ヴァカアポ、クソギャグ。二人がひたすらにアポロンVIのキャンペーン写真(?)について語り合っているだけです。※若干、弟の方がキャラ崩壊しているので注意
ヴァッカリオは頭を抱えていた。心理的な意味ではなく、物理的に。
「ど、どうしようこれ……」
彼が頭を抱えるその理由、それは目の前の段ボールにあった。
時を遡ること数分前。呼び鈴を押されて玄関に出てみれば、そこには待っていた兄の姿ではなく、大きな段ボールを抱えた宅配業者があった。
「お届けものでーす!サインお願いします!」
はて、こんな大きなものを頼んだ覚えはない、と思ったが段ボールの宛先表と側面に書かれた文字を読んでヴァッカリオは噎せた。
側面には大きく『◯◯アイスキャンペーン当選おめでとう! 特賞・等身大アポロンVIパネル』と書いてあったのだ!
呼び起こされる数ヵ月前の記憶。
いつものエリュマでパワフルワンを調達したときに胡散臭い笑顔とともに近づいてくる店長。まるで懲りてないとまでは言わないが、この笑顔の時はだいたいが面倒くさいことになるのだ。
「お客様、アイスクリームはいかがですか? はいわかりました3ダースお買い上げありがとうございます!」
「待っておいら一言も喋ってないんだけど?」
さあ、金を支払えと言わんばかりの手を打ち払って、ヴァッカリオはため息をついた。
「迷惑料でも払ってもらおうかと思いまして」
この前、エリュマの前の駐車場で酔っ払ったまま居眠りした結果、業を煮やしたこの店長に通報された記憶は新しい。
「あーはいはい。で、なんでアイス?」
「向こうの銀行近くのエリュマあるでしょう? あそこが一桁間違えて発注したらしくて。近隣店舗で手分けして捌こうって話になったんですよ」
へー、あそこの店舗ってこことオーナー同じなんだ、とヴァッカリオはぼんやり思った。
「あーもしかして一昨日にヴァンガード隊に匿名であった差し入れって……」
店長は肯定こそせずに深いため息をついた。
と、なると、ここで買ってベースに持っていくわけにもいかない。今、ヴァンガード隊の冷蔵庫はアイスクリームで90%が占められている。毎日、アレイシアやエウヴレナ、遊びに来たネーレーイスがうんうん唸りながら消費しているところだ。
これ以上買って持っていったらボスに絞め殺される。
「冷蔵庫にも入らないし、さて困ったというところでして」
「いやおいらだって独り身なんだからそんな大量のアイスは消費できないよ」
はい、この話は終わり、とばかりにヴァッカリオは立ち上がった。物事には限度というものがある。
金なら比較的余裕はあるから力になれるが、アイスの消費はさすがに――
「実はキャンペーン中で、アポロンフォース監修のもとアポロンVIと全面タイアップしてるんですよ」
やっぱりアイスの消費も頑張れるかもしれない。
「くわしく」
「パッケージもアポロンVIデザインで、英雄コスチュームverと私服ver、さらに割合が非常に少ないレアパッケージのコスプレver(全三種)があります」
何それ超見たい、ヴァッカリオは様々な問題をすべて投げ捨ててストレートに思った。冷蔵庫に入らないのも大した問題ではない気がしてきた。
「……で、期間限定品ですのでキャンペーンが終わったら売れ残ったものはすべて廃棄処分になります。あなたもゴミ捨て場のアポロンVIを見たくないでしょう?」
「全部買います」
最近、暑くなってきてちょうどアイスが欲しいと思ってたんだ、さすが店長、などど盛大に手のひらを返してヴァッカリオは店にあったアイスを全て購入して帰った。持てる量ではなかったのであとで配達してもらうことにして。
後に彼は仕方なかったんだ、と誰に聞かれるでもなく言い訳しつつ、死ぬ気でアイスを食べきった。ヴァッカリオとて立派な成人男性。胃袋の容量なら人並み以上にある。そう、あの死ぬほど甘い卵料理ラッシュも食べ切れたのだからできないことはない、最強に不可能はない!
「この先5年分ぐらいのアイスを食べた、もうしばらく見たくもない」
それが戦いを終えた男の率直な気持ちであった。
ちなみにコレクション用に洗っておいたもの以外のパッケージは兄が家に来たときに強制処分された。
捨てるに捨てきれないものばかりだったので、捨ててもらってちょっとホッとしたとかナントカ。
そんな悲劇の中、ちゃっかり応募していたキャンペーンに当選してしまったのだという。応募したことすら忘れていた。
宅配業者の「なんでこんなおっさんがアポロンVIのパネルを……」という白い目が痛かった。
――違う、違うんだおいらが欲しかったのはオレンジ色のアポロンVIをイメージしたブランケットだ。寝るときに良さそうだと思ったんだ!
ゾエルが聞いたら「独りで眠れねえのかよ、このxxxx!」罵られるのは間違いない。
「と、とりあえずお兄ちゃんが来る前に隠さないと!」
「?私がどうかしたか?」
「のわああああああああああ!!!!!」
ヴァッカリオは比喩でなく本当に飛び上がった、物理的に。
そもそも、ヴァッカリオは兄が来たと思って玄関に迎えに行ったのだった!宅配業者が帰ってからそこそこの時間呆然としていたようだ。
「何だこの段ボールは。運ぶなら手伝う、ぞ……」
兄の言葉が中途半端に途切れた。弟は顔を覆ってしゃがみこんだ。
「……これはずいぶんと前のキャンペーンのやつだな?」
「ああ、うん……」
しげしげと眺める姿を見て、ヴァッカリオはもうあきらめた。世の中、あきらめが肝心ということはよくある話だし、この兄に関わることならなおさらだ。
「ヴァッカリオが私のことを気に掛けてくれているとは、兄は嬉しいぞ!よし、開けてみよう!」
「うえええ、やっぱりそうなる~?」
アポロンVI本人の前でアポロンVI等身大パネルを取り出すとはなんたる羞恥プレイ。
全身からわくわくオーラを出している兄に否とも言えず、あきらめて居間へと段ボールを運びこんだ。
もし、このときヴァッカリオがちゃんと宅配伝票に目をとおしていれば、また違った未来かあったかもしれない。
ヴァッカリオは頭を抱えていた!物理的に。本日二回目である。
「なんというか……こうして見せられると、さすがに恥ずかしいものがあるな……」
「ああ……うん……なんでこんなのOKだしたのお兄ちゃん……」
照れるアポロニオと遠い目をするヴァッカリオ。
二人の目の前にそびえ立つ(?)はアポロンVI等身大パネル・コスプレver……
(なんで!よりにもよってこれ!!!)
店長は言っていた、今回は英雄コスチュームver、私服ver、コスプレver(全三種)があると……
英雄コスチュームverはわかる、いつものアポロンVIの姿だ。
私服verはいつもの通勤服。まあ要はアスリートファッションだ。こちらも世間にはかなり浸透している
さて、問題はコスプレver。ヴァッカリオはなんだよそれ、と聞いたときに思ったし、パッケージを見てもう一回なんだよこれ、と思った。
全三種。内訳は医者、楽器演奏者、学生だ
いやもう意味がわからない、とヴァッカリオはアイスの海に溺れながらそのパッケージ達を死ぬ気で探し回ったのだ。めちゃくちゃに気になる。
恐らく、いずれもアポロン神としての性質を表したものだろうが、よく英雄庁……というか、狂信者だらけのアポロンフォースが許可したものだ。
発売され瞬く間にヒット商品になったこのアイス、レアパッケージの写真が出回った瞬間に売上がさらに爆発したという逸話もある。
ちなみに、ヴァッカリオが当てたパネルは学生バージョンだ。
架空の学校のブレザーを着たアポロンVIが学生鞄を肩にかけて微笑んでいる。放課後でもイメージしたのだろうか。
アポロンVI自体、ヒーローになった25年前からほとんど成長していない。つまり
(くっそ似合うし懐かしすぎる……)
と、ヴァッカリオの精神にも下半身にも大ダメージを与えるほどに似合いすぎていた。
ヴァッカリオが物心ついた頃にはもうアポロニオは学校に通っていた。記憶が鮮明になってくる年頃だとちょうどアポロニオがこういったブレザー姿で遊んでくれたことを覚えている
「スタッフやカメラマンに似合うといわれても、喜んでいいやら、困ったものだったな」
「あ~~まあ、そうだよねえ……」
撮影のときの様子を思い出して、アポロニオがしみじみと語ってくれた。
医者バージョンもヴァッカリオ的にはヤバかった。
黒のスラックスにワイシャツとセーター、そして白衣。聴診器とカルテ。ここまではまあ、わかる。ここまででもヴァッカリオのHPは半分ほど削られたがまだ持ちこたえた。
ところが、耐えきったと思わせておいて医者バージョンも漏れなくヴァッカリオにトドメを刺しに来た。
医者のアポロンVIは、メガネをかけていた!
黒縁メガネ!しかも、ちょっと困ったような顔で見上げる感じの!上目遣いの!
なぜそこで、メガネ!と思う気持ちと、スタッフのセンスに拍手を!と思う気持ちで、そのパッケージを見つけたときは汚部屋の中を全裸でブラボーと叫びながら転がり回った覚えがある。
「……ねえ、お兄ちゃん、なんで医者のコスプレでメガネかけたのさ?」
「ああ、最初は普通に撮ったのだがせっかくだから、とスタッフのメガネを借りてもうワンカット撮ってみたのだ。」
アポロニオはそのときのことを思い出したのか薄く微笑んだ
「度が入っていたのでな、そのままではよく見えなくて、めがねをちょっとずらしてしまったんだ」
「えっじゃああれってお兄ちゃんの天然なの」
「天然?」
いや、なんでもないとヴァッカリオは全力で首を降った
兄のこの上目遣いで何人、何十人、何百人がやられたのだろう。全国にいるはずのアポロンVI同志に幸あれ……。
「これだとメガネの意味がないのではないかと思ったのだが、プロデューサーがむしろこれがいいと言って正式採用になったそうだ」
プロデューサーグッジョブ。ただし下心があったら殺す。
「じゃ、じゃああのフルート吹いてるのは?お兄ちゃんフルートできたの?」
「まさか!吹いている真似だけだよ」
楽器奏者。燕尾服でフルートを吹くシンプルなコスプレだ。シンプルなコスプレってなんだろう。
だが、その瞳は伏せられていて物憂げだ。からだにぴったりとフィットする燕尾服のせいもあって、抱きしめたい、抱きしめたら折れてしまいそうな儚さがある。
正直、ヴァッカリオはこのコスプレはあまり好きではなかった。いや好きなんだけど、なんか心にひっかかって楽しめない、みたいな。その表情から、あまりにも悲哀を感じるからだろうか。
思わず、その日の夜はアポロニオの家へと駆け込み、昔のように手を握って寝たのは自分の心の弱さだけではないと思う
「しかしこのようなパネル、いったいもらって何に使うんだろうな?」
何ってナニだよ、お兄ちゃん、という言葉はかろうじて漏れなかった。危なかった本当に。
「お店持ってる人なら展示して客寄せにしたりするんじゃないかな?世界に数枚しかないレアだし」
「そういうものか……まあ、喜んでもらえるなら私も嬉しいものだ」
アポロニオは立ちあがってパネルの隣に立つと、たしかに同じぐらいの大きさだな、と一人感心していた。
「ちなみにさあ、これ以外にもなんか候補にあったの?おいら、制作裏話みたいなの聞いてみたいな〜」
さもお兄ちゃんの仕事振りに興味があります下心なんて1ミリもございませんですわよ、と白々しい態度でヴァッカリオは兄に尋ねた。
「面白い話がなくてすまないが、私のところにきたのはもう諸々決定後の話だからなあ……」
「ま、そりゃそうだよねえ。多忙なお兄ちゃんに企画からお伺いたてるなんてなさそうだし」
「ああ、でもあとから部下に聞いたのだが、この学生バージョンはセーラー服にするのも面白いんじゃないかってアイデアもあったらしい」
「はあああああああ!?!?!?!?」
セーラー服、とは。
「まあ、今回のキャンペーンもそこまでふざけたものではなかったからな。……案の時点で却下になっているから、私はセーラー服など着ていないぞ?」
驚きのあまり立ち上がってアポロニオを見下ろす弟の姿に、少しばかり後退りしながら言い訳めいた言葉が口からでた。
「そりゃ、そりゃあセーラー服なんて、天下のアポロンVIがさあ……」
―-着てほしいよね!?天下のアポロンVIがセーラー服着てスカートふわりと広げながら微笑んでくれるコスプレ見てみたいよね!?
という弟の心の叫びは現実に漏れでることなく。
「うむ、お前の反応を見ている限り却下になって正解だったようだな。今後もそういった手合いのものは断るとしよう」
当の本人の無情な判断により、天下のアポロンVIがセーラー服を着て微笑んでくれるという全アポロンVIファンの夢はここに砕け散った。
どこかの黄昏ていそうな異界で「お兄ちゃん!セーラー服!お兄ちゃん!セーラー服!」と叫ぶ気持ちの悪いボンノウンが目撃されたとかされてないとか。
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