というわけで、でおあぽが動物園を楽しむ話。
この話のディオニソスXII(通称:でお)はいわゆるネグレクトを受けていた設定で、10代後半の現在まで動物園に行ったことがない、という背景です。
三次創作だからね、もうすべてがガバガバだね。
楽しめる人だけどうぞ。
「おい、ディオニソスXII。お前、今度の土曜は休みか?」
部屋でごろごろしながら漫画を読んでいたディオニソスXIIのところに、ノックもせずにアポロンVIがやってきた。
「休みだが」
「そうか。アポロニオからアポロン区にある動物園のチケットを貰ったが、行くか?」
「行く」
即答だった。むしろディオニソスXIIは単行本を放り投げて、アポロンVIが持っていた動物園の入場券を奪い取った。
そこに書いてあったのは、アポロン区の公営動物園の名前だった。キリンやらゾウやら、様々な動物の写真が掲載されているよくあるチケットだ。
目を輝かせてチケットの裏表を確認するディオニソスXIIの姿に、母性を最大にくすぐられつつアポロンVIは一つ咳ばらいをした。
「当日はアポロニオが弁当を作ってくれるそうだ」
「なんだと」
「リクエストがあれば言って欲しいらしい」
「わかった。リストアップして持っていけばいいだろうか?」
変なところでビジネス対応をするディオニソスXIIに呆れつつも、アポロンVIは頷いた。ディオニソスXIIはすぐに自室の机に向かうと、メモ帳を一枚ぺらりとめくって、熱心に何かを書きつけている。
その様子を見たアポロンVIは、呆れたようにため息をつくと、階段を下りた。
「アポロニオ、XIIが今、弁当のリクエストをピックアップしているぞ」
「ほう! それは作り甲斐がありそうだな。VIも一緒につくるか?」
「まあ……あの感じだと、二人がかりで作らねばならんほどリストが長くなりそうだからな……」
食べきれる分だけにしておけと言うべきか、と悩むアポロンVIの姿をアポロニオは微笑ましく見守った。本当は自分がディオニソスXIIに弁当を持たせてやりたいというのに、素直ではない男だ。
そんなわけで動物園デート当日。無事に晴れた(というより、アポロニオが前日に「明日は晴れにしておくから安心してくれ!」と大層な事を言っていたがまさか……)おかげで、ディオニソスXIIは仏頂面のままウキウキオーラを全開にして動物園の入場ゲートをくぐる事ができた。
「まずはライオンからか?」
「お前はどういうめぐり方をするつもりなんだ」
順路があるだろう、順路が、と言いながらアポロンVIはしっかり受付で回収してきた動物園のパンフレットをディオニソスXIIに押し付けた。
XIIはそれを受け取ると、パッと開いてふむふむ、とマップを確認する。
「よし、ライオンはこっちだ」
「おい」
順路とは正反対に走り出したディオニソスXIIに、アポロンVIは呆れつつもその後を文句も言わずに追いかける。
休日の動物園は家族連れや静かなカップル、はたまた恋人やら学生集団やら。大いに賑わっていた。そう、お世辞にも子供と言えないほどの青年(高身長)がドスドスと走ってライオンの檻にしがみついたとしても、誰も気にしない程度には。
「見ろアポロンVI。本物のライオンだぞ」
「そうだな。というかあまりその名前を口に出して欲しくないのだが……」
一応、周囲に気を遣ったのか、比較的抑え目な声であった。アポロニオの様にいつでも大きな声ではない。デパート内で離れてしまったXIIに対して「アポロン区からお越しのディオニソスXIIさん、保護者の方がお待ちです」と迷子の呼びかけを平然とするアポロニオより、ディオニソスXIIはまだかろうじて常識があった。
まあとにかく。ディオニソスXIIは日陰で大あくびをするライオンに夢中になっていた。雄ライオンはあくびをするだけしたら、手の上に頭を乗せて眠り始めた。
「……おい、動かないぞアイツ」
「まあ、ライオンは夜行性だからな。日中はあんな感じらしいぞ」
「狩りはしないのか?」
「動物園だしなあ……」
露骨にがっかり、と肩を落とすディオニソスXIIに、さすがのアポロンVIも心が痛んだ。おそらく、あの立派なたてがみと百獣の王の肩書が、期待をもたせていたのだろう。特に咆哮をあげるでもなく、むしろいびきをかきながら惰眠を貪る姿は、家にいる酒クズと大して変わらない。
「……ほら、向こうの熊の方がまだ楽しいんじゃないか? 何か歩き回っているぞ」
「! たしかに!」
アポロンVIの指さした先にある熊に気づいたディオニソスXIIはまた走り寄った。
檻の中では熊がのそのそと歩き回っている。そして、時折吊るされたタイヤのようなものにしがみついては揺さぶるなど、何かしらアクションをしてくれていた。
「見ろアポロンVI、あの熊、今、俺のことを見たぞ」
「お前そんなアイドルの追っかけのようなことを……!」
「シャッターチャンスだ!」
カメラを取り出すと、ディオニソスXIIは熊の写真を撮り始める。何やら手を振ったり、伸びをしたり、どうにか熊に振り向いてもらいたいようだ。
……正直、隣にいると恥ずかしい。アポロンVIは顔を見られないように帽子をかぶり直した。念のため、変装までとは言わずとも、キャップを被ってきて正解だった。
「……よし、熊の写真は撮れた。次は……ワニか!」
「お前はどうしう基準でルートを決めているんだ!?」
ワニと言えば、水棲生物。というわけで、こちらとは正反対のエリアに展示されている。かなり遠い……が、アポロンVIが引き留めるより早くディオニソスXIIは早歩きで向かい始めていた。
「あいつ……!」
ディオニソスXIIの早歩きと言えば、コンパスの差もあってアポロンVIがついていくには小走りになってしまう。これは今日、体力を使うことになりそうだ、とアポロンVIは眩暈を覚えるのであった。
そうして、ディオニソスXIIの無茶苦茶な回り方であらかた見終わった頃。少し、昼の時間は過ぎてしまったが、広場のベンチに座った二人はアポロニオお手製の弁当を広げていた。
「おお……素晴らしい弁当だ」
「お前がリクエストしたものはすべて入っているはずだ」
アポロニオに任せておくと何でもかんでも甘くなってしまう。が、ディオニソスXIIはそれだけ甘くても全く平気らしい。味覚より食欲の育ちざかり。
とは言え、ディオニソスXIIが糖尿病になっても困るし、味音痴に育っても困る。
そういうわけで、アポロンVIは半分ほどを担当して、しっかりとしたまともな味付けの料理を用意しておいたのだ。
たこさんウインナーにハンバーグ、卵焼きに各種サンドイッチ、さらに肉団子、ナポリタンスパゲティ。卵焼きがあるのにゆで卵と目玉焼きとミートオムレツが入っているのはアポロニオの仕業だ。一応、バランスよく生野菜サラダも入れてある。
ちゃんと、ゆで卵にはディオニソスフォースのマークをあしらった旗のピックが刺さっている。
ディオニソスXIIは真っ先にそれに手を伸ばすと、ひょいと口に放り込んだ。もきゅもきゅ、塩味だけのゆで卵を咀嚼し、お茶で流し込む。そしたら、そのピンを使って隣のチーズ乗せゆで卵を口に運ぶ。
「……おい、お前、ちゃんと噛んでるか?」
ディオニソスXIIは呆れたようなアポロンVIの声に、こくこく、と頷いて次から次へとおかずを胃に収めていく。
今日の弁当は重箱四段重ねにプラスしてサンドイッチボックス、デザートボックスの超特盛仕様だ。二人分とは言え、こんな量食べられないぞ、とアポロンVIはアポロニオに苦言を呈したのだが……この減り方の速さを見ていると、アポロニオの「育ち盛りなでおにはこれぐらいでちょうどいいだろう!」という自信満々の笑みは間違っていなかったようだ。
最後に、カットフルーツの山をぺろりとたいらげてディオニソスXIIは満足そうに息を吐いた。
「美味しかった」
「そうか。それは良かった」
「半分はお前が作ったのか? 味が違った」
「っ! そ、そうだ、アポロニオ一人では大変そうだったからな……」
その答えに、ディオニソスXIIはふーん、と興味なさそうなリアクションをした。アポロンVIのイライラメーターが一瞬でグッと上がる。
「おい、何か言う事はないのか?」
「……? あそこのソフトクリームをデザートに食べたい」
「そうではない! そうではない……が、まあ、買いに行くとするか……」
あまりにもディオニソスXIIがキラキラした目をして立ち上がったので。アポロンVIはがくり、と首を落とした後に、ディオニソスXIIにお小遣いを握らせて買い物に行かせた。
なぜか知らないが、アポロニオが「動物園に行くならお小遣いが必要だろう」とアポロンVIにがま口財布を握らせたのだ。アポロンVIもディオニソスXIIも立派な公務員であり、給料は下手したらその辺のサラリーマンより多く貰っているはずなのだが……。
ちなみに、財布の中には小学生のお小遣いのようなささやかな額が入っていた。
完全に、ディオニソスXIIを小学生扱いしている。まあ……弁当のリクエストリストを見れば、小学生と間違えても仕方ないのかもしれないが。
「アポロンVI、お小遣いはあとどれぐらい残っている? あそこのアメリカンドッグも食べたいのだが」
「お前まだ食うのか……まあ、アメリカンドッグを買う分ぐらいはあるぞ」
「そうか。あと、おみやげも買っていきたいのだが……」
アメリカンドッグの屋台と、アポロンVIが持つお小遣い用の財布を見比べながらディオニソスXIIが落ち着きなさげに肩を揺らす。
「土産については、自分たちの財布から出せばいいだろう。アポロニオからもらったのは、あくまでも『動物園を楽しむためのお金』だからな」
「そうか! じゃあアメリカンドッグと……あと、向こうのチュロスも買ってくる」
「だからお前は菓子とおかずをごちゃまぜに食うな!」
「ハンバーガーも買ってくるから金をくれ」
人の話を聞いていたか?? とアポロンVIは憤慨しつつも、少し多めに金をディオニソスXIIに持たせた。おそらく、ハンバーガーの屋台まで行ったところで、追加でフライドポテトを買いたくなるはずだ。
「全く、本当にワガママ放題な男だな……」
ぶつぶつ、文句を言いながらアポロンVIは弁当の後片付けをする。これだって、結局ディオニソスXIIは一つも持ってくれなくて、ずっとアポロンVIが背負っていたのだ。本当に、世話が焼ける男だ。
まあ、アポロンVIはそんな俺様何様ディオニソスXII様なヤツの世話を焼くのが、意外と楽しくて仕方がないのだが。
そうやって弁当をすべて片づけた頃に、ディオニソスXIIは両手いっぱいに屋台の食事を抱えて戻って来た。器用に積み上がったそれらを、落とさないように慎重に歩いてくる。案の定、ハンバーガーの隣にはフライドポテトが存在していた。
ディオニソスXIIが持ってきたそれらを、アポロンVIも受け取ってベンチに置く。実にあれこれ、買ってきたものだ。
「お前、本当に食べきれるのだろうな?」
「もちろん。VIも別に食べていいぞ」
「偉そうな口を叩いて……」
そう文句を言いつつも、フライドポテトを一つ口に運ぶ。動物園らしい、かなりしんなりしてふにゃふにゃでお世辞にも超美味しい、とは絶賛できない味だった。だが、このディオニソスXIIは頭の上に音符でも出しそうな勢いで楽しそうにぱくついている。
「……午後はどうする。もうほとんど動物は見終わったが」
「土産物を買って帰る」
「そうか」
特にアポロンVIの意見を聞いたりはしない。ディオニソスXIIとは、そういう男だ。ま、そんな男にほだされた自分も自分だが、とアポロンVIはハンバーガーソースで汚れたXIIの口元を拭ってやりながら、一人心の中で乾いた笑い声をあげていた。
有言実行。ぺろり、とすべての食事をたいらげたディオニソスXIIはスタスタと歩いて売店へと向かう。
「お土産、何を買うつもりだ?」
追いついたアポロンVIの問いに、ディオニソスXIIは首を傾げて答えとした。どうやら、何を買えばいいかわからないのに「土産を買うもの」という知識だけは持っていたらしい。
はあ、とため息をつき、アポロンVIはディオニソスXIIを手招きする。
「まずは、職場の分。まあフォース全員分買っていくわけにもいかないだろうから、側近分だけでいいだろう。人数分のものが入ったこういったクッキーあたりでどうだ」
「なるほど」
「それから、友達や家族に持っていく分。その人が欲しそうなものにすればいい……そうだな、チビ兄弟たちならこういった文房具とかが喜ばれるんじゃないか?」
「ふむ」
「あとは……自分が欲しい、記念品だな。せっかく来たんだから、思い出の物を買っていけばいい」
アポロンVIの解説にふむむ、と唸り声をあげてディオニソスXIIは棚をあちこち、見て回る。そのうち、店内のカートを持ってきて上にどさどさと物を入れ始めた。
「……お前、どれだけ買うつもりだ」
「フォースへのお土産と家族の分。あと自分の分」
「待て、誰用だこのでかい熊のぬいぐるみは!」
「アポロニオ用」
アラフォーのアポロニオに? 熊のぬいぐるみ? と一瞬アポロンVIは思ったが、この熊のぬいぐるみを抱えているアポロニオはさぞかし可愛くて癒し度が高そうだ、と思い直して口をはさむのをやめた。
「そういえば」
「なんだ?」
「お前はお土産、何が欲しい?」
「……は?」
アポロンVIは目をぱちぱちとさせてディオニソスXIIの顔を見上げた。
「家族の分と、自分たちの思い出の分」
「っ!」
ディオニソスXIIは何でもないかのように、真顔でアポロンVIにそう告げる。そう、ディオニソスXIIはデリカシーなんて言葉と一切縁がなくて、俺様振舞で何にもアポロンVIの事なんて考えてなさそうなのに――こういうところで、アポロンVIの事を大切な人だと言ってくるのだ。
「……では、このハンカチなどどうだ? 柄違いだが、おそろいでいいだろう」
「ふむ。俺はワニがいい。お前は?」
「……キリンにでもしておく」
こうして、おそろいのハンカチがカートに入れられた。そこから、ディオニソスXIIはもう一度、アポロンVIを見る。無言のまなざしに、アポロンVIは首を捻った。
「……何だ、まだ何かあるのか?」
「家族の分。アポロンVIはお土産、何が欲しい?」
……なるほど。アポロンVIは、ディオニソスXIIにとって大切な「家族」というわけだ。それにむず痒さを感じつつ、アポロンVIは小さなワニのキーホルダーを手に取ってカートに入れた。その様子に、ディオニソスXIIは満足そうに頷く。
「よし、会計しよう」
ガラガラ、大量に物品を乗せたカートをレジに運ぶディオニソスXII。その後ろに続きながら、アポロンVIは先に配達の手続きを根回ししておいた。絶対、二人で持って帰るには多すぎる。
もちろん、ある程度のものは手元に残しておかなければならない。きっと、ディオニソスXIIは「お土産を自分の手で持って帰る」ということに楽しみを見出すはずだ。
とりあえず自宅用に買ったお菓子缶や、自分たちのハンカチぐらいだろう。
一日、ディオニソスXIIにいつも通りに振り回されたアポロンVIであったが、普段よりも緩んだ顔で土産袋を片手に「帰るぞ」と言うディオニソスXIIを見ていれば、全て許せるというものだ。
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