お兄ちゃんがうさぎになった!って聞いて下心丸出しで迎えに行ったヴァッカリオとうさぎお兄ちゃんのほのぼのコメディ。カップリングというよりは、「うさぎお兄ちゃんかわいい」って思うためのイメージ小説みたいな感じです。
※とにかくお兄ちゃんかわいいかわいい!って感じなので、そういう頭悪い(?)話で、若干ヴァッカリオもキャラ崩壊気味なのでそういうのがNGな方はここでストップ推奨です!
※なんかこう、私の「お兄ちゃんかわいい!!」って悶えをヴァッカリオにやらせてる感がちょっとあるので……
――アポロンVI負傷!
そんな凶報が飛び込んできた昼下がりのディオニソスフォース執務室。ヴァッカリオは持っていたパワフルワンの空き缶を投げ捨て、ウェスターに「あとは任せた!」とすべてを投げつけ、収容されていると聞いた英雄庁の医療センターへと飛び出していった。
ディオニソス区からゼウス区まで、そこまで距離はない。そのまま走っていくか、バイクに乗るか、と一瞬悩んだ後、ヴァッカリオはそのまま自分の足で地面を蹴った。ディオニソス区もゼウス区も走行速度制限はかなり緩い。それだったら、この身一つで走った方が早い。
英雄庁医療センターに辿り着き、ヒーローカードを提示してすぐに上階の奥まった部屋へ。
「容態は?」
垂れる汗を手で乱暴にぬぐいながら、慌ててやってきた英雄庁の職員に尋ねた。ヴァッカリオの鋭い視線に、彼はぶるりと身を震わせた後に、視線をうろうろとさ迷わせて口を開く。
「ケガ、はありません」
「? ケガは……あーってことは、なんか、変な姿になっちまったとか?」
神話還りの攻撃からもたらされるものは、何も物理的なケガだけではない。様々な怪異ともとれる、摩訶不思議な現象も引き起こされるのだ。そう、例えばオオカミの耳が生えたり尻尾が生えたり、羊の真ん丸な角が生えたり、真ん丸な尻尾が生えたり。
ヴァッカリオの言葉に、職員は曖昧にうなずき「あの、その……うさぎの……」と小さく呟いた。
うさぎ!! その単語を聞いたヴァッカリオは目をカッ! と見開いた。
ケガはないと聞けて安心したのもつかの間、まさかのうさぎ化とは……!
わかるだろうか。この、ヴァッカリオの興奮具合が。それまでの不安や緊張から百八十度反対方向に突き抜けた煩悩と興奮が。
まあつまり。ヴァッカリオは、あのアポロニオが「うさぎさん」になったと聞いてそれはもうさぞかし可愛いのだろうと、さぞかしふわふわでプリティなのだろうと、そして、うさぎというからにはそれはもう性欲が強いのだろう、と一瞬にして計算して弾き出したのだ。「うさぎ」という単語を聞いてから瞬きする間のわずかな瞬間で、思考を走らせたのだこの男は。
「ごほん。うさぎっていうのは、あれか、あの、うさぎの耳とか、尻尾とか」
「! ええ、そうです、そうです! ちょっと垂れ気味の白い耳と尻尾が生えてしまいまして!」
職員は一瞬でヴァッカリオが理解を示してくれたことにほっと安堵したのか、アポロンVIことアポロニオがどんなうさぎになってしまったのかを説明してくれた。ほう、垂れ耳とな。ヴァッカリオは深く考えるようなフリをしながら、脳内ではめくるめくピンクな妄想を繰り広げていた。
「で、今はどこに?」
「あ、はい、今は検査中で……あ、終わったみたいです!」
ちょうどタイミング良く、彼の端末が音を鳴らした。ヴァッカリオは一つ頷くと、行くぞ、と言う。いきなりやってきて何の説明もなく事務員を顎で使うヴァッカリオだが、それだけの立場の人間なのだから仕方ない……のか? こんなにも下心100%で突撃してきたというのに??
もちろん、他人の脳内なぞ知ることのない英雄庁の職員は「さすがディオニソスXII、頼りになるなあ」と感心しながらヴァッカリオを処置室へと案内した。アポロンVIに何かあったときに頼れるゴッドナンバーズとなるとなかなか限られてしまう。その中で、最近復帰したディオニソスXIIの存在は実にありがたかった。いつでも、真っ先に駆けつけてくれるのだからさぞかし仲間思いなのだろう、と一部では評判である。
そういうわけで、仲間思いだと思われてるところ中身はただの兄溺愛系弟ことヴァッカリオは、ぐふぐふと脳内で「うさぎのお兄ちゃん」に何の服を着せようかと妄想しながら処置室へと足を踏み入れた。
「む、ヴァッカリオではないか!」
「おに……アポ……アポロンVI?????」
お兄ちゃん、と言いかけて慌ててヒーロー名を言い直し……たはずのヴァッカリオは、もう一度言葉を詰まらせてから首をひねりながら改めて名前を呼んだ。
そう、処置室にいたのは。間違いなくうさぎの耳と尻尾を生やしたアポロンVIであった。
手のひらサイズの。
「えっ????」
「すまないヴァッカリオ、迷惑をかける……」
「えっ???????????」
ヴァッカリオの目の前で、大きな診察台にちょこん、と座った小さな小さなうさぎ人間が、しおしおとうさぎの耳を垂れさせていた。
「いや、迷惑じゃないよ、全然! うん、大丈夫!」
言った後にヴァッカリオは「何が大丈夫なのだろう」と思ったが、あの小さなうさぎ人間……もとい、ちびうさアポロニオがしおしおしているのを見たらもう何も言えなくなってしまったのだ。
ええっと? とヴァッカリオはぎこちなく首を巡らせる。目があった医者は、微妙な顔をして頷いた。
「とりあえず、人体に問題はありません。また、変異の方もヴィランがかけた神力分が抜ければ、すぐに戻るでしょう」
「はあ……」
二人の話を聞いていた小さなうさぎ人間が、診察台の上にすくっ! と立ち上がった。キリッとした顔をしているが、端的に言って可愛い以外に単語は出てこない。
「迷惑をかけるが、元に戻るまでは傷病休暇を取りたいのだが」
「はい、そうですね、その大きさでは書類仕事もできませんからね」
平然と応えるのはアポロンフォースから付き添いでやってきたアポロンVIの副官。二人は何やらこまごまとスケジュールを決めている。そのうち、副官が何やらどこかへ連絡を出し、そのあとに急にヴァッカリオを見た。
「え、なに、おいらの顔になんかついてる?」
「ウェスターさんから臨時休暇の許可を頂きましたので。こちらのお世話をお願いします」
「うむ、頼むぞヴァッカリオ!」
副官がちょん、とつまんだアポロンVIは、足をぷら~んとさせながらヴァッカリオのもとへと運ばれてきた。慌てて、ヴァッカリオは両手を差し出す。その、大きな男の手の中に、うさぎになったアポロニオお兄ちゃんがちょこん、とおさまった。なにこれかわいい。
「あ。じゃ、おいら、これ持って帰っていいわけ?」
「はい、頼みます。後ほど、ウェスターさんも様子を見に来るそうなので……」
え、いらない、と言いかけてヴァッカリオは口を噤んだ。二人きりの時間を邪魔されたくはないが、生活無能者の自分にペットを飼う甲斐性があるとは思えない。それぐらいの自覚はある。
うさぎになったアポロンVIの譲渡先が決まったことで各関係者がほっとしたのか、散り散りになっていく。え、これそういう会だった? とヴァッカリオは首をひねりながらも、両手にうさぎのお兄ちゃんを座らせたまま移動を始めた。
「今日、バイクで来なくて良かったなあ」
「ここまで何できたのだ?」
「普通に走ってきた」
ぼそぼそ、両手の中の小動物と会話をする。絶対、周囲からは不審者だと思われているだろう。しかしアポロニオの方はそんなことお構いなく、せっかくの弟との時間なのだから、と張り切って話しかけてくる。しかも、半分ほどは迷惑をかけてすまない、としおしおしてしまうものだから、ヴァッカリオは慰めるのに必死だった。あれだけ、いつでも自信満々なアポロンVIだが、一皮剥ければヴァッカリオの前では弱気を見せてくれるのだ。
とりあえず、とヴァッカリオはたまたま目に入ったペットショップでちょうどいい感じの籠を購入した。さすがに、両手をずっと掲げて歩くのは難しい。ペットショップの店員がヴァッカリオの手の中の小動物を三度見ぐらいしていたが、まあ、ここ不思議の国オリュンポリスではそういうこともないこともない。うん。たぶん。
「お兄ちゃん、どう? クッションとか大丈夫そう?」
「ああ、これなら多少揺れても大丈夫そうだ」
籠の中に一緒に小さなカーペットやクッションを敷き詰め、アポロニオが快適に過ごせるように、店員と二人であれこれ工夫した。本人はいたく気に入ってくれたようで、小さな丸いクッションを抱えて楽しそうに顔を緩めていた。ちなみに店員はヴァッカリオの「お兄ちゃん」という言葉に、信じられないものを見たといわんばかりにヴァッカリオとアポロニオ(うさぎ)を五往復ぐらい見比べていた。
カード一括払いで購入し、ついでにうさぎ用の、と食事もいくつか入手して帰宅する。果たしてアポロニオの味覚がどっちよりなのか気になるところなのだが。
「お兄ちゃん、着いたよ。……お兄ちゃん?」
籠の中がすっかり静かになっていて、ヴァッカリオは慌てて覗き込んだ。会話をするにも遠くなっていたから、そういえばアポロニオの声が聞こえてなかったと顔を青くする。
そうして覗き込んだ籠の中では、丸いクッション(ピンク色のかわいいやつ!」を抱えて、ぷぅぷぅ、と寝ているアポロニオの姿があったのだ……!
「なにこれかわいい」
ヴァッカリオは悶絶しながら、即座に端末を取り出してカメラ機能で連写をする。アポロニオを起こさないように、音量を最小にしながら。
「ふう……」
一体何枚、いや、何十枚……もしかしたら三桁にも四桁にも到達しているかもしれないが、まあとにかく、大量の写真をあらゆる角度で撮り、さらに動画も何本も撮影したヴァッカリオは満足して息を吐いた。まさかのスケベでもないのに賢者タイムである。
アポロニオが寝ているのを起こすのも忍びない。ヴァッカリオは部屋のエアコンを入れてから、ペットショップの店員が渡してきた「うさぎの飼い方」を眺めることにした。
いざ読み始めてみると、生活無能者のヴァッカリオにはいささかハードルが高すぎるような気がしてくる。こちとら、自分の飯すら一人で用意できないのだぞ……!
と、そこにやってきた救世主は。もちろん、ディオニソスXIIの頼りになる片腕、ウェスターであった。いつものいかつい挨拶をされる前に、玄関で「お兄ちゃん寝てるから静かにして」とけん制しておく。ウェスターは「ッス」と小さく挨拶してあがりこんできた。
「オヤジ、とりあえず、こいつを」
「え? あ、ああ……」
ウェスターがどっさりと持ってきた荷物の中から、次々とうさぎ飼育用品が出されてくる。ペットフードはもちろん、食器給水機にトイレ本体、トイレ砂やトイレシーツ……。
「待て、さすがにトイレは……砂じゃなくていいんじゃね?」
「念のためってことがありやすよ」
「そうか……そうか??」
小さくて可愛いうさぎお兄ちゃんがこんな砂トイレで踏ん張ってしまうのか?? ヴァッカリオは危うく、いけない扉を開きそうになって慌てて閉じた。危ない危ない。
幸いにして、ウェスターが用意してくれたのは個室トイレ。これならまあ見なくて済むかな、とヴァッカリオは複雑な気持ちでトイレを受け取り、ウェスターの指示通りに砂をセットした。その間に、ウェスターは給水器を準備してくれている。
「ペット用の消臭剤に洗剤、ケージ……は、檻タイプじゃなくて普通の箱で……それからグルーミング用品……キャリー、はオヤジが買ったヤツがあるからいいとして……」
「ウェス君、マメだねえ」
「あぁん!? マメってもんじゃないでしょうが、アンタ、こんな小さい動物の命を預かるんだからもっとちゃんとしないと! ご飯はしっかり書いてあるとおりに! トイレもこまめに掃除! 給水器も水がなくなってからじゃなくて――」
「あーはいはいはい! わかったって!」
うへえ、とヴァッカリオは首をすくめた。ウェスターの言うことは確かだが、小動物といったって中身はあのアポロンVIなのだぞ? 一撃でいろんなところを更地にしたり、神話級の怪物を撃ち落としたり……そこまで考えて、ふとこのうさぎお兄ちゃんがアポロンバスターを撃ったらどうなるのだろう、とヴァッカリオは気になった。かわいいんじゃないか? うさぎサイズの小さなアポロンバスター……。
なお、後日試したところ、問題なく通常出力が放たれてヴァッカリオの部屋はバスターされてしまった。メギストスでも、トリメギストスでもなくてバスター止まりにしておいて良かった、とヴァッカリオは自分の秘蔵スケベコレクションギリギリを掠めていったバスターを見送りながらそう思った。
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