朔様のところの妖狐パロの兄弟をお借りして書きました。ヴァカ+アポでほんのりヴァカが片思いしているだけのほんわかです。※微妙に殺伐バトルがあるので、モブキャラの死が嫌な方はご注意を。和物だからカタカナを使わないように頑張りました。
※圧倒的身内ネタなので、世界観とか設定とかガバいです。雰囲気で読んでください、雰囲気で
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ぶわり、と兄の妖力が膨れ上がるのを肌で感じて、ヴァッカリオは思わず後退った。普段から訓練の合間に感じることがあっても、この妖力には濃い殺気が練り込まれている。そのような兄の殺気を、ヴァッカリオは向けられたことなど一度もなかった。
だから、年一回、それなりに本気の兄を見られるこの機会は貴重だと思う。力を100%出すことはあっても、あくまでも訓練上のことであって――実戦形式で妖術を見られるのはとても勉強になる。
「お、落ち着け!」
「私は冷静です。さきほどの議題だけではなく、ただ、私は私の好きなように生きていくというだけであります。……貴方がたは、他人の生き方に文句をつけるほどの権力がお持ちであると、そうお思いか?」
「わっ、ワシらは!妖怪界の将来を思って――」
無謀にも立ち上がって言い返した老人は、アポロニオの一睨みで全身を燃え上がらせた。しわがれた悲鳴と共に、火だるまが転がっていく。
(やっぱりすごいな、周囲の物には一切延焼させず、的確に対象だけを燃やす。それでいて事前動作も詠唱もなし)
兄の妖術を間近で見ていたヴァッカリオは惚れ惚れと、真っ赤な炎を巻き散らす火だるまを見ていた。いやしかし、この状況だと兄がキレる時も近いな、と障壁を張るための妖力を練るのも忘れてはいない。
議長がコンコン、と木づちを打ち鳴らす。その顔は脂汗を浮かせ、真っ青だ。
「せ、静粛に!えー、アポロニオ君の、婚姻に関しては、今回は見送りという事で……!」
「異議なし!!!」
引き攣ったような男たちの声が会場に一斉に響いた。こういうところは息があってるんだよなあ、とヴァッカリオは呆れたようにアポロニオの後ろでため息をついた。
「で、では次の議題……ヴァッカリオ君の婚姻について」
「…………」
議長がちらちらとアポロニオを気にしながら議題を読み上げるが、アポロニオは腕を組んで目を瞑ったままだ。動きを見せないその様子に、ほっと胸を撫でおろしたのは議長だけではない。
「……あれ、お兄ちゃん、これには怒らないの」
「まあ……お前ももう良い歳だからな。良い縁談があると言うなら聞いても良いだろう」
「そう……」
そう言われて、ヴァッカリオは少しだけ残念な気持ちになった。アポロニオのことだから、開口一番そんなバカな議題はやめて頂きたい、とけん制するか、早ければ議長を燃やしてくれるかと思ったのだが。
ヴァッカリオは、アポロニオのことが好きだ。それが恋愛感情なのか、家族への愛情なのか、それは全くわからないのだけれど。ただ、一つ前の「アポロニオの婚姻について」という議題については、兄がキレなければ自分が代わりにキレていただろう。アポロニオが望まぬ婚姻を強いられるというなら、そのようなものは壊して当然だ。
「……であるからして、何名か見繕って来たので気に入った者を選んでもらいたい」
何やら小難しく「種族間の対立を」「派閥を超えた結束を」などと婚姻の意義を説明していたようだったがヴァッカリオは興味が1ミリもなかったのですべてスルーした。自分が政略結婚とやらの道具にされることは別に好きにしたら良い、と思うが、それと兄への執着心は相成れないものなので断ろうとヴァッカリオは口を開いた。
「ヴァッカリオ、この娘などどうだ?」
「……は?」
「天狗のある一族の族長の娘らしい。天狗なら寿命も同程度だし、お互い妖怪として生活様式も似ているからな」
顔立ちも良いし、とアポロニオは続ける。ちら、と他の老人衆に目を向ければ各々が頷いてアポロニオのことを見守っていた。
ヴァッカリオは大きくため息をつくと、アポロニオの手から見合い板を取り上げる。
「ごめん、好みじゃない。それに、結婚はまだ考えてない」
「そうか……しかし、結婚とまではいかずとも、まずはお付き合いからでも良いのではないか?」
「そうだぞ、お見合い板の写し絵と文字だけではわからんこともあるだろう」
どこかの長老がしたり顔で会話に混ざり込んできて、思わずヴァッカリオは鬼の形相でその長老を睨みつけた。余計なことを言わないで欲しい。アポロニオの様な精密な技術力があれば、今頃、この長老の頭髪を燃やすところだが、あいにくヴァッカリオはまだそこまでの境地に達していない。
「では、こちらの娘はどうだ?会ってみるだけでも……」
「いや、いいって。……まだまだ、強くなりたいからは今は色恋沙汰よりも訓練を優先したい」
アポロニオにも、会場に集まった老害たちにも聞こえるように宣言する。アポロニオは目をパチパチとさせ、会場内の参加者にはざわりとしたどよめきが広がった。
「これ以上強く?」
「今でも十分……」
「妖狐一派に力が偏りすぎでは……」
「バケモノ……」
最後の単語を口走った男は、無事に丸焼きになった。ぴしり、と会場内の空気が固まる。
「ヴァッカリオを育てろ、と押し付けてきたのは貴方がたであったと記憶しており、私はその指示に従い彼を育てたのですが……それをバケモノ扱いとは、どういうおつもりで?」
「そっそれは!言葉の綾で!」
「……もう良いでしょう。今宵の会合も得るものはありませんでした。……次世代の長達に期待しましょう」
ヴァッカリオはすぐに自分の周囲に障壁を張った。会場の参加者たちの中でも、少しは腕に覚えのあるものは同じように障壁を張るか、我先にと逃げ出している。
アポロニオが、組んでいた腕をほどいて素早く印を組む。膨れ上がった妖力は一瞬、アポロニオの手元に凝縮され、眩い光を輝かせると次の瞬間には炎へと変化して会場内を舐め回した。
アポロニオの言う、「歳ばかり重ねて何の実力もないくたばりぞこない」達はあっという間に炎に飲み込まれていった。障壁を張った者も、逃げ出した者も、どれほど助かったかはわからない。
「あーあ……やると思ったけどやっぱりやったよ」
「ヴァッカリオ」
「なに?」
向こうからの反撃で飛んできた貧相な風の刃を、アポロニオが見向きもせずに障壁で叩き落としている。実力が、違いすぎるのだ。
「向こうに三匹、お前の相手にちょうど良さそうなヤツがいる。遊んで来い」
「はぁい……ああ、河童が三匹」
アポロニオが指し示した先に、だいぶ頭の皿と白い頭髪をくたびれさせた三人衆を見つけた。ひょい、とヴァッカリオは阿鼻叫喚の空間を飛び越えて、三人衆の前に降り立つ。
「悪いね、お兄ちゃんがお前らを始末しろって」
「狐め!」
「狐さんだよお」
けらけらと笑って、ヴァッカリオは妖力をまとわせた腕で飛んできた水の矢を叩き落とした。ひ弱だあ、と呆れて反撃の拳を繰り出すと、水の壁が目の前に現れる。もちろん、簡単に割り砕く、のだが。
「なるほど、一対多の訓練になる、ってことね」
ひょい、と横から突き出された水の槍を躱し、一度だけ三人を見渡した。
「でもねお兄ちゃん、こんな雑魚相手じゃあ訓練にもならないと思うな」
「なんだと!」
「調子に乗りおって!!」
ヴァッカリオの安い挑発にあっさりと乗って激昂する三人の老河童。これだから老害は、とヴァッカリオはため息をつきつつ、自分の中の妖力を練る。なるほど、こんなヤツがいつまでものさばっているから河童の一族は衰退しているのだろうし、アポロニオはこの老害たちの始末を自分に任せたのだろう。
毎年、会合に参加しては会場ごと容赦なく燃やし尽くしているようにしか思えないアポロニオの行動だが、一応、種族間のバランスやか弱き者の懇願を聞いて適度に「間引き」をしているだけだ。それにヴァッカリオが気づいたのも、だいぶ大きくなってから。
(そういうところも、すごいんだよねお兄ちゃんは)
軽々と、三人が連携を取って繰り出してくる武技や妖術を回避し続ける。それだけでなく、ヴァッカリオは両手を動かして術式を組み、印を描く。アポロニオ程早くもなく、精密ではないけれど、威力だけで言えば兄をも超えると言われた、お気に入りの一撃。
「これで……終わりだ!」
術式を組み終わったヴァッカリオが振り返り、弾け飛びそうな妖力を込めに込めた雷弾を放つ。河童の様な水棲生物には雷の術を。アポロニオがせっかく教えてくれたのだから、使うしかない。
「ぎぃぁぁぁぁ!!!!」
河童の断末魔の悲鳴が響く。しかし、すぐにその声は止まり、後には肉が焼けた臭いだけが漂った。
「ヴァッカリオ、片付いたか?」
「うん。……見てた?」
「途中から。素晴らしい雷弾だったな、雑魚とは言え、河童の長たちを三人まとめて葬るとは」
「えへへ。もうちょっと発動を早くできれば……」
そうだな、とアポロニオはヴァッカリオに微笑んだ。手招きするので、ヴァッカリオが頭を下げると、幼少の頃の様に頭を撫でてくれる。大きくなっても、ヴァッカリオはこのアポロニオの優しい手つきが大好きだ。
「では、帰って食事にするとしよう」
「お兄ちゃんの茶碗蒸しがいい!」
「帰ってから作ると時間がかかるが、良いのか?」
「いいよ、術式組む練習しながら待ってる」
アポロニオがゆるり、と懐から扇子を取り出して空間を撫でると、家まで直通の亜空間が現れる。これも、ヴァッカリオはいまだに苦手にしていて、ここまで早く「穴」を通せたことはない。
「ヴァッカリオは相変わらず勤勉だな」
「もっと強くなりたいからね!」
「はっはっは、頼もしいことだ」
笑いながら二人は家へとつながる穴へと潜っていった。
後に残されたのは破壊しつくされた会場の燃えかすと、アポロニオによって「不要」と判断されたくたばりぞこないばかりだった。
食事をして、二人で山中の温泉に入る。最初はアポロニオが一人で入ってたのだが、そこにヴァッカリオが加わり、そして大きくなったのに合わせて温泉も広げた。手作りの露天風呂だ。
「いやあ、星がきれいだね」
「今日はひと暴れできたし、余計に空もきれいに見えるな」
「お兄ちゃん、あれじゃ足りないでしょ」
「まあな……では、明日ヴァッカリオに相手してもらうとするか」
その言葉に、ヴァッカリオは楽しみ半分、地獄の特訓の苦しさを思い出して辛み半分、と言った微妙な顔をした。
アポロニオは訓練とは言え、あまり手加減をしてくれない。もちろん、大けがや命を落とさないように気を付けているのだろうな、とはヴァッカリオもわかっているのだが……。もっと強くなって、アポロニオと対等に渡り合えるようになるのが、ヴァッカリオの今の目標だ。
強すぎるアポロニオは少しばかり、孤独なのだ。妖怪と人間の争いも少なくなり、狭い妖怪の界隈でもある程度管理する組織ができてからは平和そのもの。アポロニオの相手をできる者は数えられるほどしかいない。
ヴァッカリオは、その中の一人になりたいと思っている。アポロニオが難しい顔をする時間を減らして、もっと楽しく、朗らかに笑っていられるように。
「おいらで相手できるかなあ」
「大丈夫だ、お前もじゅうぶんに強くなったではないか」
「うーん、実感がわかない」
「……まあ、あの会合に参加するような、烏合の衆ではお前の相手にもならんな」
お兄ちゃんの相手にもね、とヴァッカリオは言うと頭に乗せた手ぬぐいをとって顔を洗った。月がきれいでおだやかで、月見酒でも嗜みたい。が、今日はアポロニオがいるので我慢だ。
「久々に頭を洗ってやろうか?」
「どうしよっかな……じゃあ、お願いします」
「おいで」
露天風呂から出て、簡易的な洗い場にある風呂椅子に座るとアポロニオが隣に立った。ふもとの村で作ってもらった石鹸を泡立てて、ヴァッカリオの頭に泡を乗せる。
「尻尾は自分で洗うか?」
「うん、多いし、手入れの練習したい」
「ははは、それは大事なことだな」
ヴァッカリオの尻尾は、最近ようやく五本目が生えた。尻尾の本数で強さを実感できるのでありがたいとはいえ、三本を超えた頃から洗うのが面倒くさくなってくる。
アポロニオなんかは九本もあって、よく面倒くさくないなあと思っていたら術式でさっぱり洗っていたらしい。ヴァッカリオの腕前ではそれだけでは汚れを落とせないので、結局自分で洗わなければならない。
頭はアポロニオに洗ってもらっても良いが、さすがに尻尾は……自然と、尻付近まで洗われることになるので、それはヴァッカリオの成人男性としての矜持に関わる。
「うまく洗えなかったら言いなさい、また洗ってあげよう」
「うー……そうならないように練習するんだってば」
「そうだったな」
ふふ、と笑ってアポロニオは手の動きを再開した。頭に生えた耳の根元を、念入りに指でごしごしと洗う。くすぐったさにヴァッカリオは肩を揺らした。アポロニオが、おかしそうに「笑うな」とヴァッカリオを叱る。
何回も桶でやや乱暴に泡を洗い流され、終わった、と告げられたヴァッカリオはぶるぶると首を振って水滴を飛ばした。
「お兄ちゃんも洗ってあげようか?」
「では、頼むとしよう」
風呂椅子からヴァッカリオが立ち上がって、代わりにアポロニオが座る。椅子に座ったアポロニオは小さくて、ヴァッカリオは少しばかり身を屈めないと洗いにくかった。
昔は、アポロニオのことを本当に大きく思っていたのに、こうして見るとずいぶんと小柄で、まるで子供のようだ。もし、九本の尻尾がなければただの少年にしか見えないだろう。
ヴァッカリオの大きな手に耳を包まれて優しく毛に沿って洗われるのが気持ち良いらしく、アポロニオが目を伏せて穏やかな息を吐いた。
その様子にわずかばかりヴァッカリオは胸を跳ねさせつつも、その感情にそっとふたをして、桶に水を汲んだ。アポロニオの方がヴァッカリオよりも毛の量が少ないから、水の量も少なくて済む。
「はい、終わり」
「うむ、ずいぶんとすっきりしたぞ!」
「良かった!じゃ、もう一回あったまってから帰ろっか」
そうだな、とアポロニオが朗らかに笑って、先に露天風呂へと身を沈める。ヴァッカリオもその後に続いて身を沈めた。
どちらともなく、空を見上げて緩やかに息をする。星が瞬く空は、まさに癒しのひと時だった。
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