2022年7~10月Web拍手お礼まとめ - 10/10

七夕ヴァカアポ……というか健全兄弟。なんか最初はヴァカアポがいちゃいちゃほのぼのするはずだったのに、気が付いたら健全なギャグになっていた。うーんでも書ききったら案外CP要素あるかも?まあそんな感じの短い話

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日もすっかり暮れ、夏とは言えそれなりに涼やかな風が窓から吹き込んでくる夜。ヴァッカリオはダイニングテーブルに陣取り、そしてアポロニオはキッチンから大きな金属の四角い容器を持ってきた。

もう一つ、大きな皿を用意し、アポロニオは四角い容器……調理用のバットを皿に当ててひっくり返す。

「よし、いくぞヴァッカリオ」
「うん」

ヴァッカリオはじっとアポロニオの手元を見る。アポロニオはバットの底をこんこんと軽く叩き、小さく左右に揺らしながらゆっくりと持ち上げた。

「お」

小さな声をヴァッカリオがあげると共に、ポン!と軽い音を立ててバットからスイーツが生まれ落ちる。キンキンに冷えた、青色のグラデーションがかった、そして大層に美しい……七夕ゼリーが。そこその大きめな手作り七夕ゼリーが、ポン、と。

「……よし、うまく抜けたな」
「おーすごいね! ちゃんと固まってる」

ヴァッカリオが指先で突くとぷるんぷるんとゼリーは震えた。その様子をアポロニオは温かく見守りつつ、着けていた黄色のエプロンを脱いで椅子にかける。すでに巨大な七夕ゼリーを食す準備はできている。その準備は、ヴァッカリオがやってくれた。

いい歳した男二人がどうして巨大七夕ゼリーを作る羽目になったかといえば。

事の発端はいつも通りのアポロニオの世話焼き……というか、溺愛爆発だ。ヴァッカリオに短冊を渡しては「さあ願い事を書きなさい、お兄ちゃんが笹に飾ってやろう」と得意満面に言うものだから。ヴァッカリオはこりゃあアポロニオお兄ちゃんは俺の願い事を確認して叶える気満々だぞ、と。

兄孝行を最近の趣味としているヴァッカリオとしては、どうにかアポロニオが楽しんでくれる願い事を書きたい。ついでに、自分に害が及ばないものを。変なことを書けば、間違いなく砂糖漬けの刑に処されてしまう。

そんなヴァッカリオがパワフルワン片手にうんうん唸りながらひねり出したのがこれだ。

――お兄ちゃんの作った大きな七夕ゼリーを食べたいです

なんとも奥ゆかしくて些細な願い事ではないだろうか! これでよし、勝ったな、とヴァッカリオは自画自賛してアポロニオに短冊を渡したわけだ。ゼリーならもともと甘いデザートなのだから、多少甘すぎてもまあ許容範囲だろう。デザートと思って食べればきっと……たぶん……うーん……。

不安になってきたヴァッカリオは結局、短冊の裏面に追加で「健康に良さそうな糖分控えめで!」とこっそり書き足しておいたのだった。翌日に短冊を嬉しそうに確認していたアポロニオが裏面を見て首をかしげてしばらく悩んでいたようだったが、最終的にはスルーしていた。一晩で文字列が浮かび上がったとしても、それが最愛の弟の筆跡なら特に問題はないらしい。いいのかそれで。

「ヴァッカリオが作った星型のゼリーもうまくできているな!」
「ははは、どうも……」

作ったも何も、アポロニオが用意してくれたカラフルなゼラチン板を型抜きしただけだ。……まあ、それ以外のゼリー作りを手伝えるかと言われたらヴァッカリオは無言で首を横に振るので、アポロニオの言い方も間違いではない。

気を取り直して、ヴァッカリオは楽しそうにいそいそとゼリーを取り分けている兄を見る。お願い事を書いたヴァッカリオ本人よりよほど楽しんでいそうだ。

これも兄孝行と思えば、自分の判断も正しかったと胸を張って言える。このアポロニオの穏やかな笑顔が何よりの証明だろう。

「……昔」
「ん?」

七夕ゼリーを一口、口に入れてその甘さに心の中でだけ悶絶していたヴァッカリオはアポロニオの声に顔を上げた。アポロニオは、星型のゼリーが含まれた部分をスプーンに乗せて、どことなく遠い目をしている。

「昔、お前が小さかったころ」
「うん」
「こうやって七夕ゼリーを食べたいとねだってきた事を……覚えているだろうか?」
「……あったっけ、そんなこと」

ヴァッカリオはちゅるりと二口目を食べてから、首を捻った。それなりに記憶力は良い方だと思っていたが、どうにも覚えがない。うーん? と唸っているヴァッカリオを見て、アポロニオは苦笑した。ゼリーを口に運んで、何やら満足したように一つ頷く。そのあとに、アポロニオは口を開いた。

「覚えていなくとも仕方あるまい、本当に小さく……6,7歳ぐらいだっただろうか」
「へえ。覚えがないなあ」

だろうな、と言うアポロニオはどことなく気まずそうな顔をしている。何やら、思い出して口に出したものの、アポロニオにとっては面白くない思い出のようだ。

「で、おいらが七夕ゼリーを食べたいってねだったエピソードって? 全然覚えてないから教えてよ」
「う……うむ」

そうしてアポロニオが話し出したことによれば。

学校に通いだして、スクールランチを楽しんでいたヴァッカリオは、ある日、学校から出されたデザートにあった七夕ゼリーを大層に気に入ったらしい(もちろん、ヴァッカリオは覚えていない!)。そして家に帰って早々にアポロニオにおねだりをしたわけだが――

「その日は、どうしても外せない会議とパトロールがあって」
「あー……それでお兄ちゃんが断ったからおいらが泣き喚いたって?」

いや、とアポロニオは首を振った。そして深いため息をついた後に、ヴァッカリオの顔を見つめる。どうにも、その眼差しにはエピソードを語る以上に、申し訳なさと後悔が含まれていた。

「泣きわめいてくれた方がよほど良かった。……お前は、あの時、物分かりよく『じゃあ仕方ないね』とあっさり諦めたのだ」

またアポロニオは大きなため息をついた。目の前にある七夕ゼリーはそれぞれが数口食べたそのまま。アポロニオのスプーンはすっかり動きを止めている。

「……まさか、あの時のことをまだずっと根に持っていて、願い事に書いたのかと……」
「いやあ、根に持っているって表現はチガウんじゃないかな……」
「ああ、そうだとも、お前は性根が優しい子だからな。私を恨もうともせず、その願いを無意識下に抑え込んでいたのだろう」
「それもチガウんじゃないかな……」

なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ、とヴァッカリオの脳内で警報音が鳴り響く。

はっきり言って、完全にアポロニオの勘違いだ思い過ごしだ気のせいだ。ヴァッカリオは七夕ゼリーを食べたがった事なんてすっかり忘れていたし、絶対、当時の自分の諦め方も「ないならまあいっか」程度の軽いものだと思われる。

ぐう、と変なうめき声をあげながらヴァッカリオは恐る恐る俯いたアポロニオの顔を覗き込んだ。

「お、お兄ちゃん……」
「う……ううっ、ヴァッカリオ、すまない、私が不甲斐ないばかりに……!」

間に合わなかった。天の川よりも煌めく、七夕ゼリーよりも青く透き通る、アポロニオの美しい涙が――濁流になっていた。それはもう、今年の七夕は中止! 天の川渡航は無理です! と叫びたくなるぐらいに濁流だった。

「ああ~お兄ちゃん、泣かないでって」
「うおおおっ、ヴァッカリオ、すまなかったあああ!!!」

少年のような幼い顔つきでありながら、中身は誰よりも男らしく、そして良い歳である。アラフォーである。おじさんである。つまり、アポロニオは暑苦しい男泣きをしていた。

ヴァッカリオは思わず頭を抱える。アポロニオの涙には弱い。それは間違いない。以前のように、はらはらと流される涙には心臓が縮まる思いをするし、言葉にならない気持ちを吐き出すように号泣されてしまえば、もうどうしたらいいかわからず狼狽えてしまう。

……アポロニオは。ヴァッカリオと仲直りをしてから随分と涙脆くなった。もちろん、ヴァッカリオに関すること限定だが。それはもう、何かあればすぐに泣く。

それはきっと10年間溜まりに溜まった涙が。泣いても泣いても枯れることがないほどに、アポロニオの中に溜まった涙が。堰を切って溢れてしまったのだ。ヴァッカリオもそれを薄々感づいていて……いや、だとしても、やはり兄の涙だけは勘弁して欲しい。弟をあやし慣れているアポロニオと違って、ヴァッカリオは兄をあやすなんて高度な事はできないのだ。

「お兄ちゃん、泣かないでって、おいら、そんな深いこと考えてないし」
「し、しかしだなぁ……っ!」
「うん、まあ、うん、そうだね、そういうこともあったかもしれない。でも、今、こうしてお兄ちゃん、七夕ゼリー作ってくれたじゃない」
「うおおおん!!」

今や何を言ってもアポロニオの涙腺は絶賛崩壊中だ。どうやって宥めよう、とヴァッカリオは頭を抱える。しばらくは泣き止まないだろう。……さすがに、寝る時間までには泣き止んで欲しい。ここ最近の最大記録は三日三晩泣き続けられた時。あの時はヴァッカリオもすっかり参ってしまって、自分が泣き出すところだった。

「ね、ね、お兄ちゃん、泣かないで、ほら、七夕ゼリー美味しそうだよ、ねえ、おいらが作った星型のゼリー食べてよ」
「食べるに決まっているだろうっ! お前のっ! 心がこもった星型ゼリーぃぃ!!」
「ごめんそんな心とかこめてない」

なんのかんの言いながらも、ヴァッカリオは苦笑を浮かべてアポロニオを宥める……もとい、あやす。知らないうちに兄の背を超えて、すっかり大人になって……その果てが、兄をあやす事になるとは思いもよらなかったが。

まあこれも兄孝行の一部だろう、とため息を心の中でつくヴァッカリオの背中は、どことなく喜色に満ちていた。

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