幸福に満ちた七夕を貴方に

いろんな人とネタ被りしたような気がするヴァカアポほのぼの。いつもどおり結婚済みだよしかも今回は新婚ほやほやだよ!!!私の秘伝のタレは「公表済みのバカップルを市民がからかってわちゃわちゃするイチャラブ」なんだなって再認識しました(それは秘伝のタレではなくただの性癖)


※捏造設定(新婚ほやほや)を生やしてあります。すぐ生やすしすぐ水と肥料上げて育てようとするからな。大きく育てよ……

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「次のお願い事は……あー、これはまた、『アポロンVI様と写真撮れますように!』だそうで……」
「ははは、私は写真程度ならいつでも大歓迎だぞ。きっと、これを書いた方は私となかなか出会えていないんだろうな」
「そうですね、まるで七夕の二人みたいですねえ。アポロンVI様はいつでも大丈夫とのことなので、今度、勇気をもって写真お願いしてみてくださいね!」

ここはとあるラジオ局の駐車場。ヴァッカリオは運転席のシートを倒して、ラジオから流れる兄とDJの声を聞きながらウトウトしていた。

七夕イベントをやるシティとやらないシティと、いろいろだが、ここアポロンシティは毎年七夕イベントを開催している。といっても、些細なもので、市の中央に飾られたいくつもの笹に市民が願い事を吊るすだけだ。そして、夕方以降にアポロンフォースがそれらを回収し、選別してからこうやってラジオでその年のゲストと共に内容を紹介していくだけだ。
大体の場合、暇があればアポロンVIが、そうでなければ有名なお笑い芸人やアーティストがゲストとして呼ばれる。そして、今年はたまたま暇で都合が良かったから、ヴァッカリオの兄がゲストになっていた。

「次は……『家内安全、健康第一』、普通ですけど、大切な願い事ですね!」
「ああ、全くだ。さすがの我々ヒーローも、各家庭内部と個人の健康まではサポートできないからな……しっかり、適度な運動とバランスの取れた食事を心がけて欲しい」
「はい、気を付けます……!」

あーあ、お堅い回答しちゃって、と思いながらヴァッカリオはくふくふと笑った。
ラジオで紹介されるのは、アポロンフォースが選別した短冊ばかり。当然、市民に公開されている笹にはとても言えないようなものも吊るされている。

「アポロンVI様とキスしたい」「アポロンVIにxxxしたい」「アポロンVIをxxxしてxxxxしたい」……などなど。

まあ、アポロンVI含む露出のあるヒーローに対するセクハラ短冊は毎年恒例だ。そしてダントツでアポロンVIに対するものが多く、ヴァッカリオは見かけ次第その短冊を破り捨て……るのは器物破損に当たるので、近くにいるアポロンフォースの隊員に通報している。当然、隊員もそういったものは直ちに撤去している。さすがに、公序良俗に反するものは置いておけないから仕方ない。

ヴァッカリオとしてはいますぐわいせつ物陳列罪で現行犯逮捕したいレベルだ。何しろ、あとで「短冊はアポロンVIがすべて持って帰って家で確認している」という噂がある中でわざわざ到底公の場で口に出せないことを書いて吊るすのだから、読ませようという下衆な精神は丸わかりだ。

そして、アポロンVIが短冊をすべて持って帰って家で確認している、というのは半分本当だ。持って帰っているのはフォースの方だが。翌日にはすべて目を通した後に祈りを込めて焚き上げているのだという。アポロンVI自ら焚き上げるという噂も相まって、実は他のシティからわざわざここに短冊を書きにくる人も多いのだとか。アポロン神の神話還りにそんな神通力はないのではないかと、ヴァッカリオもアポロニオも常々首を傾げている。

ラジオから流れるCMを聞きながらヴァッカリオは眠たい脳をさらにぐるぐると回す。
卑猥な短冊だけでも不愉快極まりないが――もっと、酷く、深く、兄を傷つけるものも多い。

「息子を返してくださいお願いします」「税金の無駄遣いはやめろ」「早く貴方がアポロンVIを辞めてくれますように」

割合でみればこういった手合いのものはごくごく一部であり、他はほとんどが平和で愛らしい願い事ばかりだ。だけれども、その悪意は白いシーツに染みを作ってじわじわと広がり、ほんの少しの面積であっても視界に入ればそればかりが気になってしまう。

ヴァッカリオもヒーローである手前、こういった悪意に出会うことは多いし、なんならアポロニオよりもよっぽど批判は多い。というか、一時期は批判しかななかった。それもこれも、英雄庁と相談して決まった方針だし、その辺は適当に言わせておけ、と思っている。

だけれども、兄でありアポロンVIであるアポロニオは、わざわざ一つ一つ向かい合っては、自分ができることなら頑張ろう、と思ってしまうのだ、真面目だから。でも、悪意のほとんどは無理な内容だし、目立つからアポロンVIを叩いているだけの阿呆ばかりだ。

「『世界平和』これまた、シンプルですけど大変なお願い事ですね」
「我々も日夜勤しんではいるが、やはり世界平和はなかなか難しいものだな。すべての人々に幸福が訪れるよう、これからも精進するとしよう」

そりゃあ無理だよお兄ちゃん、誰かが幸せを掴んだら誰かが後ろで泣いているのが世界ってもんだよ、とヴァッカリオは思ったけれども、まあ、その後ろで泣いている誰かを助けるのがヴァンガードの役目なんだよな、と少しだけ誇らしく心の中で呟いた。

今日は運転手だからアルコールを断っているので、さきほどから脳みそが暴走しがちだ。いつもなら考えないようなことがぐるぐると脳内を回っている。パチリ、と目を開けて車のフロントガラス越しに空を見上げた。夜空には星が瞬いていて、二人は無事に天の川を超えて出会えそうだ。

「さて、次は三つまとめてご紹介しましょう。『アポロンVI様がケガしませんように!』『アポロンフォースのみんなが元気でいられますように』『アポロンフォース、アポロンVI様いつもありがとう』です。もちろん、この三つ以外にも数多くのアポロンVI様及びアポロンフォース関連のお願い短冊がありました。毎年、多いですよね!」
「ありがたいことだな。我々も市民の皆様に支えられてここまでやってこれていることは間違いない……」

そうそう、こういうのでいいんだよ、とヴァッカリオはDJにグッジョブサインを出した。悪意よりこういう好意の方がよっぽど多いし、熱意だってちゃんと籠っているんだ。相変わらず、兄はアポロンVIとしてお堅い回答をしているけれども。

アポロニオには楽しい七夕を過ごして欲しい、そう思って、今日は夕食を食べに行こうと誘ったのだ。実際にいろいろ読むのは明日だろうけど、今日もいくつか良くない悪意を目にして、それで悲しい気持ちで七夕の夜を一人で過ごしてほしくない。みなが夢見る七夕という楽しい日を、一緒に楽しみたい。

長らく一人にさせてしまって本当に申し訳ないと思う。これからは、自分がずっと一緒にいるから、と、そう思ってヴァッカリオは駐車場で兄を待っている。

「ちなみにですね、今年はこういったものも非常に多く飾られていましたねー。『ディオニソスXIIとアポロンVIがいつまでも仲良くいられますように!』『夫婦円満』『末永くお幸せに!』」

ヴァッカリオは思わず飛び起きて、ハンドルを握った。一瞬、クラクションが鳴ってしまってさらに慌てる。

「そっそれは……あー……ありがとう……いや、待て、我々のことより個人のことを……」

さきほどまで、柔らかい声音とは言え比較的淡々と回答していたアポロンVIの声が上擦り、まとまりなく言葉を紡ぐ様子に、DJの笑い声が被る。

「それで、どうなんでしょうか、夫婦仲は?」
「ひ、非常に良好である……と思う……」

待ってなんでそこで急に小声になるのやめてよ、とヴァッカリオは頭を抱えた。自分としては非常に良好だと思っていたが、兄はやはり自信が持てないらしい。そこはきっちり言い切ってもらわないと、いろいろとアンチや過激派の燃料になりかねないというのに……。

「そ、そうだ、今日もこの番組が終わったら一緒に夕飯を食べようと話していて、車で迎えにきてもらうことになっている」
「あららら、そうなんですか!もうだいぶ遅い時間ですが……外食ですか?」

ペラペラとプライベートでセキュアな内容を喋るアポロニオにヴァッカリオは眩暈を覚えた。完全にパニックになっている、あれは。帰宅手段はともかく、どこそこに食べに行く、だなんて公の場で話すようなことではない。
ああ、これはフォースか英雄庁からNG入るだろうな、と思っていたら案の定CMになった。ヴァッカリオは熱くなった顔を冷まそうと窓を開ける。エアコンとは違う、少し湿り気のあるひんやりとした空気が車内に流れ込んできた。

「――と言うわけで、お二人が仲睦まじくお過ごしされている、ということがわかったわけですけれども」

DJの笑いを含んだ声に、アポロンVIは無言のままだった。軽く放送事故じゃないか、と聞いていたヴァッカリオは思ったけれども、変なことをしゃべるよりは黙っている方がよっぽど良さそうだ。

「弟さんを待たせるわけにはいきませんからね、最後に一つだけ短冊を紹介して終わりにしましょうか」
「……放送時間が余るのではないか?」
「あとは音楽を流しておくので大丈夫ですよ!それでは、最後の短冊、『兄といつまでも一緒に過ごせますように』です!」

――ああああああああああ!!!!!!
ヴァッカリオは車の窓を開けていたのも忘れて大声で叫んだ。ラジオ局の駐車場に、七夕の夜空の下に、野太い悲鳴が響き渡る。

なぜ!なぜピンポイントでアポロンフォースはこの短冊を拾い上げたのか!!どういうセンサーをしているのか!!!……謎は尽きないけれども、それよりも、これ完全にわかってて、ヴァッカリオが書いたってわかってて、読まれている、という事実の方がヤバい。

だって後からアポロニオが読んでもわからないように「お兄ちゃん」ではなく、わざわざ「兄」と書いたのに、それがよりにもよって第三者にバレた挙句に公開処刑されるとか本当にひどい。これは過激派の仕業ではないだろうか、と勘繰りたくもなるし、前からアポロンシティでのヴァッカリオに対する視線が厳しいのもやっぱり気のせいではなかったというのが真実味を帯びてくる。

「早く切り上げて弟さんの願い事を叶えてもらいましょうかね!それではみなさん、さようなら~!時間までゆっくりと音楽をお楽しみください!」
「ぁっ、さっ最後まで聞いてくれてありがとう!」

どうにか、アポロンVIとして挨拶できたようだが、スタジオでのアポロニオのパニックっぷりはヴァッカリオだけでなく、このラジオを聞いていたリスナーも手に取るようにわかっただろう。まあ、アポロニオだけでなくヴァッカリオも混乱の極みではあるのだけど。

しばらく、ハンドルに突っ伏して肩を震わせてじたばたしていたら、ガチャリと助手席のドアが開く音がした。ヴァッカリオは真っ赤な顔でのろのろとそちらを見やる。

「ヴァ、ヴァッカリオ、待たせたな……」
「別に待ってないよ、ラジオ聞いてたから……」

助手席に滑り込んだアポロニオは、息を荒げていた。恥ずかしさもあったのだと思われるが、どうやらここまで走ってきたらしい。ヴァッカリオもとりあえず、と思ってすぐに車を発進させる。どのみち、「弟が迎えに来ている」という重大な行動情報を喋ってしまっているので、出待ちされている可能性もあるからあまりのんびりはしていられない。

「あー……夕食だが、テイクアウトにして家で食べないか。店に迷惑がかかりそうだ……」
「うん、それがいいと思う……店名は出してないけど、なんとなくアタリがついちゃいそうだしね……」

頬を赤く染めたまま、アポロニオがぼそぼそと呟いた。ヴァッカリオも真っ直ぐ前を見たまま、ぼそぼそと返す。なんとなく、内緒話のような雰囲気になってしまった。恥ずかしくて、いつも通りの声量がお互いに出ない出せない……。

「そ、それで……その、今日、こっちに泊まっていかないか?」

そんなぼそぼそ静寂を打ち破るかのように、アポロニオが一段と音量を上げて半分ぐらい叫ぶような形でヴァッカリオの方を向いて言った。そして、ヴァッカリオもちょうど信号待ちだったので、アポロニオの方を向く。

「あ、う、お兄ちゃんが良ければ、おいらも泊まりたいって思ってたんだけど……いいの?迷惑じゃない?」
「ああ、問題ない、どうせ明日はフォース内で短冊のチェックと焚き上げだけだから……ヴァッカリオさえ都合がよければ……」
「じゃ、じゃあ泊まる!テイクアウト買ってお兄ちゃんの家いこ!」

信号が青になると同時に車が発進すると、二人ともへにゃり、と顔を崩した。じゃああの店行って、あれとこれを買って、と話し合う様子はすっかりいつもどおりだ。

「ふふふ、おいらの願い事もう叶っちゃったな~」
「片付けは自分たちがやるから早く帰れ、とスタジオを早々に追い出されたぞ」
「スタッフの人たちに感謝しないとね!」

少し緊張していた体をゆるめたアポロニオが助手席のシートに深々と体を預けた。運転中でなければすぐにキスしたいところだが、今は我慢。どうせ左手が余るから、と前にちょっかいを出したら運転中にそういうことをするな、とピシャリと怒られたのは最近のことだ。

「で、お兄ちゃんは短冊に何書いたの?」
「何って……それは……」

お前と同じことを書いたよ、とアポロニオが言うので、危うくヴァッカリオは赤信号を無視して突っ込むところだった。少しだけ急ブレーキになって、アポロニオがびくりと体を強張らせたが勘弁してほしい。

まあ、だいたい予想はしていたけれども、せいぜいが「弟がいつまでも健康でありますように」といった類のものだと思っていたのだ!あのアポロニオが、アポロンVIが「自分を含めて幸せを願う」ということは今までにあっただろうか?

彼はいつでも他人の幸せを願い、それを叶えようと日々鍛錬を続ける男であったはずだ。ついに、自分の幸せを願えるようになったということはとてつもない進歩ではないかと思う。これはクリュメノスの墓に報告しなければならない、とヴァッカリオは思った。クリュメノスは迷惑そうにしそうだがそれは知らん。

「ふへ、じゃあお兄ちゃんのお願いももう叶う?」
「そういうことだ。……今年の七夕は、とても良き日になったと思う」
「そうだね、よく晴れたし、たぶん織姫と彦星も今頃一緒にご飯食べてるんじゃないかな?」
「ははは、可愛らしい想像だな、ヴァッカリオ」

もう、からかわないでよ、とヴァッカリオが笑った。
二人分の幸せをたっぷり詰めて、ヴァッカリオの運転する車は七夕の夜を走る。

 

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