ヴァカアポエイプリルフールネタです。ほのぼの。短いですが、時事ネタなので単品で投稿。
本日はエイプリルフール。朝からディオニソスフォースでくだらない嘘を付き合い、ついでにディオニソスフォース主導のエイプリルフールネタも仕上げたヴァッカリオは疲れた体を引きずって帰宅を急いでいた。ディオニソス区はノリが良いといえば聞こえは良いが、そのノリもどちらかといえば「悪ノリ」だからたまったものではない。
ちなみに、今年のエイプリルフール企画は「ディオニソスフォースの新ユニフォーム発表!」として、ヴァッカリオもといディオニソスXIIを筆頭に全員がタキシード姿でポーズを決めたポスターや特設サイト、パンフレットまで作ってばらまいたのだった。10年ぶりにディオニソスXIIが大々的に表に出せる、ということで広報がずいぶんと張り切ったらしい。
もちろん、女性メンバーも全員タキシードで……その男装姿は非常に高評価だった。ディオニソスXIIが大好評だったのはもちろんとして。
我ながらよく撮れている、と満足した出来の写真データをいくつかヴァッカリオは持って帰っていた。アポロニオに見せるために。思春期の頃なら恥ずかしがって隠しただろうが、今はもう、とうにそんな時期は過ぎている。むしろ、これを見て喜ぶアポロニオを見たいし、何より絶対に惚れ直してぽぅっと頬を染めるアポロニオを見たくて仕方がない。ヴァッカリオは、自分の顔にはそれなりに自信を持っている。
……しかし。
そうやってウキウキムラムラしながら帰ったヴァッカリオを待っていたのは、どことなく物憂げなオーラを纏ったアポロニオだった。夕食中もどことなく上の空で、ヴァッカリオは写真を見せるタイミングをすっかり失ってしまう。写真よりアポロニオの方が今は一大事なのだ。
「お兄ちゃん、どうしたの? さっきから元気ないみたいだけど」
「いや、何でもないぞ」
「そんな事言わないでよ、寂しいなあ」
夕食の片づけを終えて、食後のココアとともにソファにやってきたアポロニオを捕まえて早速ヴァッカリオは口を割らせるべくちょっかいを出した。なんだかんだ言って、アポロニオは隠し事が下手でありヴァッカリオの「おねだり」には非常に弱いものだから、ヴァッカリオがちょっと掌で転がせばあっという間に理由を話してくれる。
アポロニオが話すところによれば。
「はあ、なるほどねえ。お兄ちゃん、嘘とは一番無縁な人間だもんね」
「む、そこまででは……」
「有意義な嘘、欺き、騙りはできるけど、そうじゃなければ何もできないでしょ」
特に自分の欲望に根差すことは、という後半はヴァッカリオの口から出ずに留まった。そこまでわざわざ言ってアポロニオを困らせる必要もない。他人のためならいくらでも自分の心を削って偽ることができるのに、自分のためなら途端に何もできなくなってしまうのだ。そういう兄の真っすぐさを、ヴァッカリオは幼い時からずっと見続けてきた。幼いころはまぶしく思い、大人になった今は、まぶしさと同時に危うさも覚えつつ。
そんなアポロニオがなぜあんなにも物憂げなオーラを出していたかといえば、「エイプリルフール」が原因だった。
アポロニオという人間は嘘も隠し事も苦手、太陽そのもののごとく真実で満ちた世界だけを歩いているような人間だ。裏も表もなければ、誰かを疑うことすらしない。ある意味で、ヒーローとしては不適格でありながらも、実力のみですべてをねじ伏せてきた男、それがアポロニオ。
エイプリルフールから最も程遠い人間であるアポロニオが、なぜ悩んでいるかというと、それはエイプリルフールというイベントごとのもう一つの側面、ジンクスが原因だった。その日ついた嘘は、一年間本当にならない、というジンクス。
つまり、真面目が服を着ているアポロニオにとって、エイプリルフールがふざけた遊びのイベントではなく「願掛け」するための大事なイベントになってしまったのだ。そのジンクスを知ってしまったがために。
「だが……その、例え嘘でも……やはり、口に出すのは憚られてだな……」
「どんな内容なの?」
「……お前が今年も一年、健康で幸せでいられるように、と」
「あー……」
アポロニオの願いをかなえるなら、「ヴァッカリオは不幸になって体を損なわれてしまえ!」という嘘をつく必要がある。アポロニオにとって、それは例え嘘でも口には出せない言葉だった。
ヴァッカリオはすっかりしょぼくれてしまったアポロニオの頭頂部を見下ろす。生真面目がすぎるアポロニオの事だから、今頃はさらに進んで「弟の祝いすらできない自分はなんとダメな兄なのだろう」と思い悩んでしまっているのだろう。アポロニオの純粋な愛に触れて嬉しく思いつつも、ヴァッカリオは苦笑する。自分が幸せになるには、アポロニオにも幸せでいてもらわなければならないということに、いつになったらこの人は理解してくれるのだろう。
さて、すっかり落ち込んでしまったアポロニオの為に、ヴァッカリオは口を開いた。
「うーん、お兄ちゃん、そもそもエイプリルフールって午前中だけだから、もう遅いよ?」
「なんだと!?」
「午前中に嘘をついて、午後にネタバラシ。これがエイプリルフールのお作法ね」
まあ国によって違うとは思うけど、と付け加えることも忘れない。アポロニオはこれまでの憂いを帯びた顔ではなく、ショックを受けたといわんばかりに顔をこわばらせていた。
「だからさ、エイプリルフールのことで悩むなんてやめなって」
「ぐ……そうなのか……では、来年こそ……」
「お兄ちゃん」
悔しそうに歯噛みするアポロニオの肩を抱き寄せて、頬に軽くキスをする。そのまま甘えるようにヴァッカリオは顔を摺り寄せた。
「別に嘘なんてつかなくていいよ、お兄ちゃんに嘘は似合わないもの」
「しかし、せっかくのエイプリルフールなのだぞ?」
「ははは、そりゃそうだけど……ほら、おいらたち、もう隠し事も嘘もつかない、って約束したじゃない」
ヴァッカリオはそう言って、握りこぶしを形作っていたアポロニオの手を自らの大きな手で包み込んだ。アポロニオの方が高めの体温で、包んだそばからヴァッカリオの手にじんわりと温かさが伝わってくる。
「だから例えエイプリルフールでもお兄ちゃんには嘘をついて欲しくないな。もし願い事をしたいっていうなら」
ヴァッカリオは一度言葉を切る。アポロニオは不思議そうにヴァッカリオの顔を見上げていた。丸く見開かれていた瞳は、太陽を思わせるように明るくきらめいていて。やはり、アポロニオには嘘も似合わないし、夜も似合わない。だからこそ、正反対だと揶揄される自分にこそ、嘘も夜も似合うのだ。
それでも、ヴァッカリオはアポロニオの為だけに、自らの特徴でもあった嘘も偽りの姿も騙りもすべてやめた。アポロニオが、「もうそういうことはしないでほしい」と願ったから。アポロニオがそう言うなら、ヴァッカリオはありのままの自分をアポロニオに見せることも、恥ずかしくもない。そもそも、おむつを替えてもらったことだってあるしね。
「ヴァッカリオ?」
「ん。……願い事をしたいって言うなら、今度、一緒に天体観測にでも行こうよ。流れ星に願いを掛ければいいじゃない」
アポロニオは目をぱちぱちと瞬かせたあとに、顔を綻ばせた。それまでの憂いた顔も、出遅れた失態に悔しがる顔も、すべて溶けて。ふわりと太陽のように明るく、穏やかで、温かい笑顔が花開く。
「それは名案だな!」
「でしょ? エイプリルフールの嘘はさ、有効期限一年だけど、流れ星なら期限なんてないからね。コストはかかるけどパフォーマンスは最高だよ?」
ヴァッカリオが面白そうに言うと、アポロニオも肩を揺らして「違いない」と笑った。
「気温もあがってきて、寒いだろうけど真冬よりはマシじゃないかな」
「うむ。何か、温かい飲み物をポットに入れていこうか」
「いいね、真夜中のハイキングだ。じゃあお兄ちゃん、なんか軽食も用意してよ」
ヴァッカリオが甘えた声で言うと、アポロニオはにっこりと笑って任せなさい、と胸を叩いた。これだけ張り切っているとなると、きっとまた激甘料理なんだろうなあ、とヴァッカリオは思うが……外の寒空の下、アポロニオと二人きりでささやかな願いのために夜空を見上げるには、とても大切なエッセンスなのだろうな、とも思う。
アポロニオはいそいそと家で取っている新聞を取り出し、週間天気を眺めている。どうやら週末の予定を確認しているようだ。
「じゃ、おいらは星がよく見えるスポットでも探しましょうかね、と」
ヴァッカリオも端末を取り出して、家から近場で、それでいてあまり人が来ないだろうスポットを探す。
週末のよく晴れた夜、防寒着に身を包んだ二人はにこやかに寄り添いながら流れ星を探していた。
※コメントは最大500文字、5回まで送信できます