妖狐パロ兄弟その弐

朔さんがブチギレなカッコいい弟を書いていたので…
※この話の弟はめちゃくちゃ可愛いです。31歳の見た目でショタみたいな言動です。ご注意を。キャラ崩壊してます。


「お兄ちゃんに何をした」

ヴァッカリオから、膨大な妖気と殺気が膨れ上がる。ぶわり、と髪の毛が周囲を渦巻く妖気に当てられ舞い踊り、五本の尻尾がそれに合わせて生き物のように膨らんで蠢いた。

「ひっ……」
「お兄ちゃんに、何をした、と、聞いているッ!!」

倒れたアポロニオを取り囲んでいた男たちが、揃いも揃って腰を抜かして地面に尻もちをついた。何人かは、そのまま泡を吹いて気絶している。

ヴァッカリオは羽虫を払うかの様に手を振ると、男たちは見えない風圧によって地面を転がり、アポロニオのそばから追い払われた。倒れたままのアポロニオは目を閉じたままで、普段は血色の良い白い頬が、今は青白く、見るからに異常を訴えている。

「答えろ」
「ヒィッ!!」

一番近くに転がっていた男の襟を掴んで持ち上げ、締め上げる。こういう時に精神捜査や眩惑関連の妖術を使えれば便利なのだが……ヴァッカリオの力は強すぎて、このようなか弱き人間に使ってしまえば廃人化は免れなかった。ヴァッカリオとしては、それでも構わない。しかし、心優しい兄が自分のせいで廃人を生み出してしまったと知れば、傷ついてしまうだろう。

アポロニオの中では、この蛆虫のような男たちはまだ「善良な村人」なのだ。事実を知ったとしても、きっとアポロニオなら許すに違いない。何か理由があったんだろう、と寂しげな笑みと共に。

ヴァッカリオに締め上げられていた男が恐怖のあまり失神してしまったので、それを投げ捨てて次の男を締め上げる。もちろん、アポロニオにはもう誰も指一本触れさせないように強固な障壁を周辺に構築済みだ。人間はもちろん、その辺の妖怪ですら壊せないだろう。

「く、くすりを……」
「薬を盛ったのか?歓待の食事に?どういう類のものだ」

男が語ったところによれば、それは山の二つ向こうにある神社でもらった「妖封じの薬」だという。粉末状のソレを料理に混ぜてアポロニオに食べさせたのだ。それがわかれば、ヴァッカリオとしてはもう男たちには用無しだ。変な術式や呪いを掛けられたのでなければ、ヴァッカリオでも対処はできる。

「貴様たちには追って沙汰を渡す。無事でいられると思うなよ」

ヴァッカリオは今一度、剥き出しの妖気をぶつけて男たちを威圧する。ただの人間が防ぎきれるわけもない、濃厚なものを。多少、正気を失ったり体調不良にはなるだろうが、命までは奪わない。

目を覚まさないアポロニオを恭しく抱き上げると、ヴァッカリオは丁寧に術式を組んで安定した家への「穴」を開いた。腕の中でぐったりとしたアポロニオをこれ以上刺激に晒したくなかったからだ。それに、ただの人間どもに今の自分を御せるとは思わない。

ヴァッカリオは振り返ることもなく、アポロニオを抱えて「穴」をくぐった。

アポロニオに無理矢理、水を飲ませては胃の内容物を吐かせるということを繰り返して。嘔吐物に固形物が混ざっていないことを確認してからヴァッカリオはゆっくりとアポロニオを布団に寝かせた。

数年前、アポロニオに渡したお守り代わりの数珠。万が一、アポロニオの身に何かあったらヴァッカリオの手元で連動した勾玉が割れるようになっていたのだが、まさか今日、それが割れることになろうとは。

アポロニオを害する存在がこの世にあるわけがない、と思いつつも、どうしてもヴァッカリオが安心したくて渡したのだが、渡して正解だった。アポロニオは向かうとこ敵なしでありながらも、善意に付け込まれた不意打ちや裏切りには滅法弱い。これまでも、何度か窮地に陥ったことがあった。

「まあ、あの状況でもお兄ちゃんならどうにかできただろうけど……」

どうせ相手はただの人間だ。あの「妖封じの薬」だって、兄のあの莫大な妖力をずっと封じていられるわけもない。……わかっていても、ヴァッカリオはやっぱりアポロニオのことが大切で心配で、つい踏み込んでしまったのだ。

布団に寝たまま穏やかな寝息を立てるアポロニオを見て、ヴァッカリオは大きくため息をついた。アポロニオは自分のことをずいぶんと対外的に過保護に扱うが、自分もこれではアポロニオのやり方に文句は言えない。

とりあえず、胃の中を空っぽにしてしまった兄のために、ヴァッカリオは簡単なおかゆを作るべく台所で奮闘することにした。

 

目が覚めたアポロニオは、ヴァッカリオに押し付けられたおかゆ(ちょっと焦げたけど許して欲しい、ヴァッカリオは食べる専門で料理は専門外なので……)をぺろりと平らげた。

「お兄ちゃん、もう体は平気?」
「ああ、問題ないぞ。……迷惑をかけたな」
「ううん、迷惑だなんて……びっくりしたよ、いきなりあの勾玉割れるんだもん」
「ははは、強制的に妖力を封じられたからな。それで異常を検知したのだろう。うむ、お前は魔道具作りの腕前も素晴らしい!」

そういう問題じゃないでしょ、とアポロニオの能天気ともとれる発言に呆れながら、ヴァッカリオは器を片付けた。アポロニオは手首や首を回し、それから妖力を全身に循環させて体の確認をしているようだ。

「で、なんであんなことになったの」
「さあ?……ただ、何やらどこぞの神主に『あの妖狐を退治せねば、村は滅びる』と唆されたようだな」
「……もしかして、わかってて食べた?」
「まあな……唆した、というより、半ば脅しだったようだ。妖狐を退治しないなら、この村を妖怪の手先と見なして焼き討ちする、と」

それを聞いて、ヴァッカリオは冷や汗がたらりと流れた。ヴァッカリオがやったことは、横やりに過ぎたようだ。アポロニオの邪魔をしてしまったのかもしれない、と耳と尻尾がしゅん、と垂れる。

「安心しろ、同時にクリュメノスに神社側の対処と村の保護は頼んである。今頃、彼が対応してくれているだろう。……私はただの囮だよ」
「囮って……もう、そういうことやるならおいらもちゃんと混ぜてよ!すっごい心配したんだからね!?」
「すまない。そうだな、もうヴァッカリオも子供ではないのだし……」
「とっくに大人だって!!」

ヴァッカリオが大人になって何年が経つと思っているのだろう、この兄は。しかし、ヴァッカリオもいつまで経っても「お兄ちゃん」呼びが抜けないし、同年代と遊ぶこともなく兄とだけ二人暮らしをしていたので、年齢の割に幼い口調がなかなか治らない。

「うーん、これはいわゆる兄貴呼びに矯正するべきなのか……?」
「ん?どうしたヴァッカリオ、難しい顔をして。悩みでもあるのか?」
「いや……あの、村人さん達をめちゃくちゃ脅しちゃったなって」
「それは致し方あるまい。クリュメノスの対処が終わればまた後日、仲を戻す宴でも開けば良いだろう」

それで済むだろうか、とヴァッカリオは一人戦々恐々だ。アポロニオはけろりとしているが、ヴァッカリオは割と本気で村人を脅した。しかし、あの時に廃人になっても構わないと無茶な術を掛けなくて本当に良かったと心底安堵しているのも事実。もし、村人に害をなしていたら、本当に「悪狐」として討伐指令が出てたかもしれないのだ。

「お兄ちゃん、ほんとお願いだからちゃんと事前に言っておいて……頼むよ……」
「次からは気を付けるとしよう」
「というかそもそも囮にならないで欲しいな!?おいらの寿命が縮む」
「はっはっは、囮ぐらいで騒ぐなヴァッカリオ。兄はそのような矮小なことでやられたりはせんぞ」
「嘘、この前不意打ちされて脇腹に穴開けてたじゃん」

そう言ってアポロニオを不信気に見れば、アポロニオはすっと視線をヴァッカリオから逸らした。

「脇腹に穴ぐらいで……」
「そういう問題じゃないの!もう、お兄ちゃん、もうちょっと自分のこと労わってよ」
「悪かったよ、ヴァッカリオ。機嫌を直してくれ」

頬と尻尾を膨らませて不機嫌そうに耳を動かすヴァッカリオに、アポロニオが苦笑しながら声をかける。じゃあ、とヴァッカリオは不機嫌さをそのままに声を上げた。

「今日のおやつ、かすてらがいい。お兄ちゃんの手作りのヤツ」
「……わかった、では、今から作るとしよう」

かすてらを作ってくれるなら、機嫌を直さないこともない、という可愛らしいヴァッカリオのおねだりに、アポロニオは今度こそ相好を崩すと布団から起き上がった。

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