愛のふる夜

ヴァアカアポがいちゃいちゃしながら年越しする話。とても平和的でほのぼのしていて短いですよ。冬の某企画に寄稿したものです。時期的にはGA前に書いたものなので、矛盾点があるかも。


 

 ぱちぱちと暖炉で薪が燃え盛る音をバックグラウンドミュージックに、ヴァッカリオとアポロニオはリクライニングチェアを並べてリラックスして新年を待っていた。残念ながら外は雪が降っており、星空を眺めながら、とはいかなかったが、ゆらゆらと揺れる炎をぼんやり眺めるのも悪くはない。
「あと三十分かあ……今年もいろいろあったねえ」
「全くだ。去年も今年も、あまりにもいろいろありすぎた」
 お前は死んだかと思えば生き返ってくるし、とアポロニオは面白そうにヴァッカリオの顔を横目に言った。手に持っているのは、アルコールが入っていない甘酒であるのに、まるで酔っぱらいのようだ。
 そんなアポロニオに対して、ヴァッカリオは肩をすくめるだけ。こちらはちゃんとアルコールがほんのり残ったホットワイン。夕食時にしこたま飲んだとは言え、アポロニオより酒には強い自信があるヴァッカリオならではの選択だ。
 暖炉の上に置いたラジオからは、ノイズ交じりに華やかな音楽が流れてくる。今年のヒットチャートメドレーらしい。アポロニオにはピンと来ない曲ばかりで、ヴァッカリオには「あーなんか聞いたことあるかも」程度の、二人が夢中になるわけでもないし話題になるわけでもない、そんなメドレーだった。今は、女性歌手が何かラブソングを高らかに歌い上げている。
「……ちょっとお兄ちゃん、寝ないでよ、あとちょっとなんだから」
「ん……寝てないぞ」
「はいはい。喋ってないと寝ちゃいそうだね」
 それぐらい、穏やかな空間がこのコテージには流れていた。
 二人は今、オリュンポリス郊外にある一戸建てのコテージに泊まりに来ている。ゴッドナンバーズが勢揃いした状況であれば、アポロンⅥと言えどもオリュンポリス中心部を離れることができるようになったのだ。……その陰に、二人の仲を心配するゴッドナンバーズ達の気遣いが無かったとは言えない。
「せっかく、お前と久々に年越しを祝えるのだから寝るわけにはいかん」
「そう思うながらもうちょっと頑張って?」
「うむ、本格的に寝そうになったら頬でも抓ってくれ」
 早寝早起きがモットーのアポロニオにとって、仕事でもなければやはりこの時間に起きているのは厳しいのだろう。それに、ヴァッカリオ程ではないとは言え、夕食時にはそれなりに一緒にワインを楽しんだのだ。
 言ったそばから眠そうにあくびをするアポロニオを見て、ヴァッカリオは苦笑を零した。
「ま、こんだけ穏やかな雰囲気だと、眠くなっちゃうのも仕方ないかな」
「……そうだな」
 ヴァッカリオの言葉に、アポロニオは目を細めて頷いた。一緒に年越しを祝うのが久々であれば、ここまで落ち着いて年を越す事自体も久々だ。今日と明日に限っては、よほどの緊急事態でない限り連絡を寄こさないように英雄庁に申請を出してある。もし、連絡がきたとすれば、それはオリュンポリス存続の危機だろう。
「ヴァッカリオ」
「ん、なに」
 何か音楽番組以外に目が覚めるようなものはないかな、とラジオを弄っていたところ、アポロニオに声をかけられた。暖炉の上からそのままラジオを持って帰ってきて、二人の間にある小さな丸テーブルの上に置く。すると、そこにアポロニオの手が伸びてきた。
「手をつないで年越しをしないか」
「……いいよ。どうしたのお兄ちゃん、そんな可愛いこと言っちゃってさ」
 ヴァッカリオはくすくすと笑いながら控え目に伸ばされたアポロニオの小さな手を自らの手で包み込む。どうせだから、と指を絡めあわせて、そう簡単に外れないようにぎゅう、と強く握りこんだ。その感触に、アポロニオの方が今度は笑い声と共に肩を揺らす。
「可愛かったらダメか?」
「まさか! 可愛いお兄ちゃんもカッコいいお兄ちゃんも両方好きだよ」
「それは良かった。……せっかく、こうして、のんびりできているのだから。たまには、私も……兄ではなく、恋人としてお前に甘えてみようかと思って」
 する、とアポロニオの指がヴァッカリオの手の甲を撫でる。その仕草にヴァッカリオはたまらなくなり、つないだ手をやや強引に引っ張ってアポロニオの手の甲に口付けを落とした。アポロニオはヴァッカリオの行動を黙って微笑みながら見守っている。
「別にいつでも甘えてくれていいんだけど?」
「よせ、私にも兄のプライドというものがある」
「まあね、兄のお兄ちゃんも好きだし、恋人のお兄ちゃんも好きだから、どっちもいてくれると嬉しい」
 ヴァッカリオが甘える様な口調とともに、アポロニオの手の甲に頬ずりをした。アポロニオは嚙み殺した様な笑い声をあげたあとに、頬ずりをするヴァッカリオの頭に空いている手を伸ばす。不自由な姿勢ゆえに、やや乱暴に頭をかき混ぜることになったが、ヴァッカリオは満足そうに楽し気な悲鳴をあげた。
「お前は先ほどから私のことをなんでも好きだと言うな?」
「だって本当のことだし。お兄ちゃんだって、カッコいいおいらと甘えん坊のおいらと、両方好きじゃないの?」
「ハハハ、もちろんだとも、両方好きに決まっている。全部好きさ」
「でしょ?」
 胸を張るヴァッカリオに、アポロニオは噴き出して大きく笑い声をあげた。ヴァッカリオも、肩を大きく上下させて腹を抱えながら笑う。
 ひとしきり笑いあって、ちょうど落ち着いた頃にラジオからもうまもなく年が変わる、というアナウンスが流れてきた。
「お兄ちゃん、ところで年越しは手を繋ぐだけで満足?」
 ヴァッカリオがいたずらめいた顔でアポロニオを伺う。アポロニオは目をきょとん、とさせた後に、ヴァッカリオが言わんとしていることを理解して、頬を染めた。
「……まさか。もっと欲しい、ぞ」
「ふふ、おいらもそう思うよ。……お兄ちゃん」
 弟の低く、艶のある声が自分を呼ぶのに誘われて、アポロニオはテーブルに肘をついて身を乗り出す。アポロニオの後頭部に、ヴァッカリオの大きな手が回された。
『――スリー、ツー、ワン……ゼロ! ハッピーニューイヤー!』
 ラジオから年越しを告げるアナウンサーの声と、多くの人たちの歓声が響く。しかし、今、この部屋には声は響かず、ただ暖炉の中で薪が弾ける音だけが響いていた。
 年が変われども雪は降り続き、積もっていく。ヴァッカリオとアポロニオの二人の影も、重なったまま離れることはなかった。
 
 

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