ブンレツ☆バース

ヴァカアポ3Pの話の続きです。ギャグ。オメガバースならぬ「分裂バース」というアホみたいな奇病が流行ってるオリュンポリスで、ヴァッカリオハーレムを築いた(?)お兄ちゃんがウキウキハッピーになってしまう話……なのか?よくわからないけど、まあギャグです。


※オリモブキャラが結構しゃべります(CP要素はなし)

 

 

 

 

およそ1か月に渡る「外部研修」を終えたアポロニオは、迎えの車の中で大きく息を吐いた。その様子に、運転手を務めている副官が軽い笑い声をあげた。
 
「お疲れですか?」
「ああ……こうも長期間、違う文化に滞在するのも初めてだからな……」
「旅行自体も久々なのでは?」
 
そう指摘されたアポロニオは、苦笑しながら「学生時代以来だ」と答えた。つまり、アポロニオがアポロンVIとして覚醒した、あの時以来。おおよそ、二十何年振りの遠出になる。
 
アポロンVIともなると、なかなかオリュンポリスを離れることができない。ゴッドナンバーズが増え、安定していた時代にはポセイドンIIや当時のデメテルVなどが同じように外部研修と称していわゆる「ご褒美旅行」としてあらゆる周辺ポリスを周遊していたこともあった。アポロンVIはまだ若手、中堅どころであり、外に目を向けるよりもオリュンポリスでゴッドナンバーズとしての地盤固めや様々な経験を積むことを重要視されており、一度も周遊に出たことはない。
 
あれから、様々な要因が重なってゴッドナンバーズに欠員が発生し、同時にプロメトリックの活動も活発になった影響から、アポロンVIは外部研修の機会を逃していたのだ。
 
それが今、ゴッドナンバーズはフルメンバーが揃い、プロメトリックも討伐され、アポロンVIがオリュンポリスを離れても問題ない環境になりつつある。何より、昔のアポロンVIに経験を積ませるために先輩ゴッドナンバーズがオリュンポリスを離れたのと同様に、若手が増えた今、アポロンVI不在でもゴッドナンバーズ達が問題なく職務に励めるように経験を積ませる必要もあった。
 
そういった理由が重なって、アポロンVIことアポロニオはこの1か月オリュンポリスを離れて周遊に出ていたのだ。もちろん、一応研修であるから、各地の警察や刑務所などの施設を視察しつつ。ご褒美旅行としての側面として、各ポリスのグルメを楽しみ、土産を大量に買い求め。
 
ちなみに、旅立つ前にリベルティーナからのアドバイスで「土産は宅配便でアポロンフォース宛てに送った方がいーわよ」と言われていたため、アポロニオは荷物を気にすることなく、片っ端から土産物を買い続けた。すべてアポロンフォース宛てに送り続け、この1か月でアポロンフォースの倉庫はずいぶんと雑多なものが増えてしまった。まあ、アポロンフォースのメンバーは宅配便を受け取って倉庫に搬入するたびに、ああ、アポロンVI様は旅行を楽しんでおられるようだなあ、とほのぼのしていたのだが。
 
アポロニオは、副官からオリュンポリスの近況や、アポロンフォースの状況を教えてもらう。もちろん、周遊中もある程度の情報は貰っていたが、それでも現場の確かな情報は貴重だ。
 
「――というわけで、おおむね、問題はありませんでしたよ」
「……それは、問題がなかったと言っていいのだろうか」
 
聞けば、アレス零やゼウスIの暴走に始まり、新ハデスIVや新ポセイドンIIのおっちょこちょいで余計に混乱が加速し、ディオニソスXIIが余計な茶々を入れて最終的にアフロディテIXがキレる、ということが多々あったようで。アポロニオは頭痛を覚え、こめかみ部分に手を当てて揉んだ。
 
「まあ、確かにトラブルはありましたけど……ほぼ解消されていますし、何か本当の被害が出たわけでもありませんから」
 
アフロディテIX用に某ポリスで有名な若者向け化粧品セットを買っておいてよかった、とアポロニオは嘆息した。
 
しかし、実際、アポロンVIが手や口を出さなくても、オリュンポリスの平和は(それなりに)維持できるということがわかった。そのことに、アポロニオは少しだけ寂しさを感じる。この1年で、ゴッドナンバーズの世代交代が一気に進んだのだ。
 
その空気を敏感に察した副官が、努めて明るい声で「アポロンVI様の決済が必要な書類はたくさん溜まっていますし、他フォースからも鍛錬の依頼が来ていますので」と話しかけてくる。それに対して、アポロニオは苦笑をこぼした。
 
「気を遣わせてしまったな」
「いえ、本当のことですから。アポロンVI様にはまだまだ現役で頂かないと張り合いが悪いというものです」
「ハハハ、善処するとしよう」
 
アポロニオはそう笑って、車窓の外に目を向ける。見慣れたオリュンポリスの街並みに、帰ってきたな、と改めて肩の力を抜いた。
 
「そういえば、アポロンVI様が不在の間に、妙な病が流行していまして」
「病? 報告書になかったぞ?」
「ええ、まあ、実害があまりないのと、罹った人間からの報告もなかったので……発覚し、英雄庁が詳細を把握したのがつい最近のことです。そちらに送る報告書には掲載が間に合わなかったのでしょう」
 
ほう、とアポロニオは顔を引き締めて、副官に話の続きを促した。病ともなれば、医療や疫病を司るアポロン神を戴く人間として、聞き流すことはできない。しかし、副官は笑いを我慢するような微妙な顔をして、口を開いた。
 
「なんと説明したら良いのか……愛し合っている者同士でしか発症しない病気なのですが」
「性病か?」
「それが、そうとも言えないものでして。……罹った方が寂しくなったり、相手に構ってほしくなったり、そういった気持ちが高まると愛している相手が複数人に分裂するという奇病です」
「……は?」
 
アポロニオは素っ頓狂な声をあげた。思わず、運転席のシートを掴んでバックミラー越しに副官の顔をまじまじと見る。副官はやはり、なんとも言えない微妙な表情を浮かべていた。
 
「それで、まあ、分裂するのですが。罹った人間が満足すると、分裂体の方は消失するようです。また、分裂した側の体に影響等は一切なく……分裂した瞬間から、とにかく相手を愛さないといけない、という使命感にかられるようで」
「……な、なんだ、その、妙な病気は……」
 
アポロニオは目を泳がせながら、どもりつつ副官の説明にツッコミを入れた。
 
――そう。その症状、めちゃくちゃに身に覚えがある……! ありすぎる!
 
あれは夢ではなかったのか、いつもの謎不思議空間ではなかったのか、とアポロニオが大混乱に陥る中、副官は続きを話してくれた。
 
「ですから、結局、分裂したとしても悪事を働くわけでもないし、罹った側も満足すれば完治してしまうので。奇病ではあるものの、特に悪影響が出るわけでもない、という状態です。英雄庁としては近々、公式見解を提示してあとは静観するようですが」
 
治療薬をわざわざ開発しなくてもよさそうですしね、と副官は続けた。むしろ、病に罹って二人の愛が深まる事例しか報告されていないのだから、最近はカップルや夫婦の間でその病に罹りたいという謎のブームが起きているとか何とか。
 
「そ、そうか……いや、特に人体に害がないというなら、良いのだろう……」
「……むしろ、出生率が上がりそうだという予想があるぐらいで、政府としてはもっと流行って欲しいという思惑もあるみたいですよ」
「……わけのわからない奇病をそう簡単に流行らせるな」
 
アポロニオは新しい頭痛を覚えて、シートに沈み込んだ。あれが奇病だとすれば、アポロニオは知らずに罹っていたことになる。が、今の副官の話を信じれば、満足して分裂体が消えた時点で病は完治しているはずだ。
 
英雄庁の方でも対応が決まっているなら、わざわざ事例報告しなくてもよいだろう、とアポロニオはそっとあの時の記憶を頭の隅に追いやる。恐らく、罹った人間からの報告や通報がなくて奇病の把握が遅れたのだろう。他のカップルやら夫婦やらがどういう事になったのかをアポロニオは知らないが……自分と同じような展開になったのであれば、他人に言い触らす事もないに違いない。少なくとも、アポロニオはたった今、事例報告はしない、と心に決めたばかりだ。
 
「ああ、そうそう」
「なんだ?」
「感染経路は不明なのですが、一度感染したとしても抗体ができるわけではないので、再感染することもあるみたいですよ」
「……なんだと」
 
再感染、という単語にアポロニオは呻いた。また、あの状況に陥ってしまったら、大変なことだ。そう、とても大変なことだ……!
 
むむむ、と唸るアポロニオに副官はちらり、と視線を向けた後、もう一つのとっておきの情報を出す。
 
「あと、寂しさが募れば募るほど、分裂体が複数体になるという症例もいくつか報告されていまして……」
「なんだと!?」
「……アポロニオさん、気を付けてくださいね」
 
アポロニオの恋愛事情を把握している副官は半笑いしながら告げた。アポロンVIとしては立派な上司であるこの男が、アポロニオ個人としてはどうにも恋愛下手で、わかりやすすぎる人間であることを知ったのは、つい最近のこと。この後、そのままアポロニオの自宅へ送り届けることになっているのだが……この上司の慌てぶりを見れば、どうなるかどことなく想像がつく。
 
「外部研修明けですから、二日は休みを入れておきますね」
「む、そうか、いや、しかし、私が不在の間に溜まった決済などが……」
「それらは大丈夫です。二日休めば、そのまま週末ですよね? 週明けから出勤再開の方が、キリがいいですよ」
 
そうだろうか、と悩むアポロニオに副官はもう一度念押しをした。自分の予想が正しければ、アポロニオは間違いなく明日、出勤できないだろうし、何ならその次の日も怪しい。
 
……というより、ディオニソスXIIがこれ以上増えられても、困る。オリュンポリスの治安を考えれば、英雄庁は喜びそうだが、あの兄溺愛系ディオニソスXIIがうじゃうじゃいるオリュンポリスなんて、違う意味で治安が悪化しかねない。
 
アポロニオを家の前で下ろし、副官は「明日、明後日はどうぞごゆっくりしてくださいね」ともう一度念押ししてからアポロンフォースに戻っていった。
 
副官の車を見送ったアポロニオは、自宅のカギを差し込む。その瞬間、扉の向こうからドタドタと思い足音が「複数」聞こえてきた。まさか、と思いながら恐る恐る玄関のドアを開く。
 
「ただい――」
「お兄ちゃん!」
「おかえり!」
「待ってたよ!!」
「っていうか、早く来て来て!」
「めっちゃ大変な事になってるんだけど!」
「おーい! お兄ちゃん帰ってきたぞー!」
 
……すごかった。廊下にみっしりとヴァッカリオが詰まっている。そしてアポロニオが衝撃の光景に固まっていると、焦れたヴァッカリオその1がアポロニオを抱え、ヴァッカリオその2、その3が靴を脱がし、その4が玄関の扉を閉め、その5から以下略がアポロニオを抱えてバケツリレーのごとくリビングへと兄の体を運ぶ。
 
「ヴァ、ヴァッカリオ……!」
 
リビングにも、所狭しとヴァッカリオがいる。廊下から戻ってきたヴァッカリオ達も含め、みながみな、微妙な顔をしていた。
 
「お兄ちゃん、そんなに寂しかったの?」
 
ヴァッカリオその……いくつか数えるのも面倒くさくなったヴァッカリオ達の一人が、重々しく口を開く。
 
「さびし……」
 
アポロニオは言いかけて口をつぐんだ。まさに、これは先ほどまで副官から報告を受けていた奇病に違いない。そして、それは、罹った側が寂しければ寂しいほど、分裂体が増えるのだとか。
 
アポロニオはリビングの中をぐるりと見渡した。つまり、この人数がアポロニオの寂しさのバロメーター。
 
寂しい、という感情と無縁である男、アポロニオ。それは我慢癖の影響で、単にアポロニオ自身が自覚できないだけだ。自分が今、寂しがっているのかもわからない、それがアポロニオ。ところが、今日は目の前にまざまざと自分の感情を見せつけられている。
 
口をぱくぱくとさせて、アポロニオは言葉に詰まった。この光景が広がっている、ということは、自分はずいぶんと寂しがっていたのだろう。ヴァッカリオに会いたくて会いたくて仕方がない、と。しかし、自覚はない。自覚がないから、「寂しかった」と口に出すこともできない。アポロニオは、正直者だから。
 
そんなアポロニオの戸惑いと困惑に気づいたヴァッカリオ達は、即座に方向性を修正する。ソファに座るアポロニオの両側に座り、背後に何人か立ち。向かい側に何人か座り、残った人間はアポロニオの荷物を片付けに行ったり、アポロニオ用の激甘ミルクたっぷりホットココアの準備にいったり、寛げるように部屋着を準備しに行ったり。
 
「おいらはお兄ちゃんがいなくて寂しかったな」
「し、しかし、電話もメールもしてたではないか」
「でもこうやってお兄ちゃんに触りたかったもん」
「顔もちゃんと見たかったしね」
 
ゆっくり、アポロニオが言葉を咀嚼できるように時間を作りながら、ヴァッカリオはぽつぽつと話す。最強の男ヴァッカリオは、同じ失敗は繰り返さない。アポロニオの頬が羞恥と照れに徐々に赤く染まっていくのを見ながら、ゆっくり、を何回も心の中でつぶやく。
 
「こ、こんなにたくさんお前たちがいると……夕食はどうしたものか……!」
 
アポロニオはたくさんのヴァッカリオ達を見渡しながら、少しばかり興奮した様に言った。ヴァッカリオ達はひっそりと視線を交わす。アポロニオお兄ちゃんは、家に帰ったら真っ先にヴァッカリオに夕食を作ってあげたかったらしい。OK把握した、と一同の心が一つになり、さくっと役割分担を決める。……何しろ、分裂体も含めてすべて同一人物なのだから、考えることはまるっとわかる。
 
わかるが故に、一瞬だけ、最高の役割を誰が担当するかで険悪な雰囲気になりかけたが、ヴァッカリオその4あたりが咳ばらいをしてその空気は霧散した。アポロニオの前で、喧嘩して心配をかけるなど、とんでもない!
 
「夕食さ、お兄ちゃんが作れるだけ作ってよ」
「おいら卵焼きたべたーい!」
「ミートオムレツも!」
「足りない分はデリバリーたのも?」
「ピザ食べたい!」
「ねえ、お酒飲んでもいい?」
 
部屋にひしめき合う、無数のヴァッカリオ達が。アラサーおじさん集団が。次々に、子供っぽい口調でにこにことした笑みを浮かべながら、アポロニオに甘える。甘えると言ったら、盛大に甘える。
 
「お兄ちゃん、足りない分は買い出し行こうよ、おいら荷物持ちするから」
 
誉れ高き荷物持ちの役目は、ヴァッカリオその1が担当することになっていた。あの一瞬で、脳内バトルロワイアルを優勝したヴァッカリオその1は、ほかのヴァッカリオよりも浮ついた空気でアポロニオの両肩に手を置く。
 
「あ、ああ……では、スーパーに買い物に行くか……」
「お兄ちゃんがお買い物行ってる間にお留守番してるね」
「おいらはお風呂の準備するよ」
「ピザとか注文するね! 何か欲しいものある?」
「じゃあ、近くのパティスリーにケーキ買いに行ってくる!」
 
アポロニオが一つ喋れば、ヴァッカリオ達がヒヨコの様に次々とピヨピヨ囀る。……世間一般的にはアラサーおじさん集団だとしても、アポロニオの目には、かわいいかわいいヒヨコの様な弟集団にしか見えないのだ。しかも、その集団がご飯ちょうだい、とピヨピヨと甘えてくる。ああ、可愛い、私の弟達があまりにもかわいい……!
 
そんな可愛いヴァッカリオ達に囲まれて、アポロニオは1か月間に蓄積していた気疲れがあっという間に解消していくのを感じていた。ヴァッカリオの一人が、エコバッグをもって玄関で早く早く、とアポロニオを待っている。
 
こんなにたくさんのヴァッカリオの腹を満たすためには、一体卵を何パック買えばよいのだろうか……! と、アポロニオは興奮と感動に打ち震えていた。
 
 
 
 
 
 
そんなアポロニオを見送って。残されたヴァッカリオ達はそれぞれ仕事をしながら、むすっとした態度で言葉を交わす。
 
「夜どうすんの」
「さすがにこの人数とかお兄ちゃん無理でしょ」
「あ、お兄ちゃん、明日明後日休みになってる」
「え、じゃあ週末含めて4連休?」
「マジ? ……じゃあ3日にわける?」
「ありじゃね?」
「明日は丸一日、寝室にこもるか」
「っていうか、ラブホ行く?」
「いいな。何とかこの人数で受け入れてくれるラブホ探すか……」
「おい誰かローターの電池確認しとけよ」
「あーコンドーム買いに行ってくるわ」
 
……などという、アポロニオが聞けば卒倒するような会話が繰り広げられていた。
 
とは言え、アポロニオが1か月の間に溜めに溜めた寂しさを解消するにはこれだけのヴァッカリオハーレムが必要、ということで。のちにヴァッカリオは、仲直りした直後にこの『分裂バース症候群』という奇病が流行らなくてよかったな、としみじみ思うこととなった。
 
1か月でこれだけなのだから、10年分の寂しさが爆発したら……おそらく、オリュンポリス中がヴァッカリオで埋め尽くされるだろう。もはや、世界のすべてがヴァッカリオで満たされるといっても過言ではない。アポロニオは喜ぶだろうが、さすがにヴァッカリオとしては勘弁してもらいたい。
 
奇病の流行がおさまるまで、とにかくアポロニオを寂しがらせないように気を付けよう、とヴァッカリオ一同は改めて決心したのだった。
 
 
 

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