2024年1月26日ヴァカアポオンリー(アンソロ発行一周年記念祭)のミニアンソロ的なものに寄稿したものです。ヴァカアポが平和的にだいたいイチャイチャしてる話。
「お」
「? どうした?」
足を止めた弟の姿に、買い物カートを押していたアポロニオも一緒に足を止める。ここは清涼飲料水売り場、わかりやすく言えばジュース売り場だ。
「ほらお兄ちゃん、見なよ」
そう言ってヴァッカリオが売り場を指さす。そこに並んでいたのは――子供向けノンアルコール飲料の『ブザム・カレッサー』と『たまご酒』だった。可愛らしいパッケージに、ディオニソスⅫのエンブレム、そしてアポロンⅥのエンブレムがあしらわれている。
言わずもがな、大人のカクテルなはずの『ブザム・カレッサー』にはディオニソスⅫ、黄色い優しい色合いの『たまご酒』にはアポロンⅥの方だ。
「おお、ついに一般販売が始まっていたのか」
「ね。まさかこんなもの商品化するとは思わなかったんだけど……売り場を見る限り、結構な売れ筋、かな?」
二本の缶はポップに飾り立てられ、それなりのスペースを占領していた。隙間がぽつぽつあることからも、陳列後にすでに数本売れているだろう事がわかる。
「せっかくだから買っていくか」
アポロニオはそう言って、それぞれ一本ずつ買い物かごに入れる。どうせなら本物のお兄ちゃんお手製ブザム・カレッサーが飲みたい、と思うヴァッカリオだが、購入を決めた家主には逆らえない。しかも、嬉しそうな顔をしていればなおさらだ。
「全く、お兄ちゃんがぺらぺらエピソードをしゃべっちゃうからさあ……ブザム・カレッサーだって、おいらはクリュメノスと三人だけの秘密にしておきたかったんだけど」
「ぐ……すまない、お前とのエピソードを聞かれたらつい……」
「そんなこと言ってると、おいらがアポロンⅥの破廉恥な夜の生活を暴露するけど」
「! それはダメだぞ!?」
慌てているアポロニオを見て、ヴァッカリオはわざとツーンとそっぽを向いた。もちろん、ヴァッカリオ本人としてそんなプライベートを他人に明かすわけがない。あの可愛いアポロニオお兄ちゃんを満喫できるのは、この世で自分だけの特権だと思っている。
それはそれとして、アポロニオに釘をきっちり刺すのは大切なことだ。……何度言っても、ヴァッカリオ絡みになると途端にガードが下がるのが、非常に難点だが。
二人はそんなたわいもない雑談をしながら買い物を済ませ、荷物を持って家へと歩を進める。久々の買い物で一週間分、それも働く成人男性二人分の食料を買い込んだのだから、大した量だ。
それでもヒーロー、それも現役ゴッドナンバーズとして体を作っている二人にとっては、重くもない荷物だ。軽々と家に運び入れ、日用雑貨はリビングへ、食品はキッチンへと振り分ける。
「今日の夕飯は~?」
「オムライスでいいだろう?」
「おいらガーリックバターライスがいい!」
日用雑貨をリビングで片付けていたヴァッカリオがキッチンへ大きな声を掛ければ、アポロニオから「わかった」と返事がある。ほんのり甘味のあるケチャップライスも悪くはないが……ヴァッカリオとしては、今日はがっつりスタミナ盛できそうなガーリックバターライスの気分だった。
昨日も夜遅くまでヴィランを追いかけ回し。久々の休みで朝はゆっくり寝かせたものの、体力回復には何かガツンとしたものが食べたい。そういったところ。
今や、全盛期の力を取り戻したヴァッカリオや、新たな力を身に着けたアポロニオにとって、通常ヴィランの捕獲には逆に神経を使うものになってしまった。
「いやあ、平和が一番だけどねえ……」
買ったものを全て片付け、アポロニオがいるキッチンを覗き込む。アポロニオの方も、ほぼ片付いたようだ。
「お兄ちゃん、終わった?」
「ああ、だいたい終わったぞ。こいつらはどうする?」
シンクに置かれていたのは、例のノンアルコール飲料達だ。子供向け商品だからか、それなりに甘味が強そうだ。夕食と一緒に、とはいきそうにない。
「うーん、夕食後のデザートがわり?」
「……そうするか」
例え子供舌で甘党なアポロニオと言えども、この甘いジュースを夕食のおともにする気はなかったらしい。二本の缶を冷蔵庫に戻す。
――と、そこに。二人の休日にはあるまじき、けたたましい警報音が鳴り響く。
「どっちだ?」
「両方だ」
アポロニオの疑問に速やかに答え、ヴァッカリオは腰元の緊急連絡用端末を開いた。画面には、赤く明滅する文字が大きく表示されている。
『特殊ヴィラン事件発生、特殊ヴィラン事件発生』
神話還りの力を持つヴィランの中には、一筋縄ではいかない能力を持つ者も多い。単に力が増すだけの者や、すでに捕縛歴があり能力が明らかになっている再犯者のような通常ヴィランと異なり、特殊ヴィランの名称が用いられる場合は、英雄庁のデータベースに存在しない新たな能力の持ち主だ。
ヴァッカリオに続き、アポロニオも自身の端末を操作する。リニューアルされた端末に四苦八苦していたのも、昔のこと。アポロニオも、空き時間に何度も副官達に教えて貰って、最新端末も容易に使いこなせるようになったのだ。
「ふむ、ゼウス区か。私の方は待機命令だけだが、ヴァッカリオはどうだ」
「あーおいらの方が警戒レベル高いな……フォース本部に召集掛かってる」
「隣区だからな……それなら私もアポロンフォースの本部へ顔を出すか」
せっかくの休みなのだから、二人で過ごしたい、とアポロニオは思ってくれたらしい。一人で待つのも寂しいもんなぁとヴァッカリオは勝手に解釈して、内心でだけ笑いを零す。
緊急招集ではなく、あくまでもフォース本部への出動だけだから、まだ余裕はある。そもそも、ゼウス区の仕事なのだからゼウスⅠが対応するべきであったし……何より、遊撃部隊としてオリュンポリス中を飛び回っているアレス零が、今日は出動日だからすでに対応に入っているはずだ。
「後輩に経験値を積ませるのも先輩の仕事っと」
「……それは確かだが、だからと言って手を抜くでないぞ」
「はーい」
ヴァッカリオとて、本気で言っているわけではない。何のかんのと理由を付けて、ディオニソスⅫとしての活動からのらりくらり逃げていたあの時とは違う。可愛い後輩たちが苦戦するようであれば、今や健康体を取り戻したディオニソスⅫとして好きなだけ手助けしてやるつもりだ。
「ヴァッカリオ、さっさと片付けて夕飯にするぞ」
「りょーかい」
二人揃って招集への応対と休日出動の申請を終える。もちろん、英雄庁からは『承認』の回答。
合わせて、二人の目つきがただの仲良し兄弟から、オリュンポリスを守るヒーローの眼差しへと変わる。
「じゃ、今晩の勝利の美酒は、ブザム・カレッサーとたまご酒といこうか、アポロンⅥ」
「フッ、ノンアルコールの、な。……アルコール有が飲みたければ、手早く完璧に叩きのめせよディオニソスⅫ」
あら、お兄ちゃんたら、アルコールバージョンも用意してくれるんだ、とヴァッカリオはひっそりほくそ笑む。
「それは楽しみだ」
そう言って、ヴァッカリオはオリュンポリスを見渡せる高層ビルにある二人の部屋、その窓から勢いよく飛び出す。続いて、後ろからアポロニオも飛び出した。
ビルの明かりに紛れ、緑と黄色の光が線を描き目にもとまらぬ速さで夜を駆ける――。
その後、ディオニソスⅫは勝利の美酒のために、非常に迅速に特殊ヴィランを成敗し、後片付けをし。結局、フォースで待機はしたものの出番はなかったアポロンⅥは、事態の収束を確認してから自宅へ戻り。
無事に、二人で今宵の勝利を祝ったようだった。
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ちなみに、イベント開催時にはこの作品の執筆アーカイブ(イラストで言うところのタイムラプス)も公開していました。
せっかくなので再公開しておきます↓
※冒頭に全然別作品の執筆が記録されています。ヴァカアポについては開始10分ぐらいからです※
×4ぐらいで再生して貰うと楽しい……かもしれません。
普通に書いてるだけなので特に面白味はないかもしれませんが……。
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