ドラッグストアに買い物に来たお兄ちゃんがコンドームを買って帰るお話……のつもりだったけど書いてる途中に全然違う話になったイチャラブ?ヴァカアポ
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水だし麦茶のパックに、洗濯用洗剤、柔軟剤。それから風呂掃除用の詰め替え用洗剤に、ヴァッカリオの髭剃り用の替え刃。
アポロニオは髭が生えたことがないので、カミソリの類は家になかったし、どういうものが必要なのかも知らなかった。今は、ヴァッカリオと同居するようになって、毎朝ヴァッカリオが髭剃りする姿を目にしている。そして、替え刃のメーカーもヴァッカリオに教えてもらって、ドラッグストアでこうやって買い物できるようにもなった。
その変化が、アポロニオは少しばかり気恥ずかしくも幸せに感じる。10年前のヴァッカリオはまだ髭なんて生えていなかったし。そして、仲直りして体が不調だったヴァッカリオも、髭はあまり生えないと寂しそうに笑っていた。
それが今や、本人曰く「剃っても剃っても生えてくる」とのこと。すっかり健康になって、体に精力がみなぎっているらしい。替え刃の頻度も高くなった、とぼやくヴァッカリオのために、アポロニオはこうしてこまめに替え刃を買い求めているのだ。
そこで、ふと隣の棚に目を移す。そこにあったのは、コンドームの棚。
アポロニオはさっと顔を赤くした後に、周囲の様子をうかがってからこそこそと棚の前に移動する。
同居するようになって、アポロニオの家に増えたものは髭剃り用のカミソリだけではない。この、コンドームとローションの類も、増えた。
「い、いつものメーカーは……」
コンドームはいつもヴァッカリオが用意してくれてる。きっと、アポロニオが買わなくても良いのだろうけど……二人で使うものなのだから、アポロニオもたまには買っていかないといけないだろう。
カラフルな箱の数々を、アポロニオはしげしげと眺める。そういわれてみれば、個包装のパッケージは見たことがあっても、この箱型の状態では見たことがない。いったい、ヴァッカリオはいつもどれを使っているのだろう。
うーん、と悩むアポロニオは、個包装のパッケージに書いてあった文言を思い出す。極薄、XLサイズ……。
……アポロニオは。アラフォーであり、ヤる事ヤってる大人の男なのだが。ヴァッカリオによって性知識を完璧にフィルタリングされているため、極薄の意味も、XLが指し示すことも、わかっていなかったりする。
アポロニオは「業界最薄!0.01mm!」と書かれた箱を手に取ってみた。極薄ではないが、薄ければ薄いほど良いものらしい。
首をひねりながら、箱の背面の説明を読む。「0.01mmの超極薄!ほぼナマと同じ感触!」と記載されている。アポロニオの目はその文言を、3回ぐらい読み直した。読み直して、ようやく、頭が理解するころには首から耳まで真っ赤にして、コンドームの箱を棚に戻していた。
「ナ、ナマと同じ感触……!?」
ナマ! コンドーム無しで、コトに及んだ事は一度もない。ただ、ヴァッカリオと以前一緒に見たAVでは、コンドームなしで性行為が行われていた。しかも「中出し」なるものもセット付で。
アポロニオはそのAVに夢中になってしまい、恐る恐る、ヴァッカリオに「ナマの中出しとはなんなのだ?」と聞いてみたのだが、ヴァッカリオは首を振って「お兄ちゃんにはまだ早いよ」と言うだけだったのだ。
どうやらセッ……ごほん、夜の営みに熟練した者にのみ許される行為らしい。AVの中では、抱かれていた男優が「ナマの中出し」にずいぶんと嬉しがって喜んでいたように思うのだが。……正直、ちょっとうらやましい、アポロニオはそう思っていた。
とにかく。この、「業界最薄コンドーム」とやらは、アポロニオがあこがれている「ナマ」に近い感触が得られるらしい。では、これを買って帰ってヴァッカリオに使ってもらえば……!
「……だめだ、サイズが違う」
アポロニオが持った箱には、Mサイズ、と書かれていた。確か、ヴァッカリオが使っているものは、XLサイズだったはず。
ところでこのアポロニオ、その「XLサイズ」がなんのことかはまるでわかっていない。なぜなら、アポロニオにとってヴァッカリオのアレが通常サイズで、世界の常識だからだ……。成人男性は、おおむね全員あのサイズになると思っている。恐ろしい誤解である。
なお、ヴァッカリオ曰く、「お兄ちゃんが他の人のモノ見る事なんて金輪際ないから知らなくて大丈夫」とのこと。
XL、XL、とつぶやきながらアポロニオは棚を端から端まで、見て回る。すっかり夢中になっていたアポロニオは、同じように棚の前で品物を見定めていたらしい客とぶつかってしまった。
「っ! すまない、前方不注意だった」
謝りながらアポロニオが顔をあげるとそこには――にっこりと笑ったヴァッカリオがいた。
「ヴァッカリオ!?」
「お兄ちゃん、何してるのかな? さっきから、熱心にコンドーム見てたよね?」
「い、いつからそこに……!」
だいぶさっきから、とヴァッカリオは飄々と言う。その口ぶりと、何やら不穏な笑顔にアポロニオはじり、と後ろに下がった。
「で、お兄ちゃん、何でコンドーム見てるの? コンドーム欲しいの?」
ヴァッカリオから、不穏な圧を感じる。アポロニオはたらり、と冷や汗が流れるのを感じた。
「コ、コンドームを、買おうかと思って……」
「何で? 家においらが買ったのまだあるよ?」
じり、じり、とさがっていたアポロニオは、気づけば商品棚の端に追い詰められていた。ヴァッカリオがぐい、と身を近づけて、アポロニオを見下ろしてくる。その目は剣呑な光をはらんでいて、まるで肉食獣の様であった。
「い、家にあるのか、それなら別に……」
「いいの? 買わなくて?」
これをさ、とヴァッカリオは先ほどまでアポロニオが手に取って眺めていたコンドームの箱を手に取った。手に取った箱を見ながら、ヴァッカリオが不機嫌そうな声でアポロニオに尋ねる。
「で、これ誰用なの? Mサイズって、お兄ちゃんが使うの? それとも、他の男?」
「だ、誰用って……お前用だぞ?」
アポロニオはヴァッカリオがなぜこんなにも怒りを孕んでいるのかわからずに、目をぱちぱちとさせ、どもりながらも答えた。そう、ヴァッカリオ用。
「……へ?」
「さ、サイズが、違う、から……他のものを、探そうと思って……」
ごにょごにょ、アポロニオの言葉はどんどん小さくなっていく。自分がヴァッカリオの何を苛立たせてしまったのか。それがわからなくて、アポロニオはあまりの申し訳なさに今すぐここで土下座でもしたい勢いであった。
「すまない、ヴァッカリオ、私は何か、お前の気に障るようなことを……」
「あーごめん、待って。ええっと、お兄ちゃんはおいら用のコンドームを買おうと思ったの? 家にあるのに?」
「……家にあるからと言って、いつもお前にばかり用意させるのも悪いだろう。二人で使うものなのだから」
アポロニオがそういうと、ヴァッカリオは口元を抑えて身をかがめた。アポロニオは「どうした!?」と驚いてヴァッカリオに駆け寄る。
「わかった、わかったよお兄ちゃん。ごめん、おいらが悪かった、勘違いだ」
「勘違い?」
ヴァッカリオは持っていたコンドームの箱を棚に戻しながら嘆息する。それから少し右にズレて、一番上の段にある箱を一つ、手に取った。
「サイズがさ、おいらには合わないヤツだったから、てっきり他の人のために買ったのかと。あー……つまり、浮気を疑ったんデスケド……」
「浮気……浮気!? 私がするわけないだろう!?」
「そうだよね、ごめんねお兄ちゃん……ごめんって! ねえ、ごめんなさい!!」
アポロニオはムッとした顔をするとぷいっと横を向き、ヴァッカリオを置いて歩き始めた。その後ろに、コンドームをひと箱持ったヴァッカリオが追いすがる。先ほどまでの肉食獣のような獰猛な気配はすっかりなりを潜めて、今やくぅんと鳴いて震える子犬の様だ。
「お兄ちゃん、ごめんなさい、ほんとごめん」
「……フン」
「おいらが早とちりしただけだから……ごめんなさいってば~!!」
アポロニオはぴた、と足を止める。そこに、ヴァッカリオはどすんとぶつかった。お兄ちゃん、ごめん、と長身をかがめて必死にアポロニオの機嫌をうかがう。アポロニオは、振り返らずに、ヴァッカリオに向けて「その箱は棚に戻してきなさい」と強く言い放った。
「……はぁい」
子犬モードになってしまっているヴァッカリオは、素直にそう言って、目に見えない耳と尻尾をしょんぼりと垂れさせると今来た道を戻ろうとする。そこに、裾をアポロニオに引かれてヴァッカリオは立ち止った。アポロニオは相変わらずそっぽを向いている。……が、その耳が赤く染まっていることにヴァッカリオは気づいた。
「……かわりに、今夜は……『ナマ中出し』をしなさい」
「……!?!?!?」
「悪いと思っているなら、それぐらいはやってくれるだろう?」
「もももももちろん!!! やらせていただきます!!!!」
アポロニオはそのまま、ヴァッカリオを振り返らずにすたすたとレジに歩き去っていった。残されたヴァッカリオは……コンドームの箱を持ったまま、しばらくフリーズしていたという。
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