11月27日のオンリーで行われたヴァカアポリレー小説です。タイトル思いつかなかったのでそのままで申し訳ない……ヴァカアポの日に間に合わせたかったんですが、ちょっとうんうん唸ってて完全に時期を外しました懺悔。ヴァカアポのほのぼの休日です。
久しぶりに揃って休日が取れた。ヴァッカリオはベッドの中でひとつ欠伸をしてから、ようやくもそもそと這い出てくる。すでに日は昇り、リビングの窓から差し込む光がまぶしい。
「お兄ちゃん、おはよう」
「ああ、おはよう、ヴァッカリオ」
リビングの向こう、対面キッチンがあるダイニングには良い匂いと小気味良い調理の音が響いていた。
タイミングよく起きてきたな。と、ふわりとした朝の柔らかい日差しのような笑顔を向けられ、食べる専門のヴァッカリオはへへ、と得意げに笑顔を返しいつもの席に座る。
あとはもう食べるばかりと並べられた料理と最後に目の前にコトリと置かれ、焼かれたばかりの香ばしい匂いの元へと目を落とす。
「あれ。この目玉焼き黄身が二個だ」
ヴァッカリオの言葉に、アポロニオはにっこりと笑顔を輝かせて「ラッキーだな」と言った。
「こんなにラッキーなんだから、今日は何か良いことが起きそう」
「良いこと?」
そうそうとヴァッカリオは楽しそうにうなずくと、目の前の椅子に腰を下ろしたアポロニオを愛おしそうに眺める。
「例えばこんなふうに、お兄ちゃんと休みが重なって一緒に朝ごはん食べられたりね」
パチパチと瞬きを繰り返し言葉を飲み込んでいるアポロニオへ、それじゃあ冷めないうちに食べちゃおうとヴァッカリオは声をかけた。
「今日はこれからどうする?」
朝からたくさん並べられた料理を堪能しながら、そう切り出す。シャキシャキレタスのサラダに、目玉焼き。野菜のスープに、薄いトーストとさらにはデザートまで。
張りきった料理の数々は、アポロニオなりの休日への期待のあかしだ。こんなに天気が良いのだから、ふたりでどこかに出かけるのもいいし、家でのんびり過ごすのでもいい。
二人で休日にどうやって過ごすのか、それを考えるだけでも幸せな気持ちで満たされるのだ。
「私はヴァッカリオといっしょに過ごせるなら、何処かへ出かけるのでも、家でゆっくりするのでも、どちらでもいいぞ」
太陽のように眩しい笑顔でアポロニオはそう言った。
「お兄ちゃん……」
ヴァッカリオだってアポロニオといっしょに過ごせるのなら何処でも構わないと思っているのだが、それでは一生今日どうするか決まらない。
「じゃ、今日はちょっと外に出かけない? 天気もいいし、朝からラッキーなことあったし」
「外に行けばもっとラッキーがあるか?」
アポロニオが面白そうに笑いながら言った。それを受けて、ヴァッカリオも自然と笑いを零す。
「そーゆーこと。あ、お兄ちゃんどこか行きたいところある?」
「ふむ、お前という荷物持ちがいるなら日用品の買い物にでも行こうかと。あと愛用していた掃除機の調子が悪いようだから、買い替えもしたい」
「おっけー。じゃ、車で移動しようか」
多忙を極めるアポロニオは、普段から日用品も含め様々な生活用品を割高な通販で済ませている。とはいえ、時間があれば自らスーパーに赴いて食材を探すこともあるし、質素倹約を是とするアポロニオにとって余裕があるのであれば通販よりも自分の足で買い回りたいということだ。
朝食を片付けて、アポロニオはさっそくヴァッカリオが回してくれた車に乗り込む。ペーパードライバーのアポロニオと違って、ヴァッカリオは日常的に運転をしている。何しろ、VTOLの運転もできるぐらいだ。最新の機械一つに手間取るアポロニオとは大違いである。
「最初は家電から?」
「そうしよう。お前は何か欲しいものあるのか?」
「新しい服でも買おうかなあって。……ほら、ディオニソスXIIとして復帰したから、オフィスカジュアルな服とか、ね」
ヴァッカリオの苦々しい呟きを意に介さず、アポロニオは言葉を額面通りに受け取って大きく頷いた。
「そうだな、ディオニソスXIIとして表舞台に立つようになったのだから、それなりの服を着用せねばな。お兄ちゃんが見繕ってやろうか?」
「いいよ、自分で選ぶから。式典用のスーツとかもさ、太もも回りとか腕回りとか結構キツくなっちゃって」
一度死んで生き返った男、ヴァッカリオ。どうやらハデス神のサービスなのか、はたまた本人の努力の賜物なのか、再構築された体にはずっしりと筋肉がついていて体重は激増な上に着ている服もパツパツになってしまったのであった。着ていく服がない、と嘆きながらパツパツのシャツで緊急出動した時のディオニソスフォースの部下たちの爆笑と言ったら! もちろん、ヴァッカリオは後で全員シメた。
「スーツも新調するのか?」
「まあ、今日はとりあえず店選びかな」
デザートに手を付け始めたヴァッカリオを見つつ、アポロニオは小首をかしげて難しい顔をした。
「次にいつ休めるかわからないのだから買ってしまえば良いではないか」
「採寸あるから結構時間かかるよ~?」
「それぐらい待てるさ。今日は一日休みだからな! それに、お前の成長を感じることが出来るのだからこれを逃さないわけにはいかないだろう」
目をキラキラと輝かせて鼻息荒くトースト片手に語りだそうとするアポロニオを慌ててヴァッカリオは制した。こうなると話が長い、アポロニオが喋り終わって朝食を食べ終わる頃にはもう昼食の時間になっているかもしれない。
「あーはいはい、わかりましたわかりましたよ」
思わず投げやりに言ってしまえば、アポロニオは急に口を噤み、見るからに悲しそうに眉を下げる。肩を落としてトーストをもそもそと口に運ぶアポロニオにヴァッカリオはしくじった、と口いっぱいのデザートを必死に咀嚼しながら挽回の一手を考えていた。
しかし、先に口を開いたのはアポロニオの方で。
「……重いと思われるかもしれないが、また、お前が成長して……生きている、と感じさせて欲しい」
「お、お兄ちゃん……」
「わかっている、わかっているのだ、お前はもう健康で、兄の庇護など必要ない立派な大人であると。だが、それでも……その……お前の、その肉体が、仮初なのではないかと不安になってしまって」
トーストを片付けたアポロニオはどんよりとしたオーラを纏ったまま、デザートに手を伸ばす。普段ならニコニコ笑顔だろうに、その顔にはすっかりしょぼくれたアラフォーおじさんのやるせない表情が広がっていた。
ヴァッカリオは頬をかきながら言葉をひねり出す。
「あー……うん、クリュメノスのこと信じてやんなよ。それはそれとして、お兄ちゃんが言うなら採寸から生地選びから何から何まで見てもらおうかな!」
「! 任せなさい、お兄ちゃんがお前にぴったりのオーダーメイドスーツを選んでやろう」
「期待してる」
ヴァッカリオの言葉に、途端アポロニオは笑顔を取り戻して顔を輝かせる。単純だなあ、とヴァッカリオは内心苦笑すれども、自分の言葉や態度ひとつでここまで感情を動かされるアポロニオお兄ちゃんが可愛くて仕方ないのだ。
勤務中のアポロンVIは冷静沈着、クールであるとさえ言われるのに、プライベートではこの通り。ニコニコ笑顔からしょんぼり顔まで、くるくると表情が変わる。……それも、ヴァッカリオの前でだけ。
その事実に気づいたのは、冷戦の10年を経てから。10年の間、兄の顔は冷たく凍り付いたままだった。それが崩壊するように涙とともに解けてなくなり。10年ぶりに見た笑顔は、ヴァッカリオの記憶にある優しい笑顔となんら変わらず、それでいて、ヴァッカリオのためだけの笑顔であると教えてくれた。
食器を片付けるために立ち上がったヴァッカリオは、アポロニオの隣を通るときに身を屈めた。兄の形の良い耳が目の前にある。思わず食いつきたくなる衝動を抑え込んで、そっと意図して艶のある声を口に上らせた。
「夜にもたっぷり、おいらがどれだけ成長したかたくさん味わってもらうからね」
「!!!」
「生きてる、ってその体に教えてあげるよ。……楽しみにしてな、お兄ちゃん」
バッ、と振り返ったアポロニオの顔があっという間に朱に染まり、デザートを含んだままの口がわなわなと震える。それでも、食べ物を口に含んだまま喋るのは憚られたのか、アポロニオは噛むスピードを上げて必死に飲み込んだ。
「ヴァッカリオ!」
いたずらをする弟を叱るように、アポロニオが名前を呼んだ時にはすでにヴァッカリオは立ち去っていて。後に残されたアポロニオは、真っ赤な顔を両手で覆って、しばらく食卓でぷるぷると震えていたという。
リレー小説参加してくださった方々、ありがとうございました!!
※当日のものより多少整形(改行調整など)してありますが、文章については一切触っておりません。
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