去年、拍手のお礼として書いた「梅酒を漬けるヴァカアポ」の続きです。拍手のお礼にしてはまともなヴァカアポだよ。
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※GAヴァッカリオの酔っ払い浮かれポンチっぷりをあてこする表現がありますええいアルハラはやめろ!!!
夕飯の支度をするアポロニオの手伝い(断じて邪魔をしているわけではない、手伝いだ、ちゃんと手伝いだ)をしていたヴァッカリオは、指定された戸棚を開いたところで声をあげた。
「ヴァッカリオ?」
「お兄ちゃん、これ」
覗き込んできたアポロニオにも見えるように、ヴァッカリオは大きな瓶を取り出す。瓶というよりも大きな壺といったほうが適切かもしれないが、まあとにかく、そこにあったのは梅酒の瓶だった。去年、二人がかりで漬けた梅酒の瓶。
「そろそろ飲み頃じゃない?」
「そうなのか?」
瓶と一緒に保管してあった説明書を取り出して、二人は頭を寄せてのぞき込む。……どうやら、漬けてから半年程度で飲めるようになるらしかった。
「……うん、忘れてたわけじゃないけど、いい飲み頃なんじゃない?」
「半年といえば……まあ、ちょうど忙しい時期だったな」
梅酒を漬けたときは、ちょうど束の間の平和という言葉がぴったりな時期であった。それからすぐにはた迷惑な神様達の侵攻があり、そこから復興だのなんだのとしばらくは忙しい日々を送っていたのだ。主にアポロニオが。ヴァッカリオは……うん、平和を謳歌するのに忙しかった。
その時の事を思い出して、どことなく気まずくなったヴァッカリオは小さく咳ばらいをする。あの頃、日中でも職場でも、他人の諫める言葉に耳を傾けずに酒を飲んではしゃぎまわっていたのは事実であり……ヴァッカリオにとっては、少しばかり、黒歴史の一種になりつつあった。浮かれすぎだ、恥ずかしい。本当に恥ずかしい。アポロニオがここぞとばかりに甘やかしてくるし、仕事方面を締めるべきウェスターですらヴァッカリオの行動を見逃して甘やかしたものだから。
はっきり言って、忘れたい過去になりつつある。あの一人どんちゃん騒ぎの日々は……。
「ヴァッカリオ、どうした?」
「んん、なんでもないよ。ちょっと埃っぽいなって思っただけ」
「む、それはいかん」
アポロニオがすぐにヴァッカリオの手を引いてキッチンから追い出し、冷たい水をコップ一杯に準備して「うがいをしなさい」と持たせてくる。ヴァッカリオは大人しく言うことを聞いておいた。このうがいの水と一緒に過去も流れてしまわないだろうか。
「で、どうするのだ? 梅酒を飲んでみるのか?」
「うん、今日の夕飯のお供にどうかな?」
アポロニオが戸棚から梅酒の瓶を持ってきた。もちろん、ヴァッカリオの前に出す前に、タオルで水拭きして埃を丹念に取り除くという気の利かせっぷりだ。
「お兄ちゃん明日休みでしょ? 一緒に梅酒飲まない?」
お湯か炭酸で割ればお兄ちゃんでも飲めるでしょ、とヴァッカリオは言いながら、瓶のふたを開ける。途端、アルコールの香りと共に梅独特の香りが広がる。鼻をひくつかせたアポロニオも、興味深そうにヴァッカリオの手元を見た。
「ふむ、悪くないな」
「食前酒だと思えばいいんじゃない?」
「……では、そうするとしよう。梅酒にはどのようなつまみが良いのだ?」
「あー、いいよ、メニュー変えなくても。梅酒ならたいていなんにでも合うって」
ヴァッカリオは適当なことを言いながら、梅酒の瓶を大切そうに持ち上げてダイニングのテーブルに置いた。アポロニオが見ている前で、いそいそ二人分のグラスを用意する。
「ねえねえ、先に味見してもいい?」
「もちろん、いいぞ! 私も一口だけ、貰うとしようか」
「ほんのちょっとにしとくね、ストレートだとお兄ちゃんにはキツすぎる」
二人分のグラス、片方にはなみなみと。もう片方には本当にほんのちょっぴりと。ヴァッカリオの手によって注がれた琥珀色……よりも、薄目な色合いをした酒。アポロニオはグラスを持ちげて、その色をまじまじと眺める。
「あの緑の梅からこういう酒ができるのだな」
「ね、不思議だよね」
ヴァッカリオもグラスを手に取り、強い酒精にうっとりと目を細めた。一年前、アポロニオと一緒に梅酒づくりに勤しんだ思い出が蘇ってくる。
(あの時は、まだ体の問題があって……この梅酒が飲めるようになるまで、死ねなくなった、なんて思ってたな)
……もちろん、その心の内をアポロニオに話したことはない。ただ、ヴァッカリオが一人でこっそりと決意していただけだ。アポロニオと二人で漬けた梅酒を、来年に一緒に飲まないといけないし、三年も五年も寝かせて味の変化を楽しまないといけないな、と。
「ヴァッカリオ、乾杯」
「ん、乾杯。……何に乾杯?」
アポロニオに言われて何も考えずにグラスをかちりと合わせたあとに、ヴァッカリオは笑って言った。グラスを傾ければ、梅酒がするりと口に入り、喉を潤してくれる。ずいぶんと飲みやすい味わいの梅酒に、ヴァッカリオは自然と顔を綻ばせた。一方のアポロニオは、口に含んだあとにすぐ目を丸くしていたが。
「けほっ」
「ちょ、お兄ちゃん、度数強いんだから一気飲みはダメだって」
「う、まさかここまで強いとは思わなかった……けほ」
「もー、気を付けてよね」
ヴァッカリオがすいすい飲むからつられたのか、アポロニオは涙目になりつつ、グラスを傾ける角度を控え目に持ち直した。
「何に乾杯、だったか?」
「ん? ああ、そうそう」
梅酒に舌鼓を打ちつつ、試飲だというのにもう一杯ぐらいいいかな、と瓶を持ったヴァッカリオをアポロニオは穏やかな表情を浮かべてみている。飲みすぎだ、と止めるつもりはないらしい。
「こうやって、お前と二人で平和的に梅酒を飲めることに乾杯、だ」
「……お兄ちゃん」
とぽぽ、とグラス半分ほどに梅酒を注いで、ヴァッカリオはアポロニオに向き直った。そう、ヴァッカリオはあの心の内をアポロニオに明かしたことはない。……だというのに、この兄は、ヴァッカリオと同じことを考えて、感じて、同じ方向を向いてくれていたらしい。
ヴァッカリオはその言葉を言ってくれたアポロニオに、へにゃりと笑いかけた。仕方ないだろう、平和的に梅酒を飲んでいるのだから……顔の筋肉だって、ふにゃふにゃになってしまう。もちろん、そんなヴァッカリオの笑顔を受け止めたアポロニオも、さきほどよりももう少し柔らかな笑みを顔いっぱいに浮かべた。
「梅酒、まだまだたくさんあるからね。確か、三年モノとか五年モノとか、そういうので味の変化も楽しめるみたいだし」
「ハハハ、つまり、これから三年も五年も一緒に梅酒を飲もう、ということか」
「そーゆーこと! それで、この梅酒がなくなったらまた新しい梅酒漬けよう?」
「それがいいな」
アポロニオはグラスにほんの少しだけ残っていた梅酒を舌先でちょん、と味わってから目を細めた。
「長く楽しむからには……あまりガバガバとは飲めんな?」
「うっ……」
三杯目、と手を伸ばしかけていたヴァッカリオはアポロニオの言葉にぎくりと肩を震わせる。
「残りはせめて夕食時にしておきなさい」
「……はーい」
ヴァッカリオは大人しく、梅酒のふたをもとに戻した。
……アポロニオの言うことはもっともだ、だってこれから二人で一緒に梅酒を飲んでいくなら……ヴァッカリオの方が、アポロニオのペースに合わせてやらないと。
それもまた、二人で生きていくことの楽しみだ。
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