1&2月分Web拍手お礼SSまとめ - 3/10

「肩たたき券」をあげるヴァとそれを受け取って肩をたたいてもらうお兄ちゃんのほのぼのなヴァカアポ。

「はい、お兄ちゃん、お年玉」
「……む、ヴァッカリオ、お前のお金なのだから私なんかに渡さずに――」
「いいからいいから。とりあえず袋の中見てみてよ」

1月1日、新年初日の午前中。様々な家事を終えてソファに新聞とともにゆったりと座ったアポロニオのもとに、何やらニコニコとしたヴァッカリオがやってきて「ポチ袋」を手渡した。ディオニソス区で売られている、ディオニソスフォースのエンブレムがデザインされた子供向けのものだ。

手に取る前に一度は渋い顔をして断ったアポロニオだったが、ヴァッカリオに促されて、仕方なくポチ袋の中身を確認する。アポロニオにとってお年玉とは自分が配るものであって、このように貰うものではなかったのだ。

しかし、ポチ袋から取り出した一枚の紙に、アポロニオは目を見開く。ソファの背もたれに肘をついてアポロニオの手元をのぞき込んでいたヴァッカリオの方を勢いよく振り向いた。ヴァッカリオはそんな兄の驚きの表情がすぐに喜色満面に変わるのを確認して、恥ずかしがりながらもやって良かった、と安堵していた。

「肩たたき券!」
「懐かしいでしょ? 昔、お兄ちゃんに『お年玉あげる!』って言ったの思い出しちゃってさ~」

せっかく同居するようになったしね、とヴァッカリオはそのまま穏やかな口調で続けた。

アポロニオの手に収まった小さな紙片には、無造作に「肩たたき券」と書かれているのみ。何の装飾もない、シンプルに過ぎるデザインのチケットだ。裏面を見てみれば、使用期限は「いつまでも」と書いてある。どちらも、昔、ヴァッカリオが拙いながらもペンを操って書いてくれた内容だ。もちろん、幼いヴァッカリオは文字なんて必死に写しただけで、踊りに踊った文字はまともに読めないものだったが。今のヴァッカリオはすらりとした文字をさらさらと書いてくれてある。

「懐かしいな……!」
「ね? ま、今考えればさ、少年の肉体のままのお兄ちゃんに肩こりなんてあるわけないのにね」

ヴァッカリオはそう言ってくすくすと笑った。それに気づいたのはヴァッカリオが初めて「肩たたき券」を送ってから数年後。それ以降、ヴァッカリオがムズカシイお年頃になるまでは「お手伝い券」がアポロニオのもとに贈られる事になったのだった。

「まあ、確かに肩たたきは不要であるが……お前にそのように労って貰えるというだけで、ずいぶんと嬉しくなったものだよ」
「ほかの友達とかがさ、やってるのを見て羨ましくなっちゃったんだよね。……で、お兄ちゃん、その券、さっそく使ってくれていいんだよ?」
「む! 何を言うか、お前がせっかくくれたのだから、パスケースに入れて大切に……」
「いやいや、お兄ちゃん、使ってよ。せっかくプレゼントしたのにそれじゃつまんないじゃん」

ヴァッカリオが困ったように眉を下げると、アポロニオも同じように眉を下げる。しかし、ヴァッカリオが言うことももっとも。ヴァッカリオがわざわざ用意してくれたのに、それを使わずに取っておくというのは何ともヴァッカリオの期待を裏切るようなものだ。よし、とアポロニオはその肩たたき券をヴァッカリオに差し出す。

「……では、頼むとするか」
「はぁい、任せてよ。今ならたたくだけじゃなくて揉みのマッサージ付きだよ」
「ハハハ、それはお得で良いことだな」

ヴァッカリオの大きな手がそっとアポロニオの肩に添えられる。マッサージ付き、との通り、ヴァッカリオはゆっくりと優しくアポロニオの肩を揉んだ。

「昔は力任せにたたくだけだったのにね……お兄ちゃん、あれ、痛くなかったの?」
「力任せと言ったって、まだまだ子供だったからな。あれぐらい、大したことはなかったさ」

ふーん、と相槌を打ったヴァッカリオだったが、アポロニオが密かに「痛くなかった」と明言しなかった事にしっかりと気づいていた。アポロニオのいう通り、幼いヴァッカリオのパンチなんてアポロニオには大したこともなかったのだろうけど……あの時はずいぶんはしゃいで、自分が飽きるまでアポロニオの肩を叩きまくった覚えがうっすらとある。

「今日はパワー抑え目にしとくよ」
「ああ、そうしてくれ。さすがに、今のお前に全力で叩かれたら骨でも砕けそうだ」
「もう、おいらだってそこまで力加減間違えたりしないって」

大人扱いかと思いきや、いつも通りに子供扱いするアポロニオに、ヴァッカリオは唇を尖らせて答えた。背後から伝わるその様子に、アポロニオが楽しそうに肩を揺らす。

……そう、ヴァッカリオは単に懐かしがって肩たたき券を贈ったわけではない。普通に現金を渡したら絶対にアポロニオは受け取らないだろうし。ではアポロニオが心置きなく受け取ってくれるものといえば。頭をひねって、出てきたのが肩たたき券だ。相変わらずアポロニオはヴァッカリオを可愛がろうと子供扱いしてくるし、まあこれならアポロニオも喜んでくれるだろう、と。

お手伝い券にしなかったのは、すでにヴァッカリオは家事のいくつかを任されている。その状態でお手伝い券を渡したら、きっとアポロニオは「今でもじゅうぶん手伝ってもらっている」と言って受け取らないに違いない。アポロニオはとにかくヴァッカリオに砂糖菓子よりも激甘で、甘やかすことに心血を注いでいるような人間だ。

「あー……ヴァッカリオは意外とマッサージ上手いのだな?」
「まあね~。お兄ちゃんと違って年相応の体だし」

とはいえ、まだ肩こりという現象には当たっていない。四十肩なるものも、五十肩なるものもまだまだ未来の話。……すっかり健康になって、命の刻限が伸びに伸びたヴァッカリオなら、いつか四十肩にも五十肩にもなるのかもしれない。

「実はただの肩揉みだけじゃなくて、ホットタオルも用意してあるんだよね~。お兄ちゃん、ちょっと待ってて」

ヴァッカリオはこっそりレンジで温めてあったタオルを取りに、キッチンへと足を向ける。その楽しそうな後姿を見て、アポロニオも顔いっぱいに優しい笑みが広がった。

今年も一年、お互いに甘やかし甘やかされで二人は過ごすことになりそうだ。

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