お題ガチャより「蜃気楼で相手を見失うお話をかいてください。君の顔が見えない。」言うほどシリアスにはならない。
「ディオニソスXII! バックを任せられるか!?」
「ああ、いや待て、俺が仕留める!」
「!? 無茶を!」
飛び出していったディオニソスXIIの背中に、アポロンVIの怒声が届く。ディオニソスXIIはそれを無視してザグレウスを振りかざし、ネクタルをばらまいて敵に肉薄した。敵の攻撃を弾きつつ、時にあえて受け止めて切り返し。
「おらよっ!」
ネクタルを使った大技を決めれば、後に残ったのは地面に倒れ伏したヴィランだけ。立ち上る土煙が晴れる頃には、遠くから援護に徹していたアポロンVIや戦いを遠巻きに見守っていた一般ヒーロー達が駆けつけてきていた。
てきぱきと指示を出すアポロンVIを片目にディオニソスXIIはそうそうに引き上げる。後の事務処理は向こうにお任せ。何しろ自分は、ケガ人だから。
「ま、かすり傷なんだけどね~」
腕に包帯を巻いてもらってから部下たちに適当によろしく、と指示を出してヴァッカリオは逃げる様に現場から去っていった。……比喩ではなく、本当に逃げるために。怒り心頭だろう、アポロンVIから。
その日の晩、アポロニオの家で食卓についたヴァッカリオは案の定、渋い顔をしたアポロニオに「食事の前に話がある」と切り出された。食事がまずくなるからまた今度にして欲しいな、と混ぜっ返そうかと思ったが、さすがにそれをやったら本格的に怒られるか、泣かれるか、だろう。ヴァッカリオはどうぞ、と何事もなくアポロニオに話を促した。
「今日のあの無茶な攻撃は……なぜ、あのようなことを?」
「アポロンVIの手を煩わせるまでもない、って思っただけさ」
「何を言うか、あそこは私が遠距離から一撃見舞えばそれで済んだ話だ」
そういうアポロニオは苦々しい顔と共に、ヴァッカリオの右腕に巻かれた包帯に視線を向ける。ヴァッカリオはそれに気づき、なんてこともない、とアピールするように手をひらひらと振った。
さて。この話が来るだろうことはヴァッカリオも予想はしていた。しかし、あの時は咄嗟に体が動いてしまったのだ。元からディオニソスXIIはアポロンVIと違って直情型で、思った瞬間は体が動いているタイプのヒーロー。だからあの時も、あれこれ考えるより先に体が動いた、ただそれだけの事。
そう言ったところで、アポロニオは納得しないだろう。なぜそう感じたんだ、と聞いてくるはずだ。ヴァッカリオはどうしたものかな、と一瞬、逡巡する様子を見せたが――ひとつ、ため息をついてアポロニオに向き直った。
「お兄ちゃん、これからおいらが話すこと聞いて怒らない、って約束してくれるなら……理由を話すよ」
「む……それは内容によるが……」
「だったら、理由は説明しない」
交渉の余地はない、と言わんばかりにヴァッカリオはぴしゃりと会話を打ち切った。アポロニオの方は深く考え込んだ後に、ヴァッカリオの顔をちらりと伺ってからその条件を飲んだ。怒らない、と言ったアポロニオに言質を取ったぞ、と思いながらヴァッカリオは口を開く。
「理由は、完全に個人の感情。お兄ちゃんがあの時に繰り出そうとしたアポロンVIの技……おいら、あれ、嫌いなんだよね」
「……は?」
「その技を使って欲しくなかったから、自分で突っ込んで片づけただけ。はい、説明終わり」
「ちょ……ちょっと待て、説明になってないぞ」
まあそう言うだろうな、とヴァッカリオはため息をついた。アポロニオの顔を見れば、しっかり説明しろ、とわかりやすく書いてある。
少しばかり悩みはしたが……ここまできたら、いっそぶちまけてアポロニオに甘えるのも悪くないかもしれない。逆にヴァッカリオはそういう楽しみを見出して、おもむろに話の続きを切り出した。
「あのさあ……あの技使うと、濃い目の蜃気楼出るじゃん」
「あ、ああ……出るな」
「あれでお兄ちゃんの顔が見えなくなっちゃうんだよね。それがすごく嫌」
「は??」
アポロニオは素っ頓狂な声を上げて目を剥いた。対するヴァッカリオは、もう取り繕うことをやめてただの「弟」の顔をしている。唇を尖らせて、拗ねた表情を見せれば、アポロニオは戸惑いの色を濃くした。
「蜃気楼でゆら~ってお兄ちゃんが消えちゃうのが嫌。……戦場で、姿がかき消えるのが嫌」
「ヴァッカリオ……」
「まー昔は全然気にならなかったんだけど? いろいろあったから……そういう、些細な事でも気になる。お兄ちゃんが、どっか行っちゃうんじゃないかって。おいらを置いて消えちゃうんじゃないか」
「そっそんなことは絶対にしないぞ!」
「……勝手に手を振り払って置いてったのはおいらの方だしね」
自虐的にヴァッカリオが言うと、アポロニオは怒るどころか逆に泣きそうな顔をして「そのような事を言うな」とヴァッカリオに言い募った。てっきり、個人の感情で戦場で足並みを乱して、怒られるのかと思ったのだが。泣かれるのは、ヴァッカリオにとってちょっと想定外だ。
「わ、わ、泣かないでよ、そんな重い話じゃないんだから」
「う、うぅ……しかし……」
「あーもう、ごめん、て。すっごい子供みたいな考えであんなことしたから、言いにくかったんだよ」
「!」
「次からは気を付けるからさ……」
頭を下げるヴァッカリオに、アポロニオの手が伸びる。わしゃわしゃと頭を力強く撫で回されて、ヴァッカリオはうわあ、と変な声をあげてやんわりと抵抗した。アポロニオはぐず、と鼻を鳴らしていて、ヴァッカリオのそんな様子には全く気付かない。
「ヴァッカリオ……お前をそのように寂しがらせていたとは……! わかった、あの技は封印することにしよう!」
「いやそこまでしなくていいからね!?」
「何を言うか! お前を寂しがらせた上に、ケガまでさせるなど言語道断! あの技がなくとも、ヴィラン程度、楽に蹴散らせるように私が精進すれば良いだけだ」
泣くと思ったら、まさかの必殺技封印発言。ヴァッカリオは大いに慌てた、おかしい、当初の想定から斜め上に全速力で駆け抜けて行っている。しんみりするか気まずくなって食事がまずくなる、と思ったはずなのに……!
「お兄ちゃん気にしなくていいから!」
「ヴァッカリオ、お兄ちゃんを信じなさい。……それか、蜃気楼で見えなくなってもその場にいることがわかるように鈴でもつけるか?」
「猫かな????」
「あるいはヴァッカリオの名前を呼び続ける?」
「それはやめて絶対にやめてお兄ちゃんフリじゃないからね本当にやめてよね!?!?!?」
結局、その後、斜め上を爆走し続けるアポロニオをなんとか説得して宥めすかして、夕食にありつく頃にはヴァッカリオは疲労困憊状態になってしまったのだった……。
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