴァッカリオは二人に告げて、スタッフの輪をかきわけて監督と深刻そうに話し合うアポロニオのもとにたどり着いた。

「おに……アポロンVI」

お兄ちゃん、と呼びかけそうになって慌ててヴァッカリオは呼び方を変えた。俯いていたアポロニオが顔を上げる。いつもと違う、困り切った弱弱しい声が「XII……」と縋るように名前を呼んだ。

「……どうしたんだ」

ヴァッカリオは湧き上がる様々な気持ちに必死に蓋をして目を背けて、低く厳しい声で尋ねた。アポロニオがこれまた弱弱しい笑顔を浮かべながら、ヴァッカリオに説明をしてくれる。

「その、監督の指示である『女の子が悲鳴をあげるようなイケメン面』というものができなくて……」
「あー……」

ヴァッカリオは思わず、監督を睨みつけそうになってギリギリで踏みとどまった。このポスターの企画テーマは『ホワイトデー』。であるからには、監督がそういう注文をつけるのも、職務として仕方のないことだろう。

ちら、と監督をヴァッカリオがうかがうと、少し動揺したような表情を見せつつも「ホワイトデー用ですので」と言い訳のようにちいさく呟いた。

さて、困ったものだ、とヴァッカリオは首をひねる。アポロニオは確かに様々なポスターに採用されてきたが、それは「悪を許さないヒーロー」や「市民を見守るヒーロー」であって、「自分のかっこよさを見せつける」というものは経験がないのだろう。

監督を説得するか、アポロニオを指導するか。悩んで、ヴァッカリオは後者を選んだ。アポロンVIに怯みもせずにダメ出しを続ける監督がそう簡単に説得できるようには思えない。だったら、まだ扱いやすいアポロニオの方が楽だ。

「ちょっとアポロンVIと話してくる……お兄ちゃん、こっち」

監督に声をかけて、ヴァッカリオはアポロニオをスタッフ達から離れたところに手招きした。ここなら、声は他の人間には聞こえないだろう。

「……すまないヴァッカリオ、迷惑をかけて……お前の撮影時間まで食い込んでしまった」
「ああ、気にしないで。おいら顔出しNGでポーズだけ撮影する予定だから、他の人より楽だろうし」

すっかりしょぼくれてしまったアポロニオに憐憫の情が募る。いつも元気な頭の謎のアンテナヘアも不思議なことに本体にあわせてへにょりと萎びてしまっていた。これは重症だ、とヴァッカリオはアンテナヘアの様子を見て気を引き締める。

「お兄ちゃん、イケメンな顔、難しい?」
「……そうだ。そもそも、私のような子供の顔で、イケメンも何も……」

ちら、とヴァッカリオを見上げたアポロニオは、満足そうにうなずきつつ、ため息もつく。

「イケメン、というのはお前のような者のためにある言葉だ。お前の顔立ちなら、誰が見たってイケメンだと騒ぐだろうに――」
「うんまあそれは否定しないけど」

また話が長くなりそうなのをヴァッカリオは必死に遮った。自分の顔が世間一般でいうイケメンに当てはまるのはとっくに知っている。アポロニオだって、世間一般的にはイケメン……というか、美形の部類である、ということにも知っている。たぶん知らないのはアポロニオ本人だけだ。

「こう……おいらがいつもやるみたいな笑い方、できる?」

ヴァッカリオは口を引き結び、口角をあげてみせた。ウェスター達にやんや言われている「イケメンスマイル」だ。いつからこの笑い方をするようになったのかヴァッカリオは全く身に覚えがないが、とりあえずこの笑顔を見せればたいていの人間は「落ちる」事を知っているので、有意義に使わせてもらっている。

「ヴァッカリオ……」
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん、おいらにときめいたら意味ないんだって!」
「ハッ……お、お前があまりにも……か、かっこ良すぎて……つい……」

ぽぅっとヴァッカリオの顔を見つめるアポロニオの両肩を慌てて揺さぶって現実に戻した。そうじゃない。アポロニオには、この笑顔を学んでもらわなければならないのだ。

「とはいえ、お前のその笑い方がをすぐにマスターするのは……」
「まあそれができればここまで長引いてはないよね、撮影」

うーん、と悩んでいたヴァッカリオは、ふと撮影用の小道具にあった一本のバラを見つけた。それをひょい、と取ってきて、アポロニオに渡す。

「これは?」
「雰囲気出す小物。これ持って、ちょっとこっち向いて笑ってみて」
「こうか?」
「……おかしい、見た目は完全にホストなのになんでこんなに笑顔だけ母親感があるんだ」

スタッフ達の目があるのも忘れて、ヴァッカリオは頭を抱えて座り込みそうになった。バラを片手にタキシード姿でこちらを見る全身像は完全にどこぞのホストのようなのに、笑顔がそれをすべてぶち壊している。どうしても、「市民を見守るヒーロー」としての、慈しみがあふれてしまっている。これではキャアキャア言われるどころか、バブバブ言われてしまうに違いない。

「かといって、おいらを意識して、と言ってもそれはそれでお兄ちゃん可愛くなっちゃうもんねー」
「? 可愛いのはお前のほうだぞ???」
「はいはい、そうですねそうですね。そもそも可愛いお兄ちゃんの笑顔とかポスターにさせるわけいかないし」

当然だった。ヴァッカリオは独占欲の強い男なので、自分に向けられた笑顔を誰かに見せるのなんて冗談ではない、と思う人間であった。例えそれが職務の一環であったとしても言語道断である。

「んー……じゃあお兄ちゃんアポロンVIとして、目の前にヴィランと人質がいます。その状態でヴィランを笑い飛ばす……ないな、お兄ちゃんそういうことしないもんな。やるのはおいらだけだな」
「ヴァッカリオ、そう悩むようなら、私の撮影は飛ばしてお前の撮影をだな……」
「……あ」

ヴァッカリオはふと閃いた。もう時間も押していて、ポーズだけとはいえヴァッカリオの撮影時間も少なくなってきている。このままでは、次のディアーネことアルテミスVIIIの撮影時間まで食いつぶしてしまうだろう。

ちなみに肝心のディアーネ本人は澄ました顔で椅子に座ってこそこそ話を続けている二人をじっと見ているし、撮影時間のことなんてすっかり忘れて「永遠にそうしていて!!!!」と心の中で叫んでいた。自分の撮影時間全部食い尽くして全く構わないんで!!! ずっとやっててください!!!

「思ったんだけどお兄ちゃん、一緒に撮影しちゃう? 後で個別にポスター加工して貰えばいいと思うし」
「お前がそれで良いのなら! ヴァッカリオと一緒に撮影できるだなんて、私は非常に嬉しいぞ!」
「おいらもウレシイナー、っと。ちょっと監督と打ち合わせしてくるから、お兄ちゃん休憩取りなよ」

何やらこの難しい問題をヴァッカリオが解決してくれるようで、アポロニオはさすがヴァッカリオ!とキラキラした眼差しを向けた。今日もお兄ちゃんのヴァッカリオ列伝に新たな1ページが刻まれていく。

 

休憩を挟んで撮影再開。そこにはバラを一本ずつ持った二人が、向かい合わせで立っていた。まるで鏡のようである。

「こちらに視線くださーい!」

カメラマンの声に合わせて、ヴァッカリオはバラの花を口元に添えて、慣れたように口角をあげてふっ、と笑う。それを見ていたアポロニオも、何か合点がいったかのように、ヴァッカリオの方に視線を飛ばしながらも、同じポーズをした。

「いいですねー! 撮りますよー!」

何度かフラッシュが焚かれ、細かく監督の指示が飛ぶ。ヴァッカリオがそのとおりに動けば、ワンテンポ遅れてアポロニオも追従した。足の開き方、肩の角度、バラの高さ……。

「はい、お疲れ様でしたー! ……いや、びっくりしました、さきほどと全然違いますね」

ニコニコとした顔の監督が二人に近づいてくる。それに対してヴァッカリオは肩をすくめただけで何も言わず、アポロニオの方だけが「迷惑をかけてすまなかったな」と苦笑いしながら謝罪した。

「二人まとめてで撮影が終わったので、スケジュール的にも助かりました」
「そいつは良かった。じゃ、俺はもう帰らせてもらう」

ひら、と手を振ってすたすたと歩きだすヴァッカリオを追いかけるように、慌ててアポロニオも追いすがる。もちろん、周囲のスタッフに挨拶をしていくことも忘れない。

「……む、アルテミスVIIIか。待たせてすまなかったな」
「構わん。興味深いものを見させてもらったぞ」
「そうか。よくわからないが君の参考になったのなら幸いだ」
「ああ、参考にさせてもらう」

新刊の、という謎の言葉がアポロニオの耳に一瞬だけ入ったが、ヴァッカリオが自分を呼ぶ声に紛れてアポロニオはすぐに忘れてしまった。

ヴァッカリオと一緒に、スタジオから着替え用の控室までの廊下を歩く。

「ヴァッカリオ、よく対策を思いついたな」
「ん、まあね……お手本が向かい側にあれば……っていうか、向かい立つ相手がいれば、お兄ちゃんって相手に合わせようとするでしょ。負けず嫌いだし」

そのヴァッカリオの言葉に、アポロニオは目をぱちぱちと瞬かせて、そうだろうか、と小さく呟いた。

負けず嫌い、なのは自覚がある。常にアポロニオはすべてのヒーローの模範となり、トップでなければならなかったから。そういう意味では負けず嫌いであり、負けが許せない人間だった。

隣でゆったりと自分に歩調を合わせて歩くヴァッカリオの顔を見上げて、アポロニオは考える。

「私は、お前に合わせていたのか?」
「うーん、まあ、そんな感じ?」
「……お前と、お揃いになっていたのか?」
「……そうだね。お兄ちゃん、おいらと一緒って、好きだよね」

アポロニオは難しそうに黙り込んだ後に、急に頬に朱を差した。今更、何かの羞恥が刺激されたらしい。

「お、お前とお揃いはうれしいが……お前のような美丈夫のふるまいを私がやったところで、道化にしかならないのでは……!?」
「そんなことないって、お兄ちゃんもじゅうぶんカッコよかったよ、イケメンだよ」
「しかしだな……う、ポスターの撮影をやり直してもらおうか」
「もう、そんなこと言ってスタッフに手間かけさせたらダメでしょ。……それにお兄ちゃん、おいらとお揃いのポーズと顔してるポスター嫌なの? おいらはお兄ちゃんと一緒でうれしいからさ~さっき、スタッフに加工前の二人揃ってるバージョンのデータ後で送ってもらうようにお願いしたよ?」

ヴァッカリオは来た道を戻ろうとするアポロニオをとっ捕まえて、そのまま反論を許さないようにさらさらと喋り倒した。だいたいの場合、ヴァッカリオの「おねだり」に反論するアポロニオはいない。そこまで織り込み済みだ。

案の定、アポロニオは何かを喉に詰まらせたような変な声をあげたあと、小さくため息をついた。

「お前がそう言うのなら」
「やった。後でお兄ちゃんにもデータあげるよ」

鼻歌交じりにご機嫌なヴァッカリオと異なり、アポロニオは嫌そうに顔をゆがめた。よほど、自分のビジュアルに自信がないらしい。

とはいえ、プロの撮影スタッフによって仕上げられたポスターは「アポロンVIの新しい一面」として市民に高く評価されたという。ただ、そのポスターが貼ってある道をアポロニオはなるべく通らないようにしていたし、周りから声をかけられたら「アポロンVIとして」いつも通りににこやかに対応するだけだ。

「……自分だけが写っていると、本当に変な気分になるな……」

ヴァッカリオと同じように、口を引き結んで口角をあげ、カメラに向かって流し目をしている自分。そんなポスターから目を外して、アポロニオはそっと、自分の端末を開いた。そこには、ヴァッカリオから送られた二人で写っている元データの写真がある。

その写真の中ではアポロニオはポスターと同じように笑っているのに……どことなく、楽しそうな雰囲気が漂っている。写真を愛おしそうに撫でるアポロニオの指先にも、写真の中の自分が「楽しい」と思っていることが伝わってきた。

「……ま、まあ、なんにせよ、撮影は終わったのだからもういいだろう……」

次の撮影で同じようなテーマはやめてほしい、とアポロニオは英雄庁に頼み込んでいた裏で、ディオニソスXIIことヴァッカリオも同じように頼みこみ……もとい、殴り込みをしていたとか。

アポロニオの端末の壁紙は、しばらくヴァッカリオと二人で撮影に臨んだ際の画像が設定されていたらしい。

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