8月1日、「パイ」の日!!
8月1日と言えばパイの日。これはもう、お兄ちゃんのおっぱい(アポロニオは男だ!)を揉むしかないな! とヴァッカリオはウキウキしながらアポロニオ宅の玄関をくぐった。
その瞬間、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。キッチンの方から小さな物音がしたかと思えば、ひょこりとエプロンをしたアポロニオが顔を出した。
「何作ってんの?」
「ああ、アップルパイを焼いているのだ」
ふーん、とヴァッカリオは流して靴を脱ぎ、リビングに足を向ける。大した荷物はないが持ってきたリュックをソファにひょい、と置いて自分自身もどかりと座り込んだ。相変わらず、高級なソファは座り心地がいい。
「なんでまたアップルパイを?」
もうすぐ焼き上がりなんだ、焼き立てを食べよう、とアポロニオはいそいそ、ティータイムのセットを用意している。ヴァッカリオにはストレートの紅茶を。アポロニオは砂糖とミルクがたっぷり入ったミルクティーを飲むつもりらしい。
「うむ。今日は8月1日、パイの日、と言う事らしくてな。製菓材料が安く売られていたからつい……」
「なるほどね……なるほどね!?」
「な、なんだ、どうした??」
突然、大声を上げてソファから飛び上がったヴァッカリオに、アポロニオはびっくりして動揺した声をあげた。
パイの日。それはヴァッカリオとアポロニオの二人ともが認識した間違いない8月1日今日は何の日。おかしい、同じ「パイの日」なのに、アポロニオは「アップルパイ」で今日と言う日を消費してしまったようだ。ヴァッカリオは「お兄ちゃんのおっぱい」で消費するつもり満々だったというのに……!
なんでもないよ、と腰を下ろしたヴァッカリオをアポロニオは心配そうに伺いつつも、キッチンの方から焼き上がりを告げるチャイムが流れてきてそちらへと意識を向けた。
「うまく焼けているとは思うが……ヴァッカリオ、大丈夫か? 調子が悪いなら、アップルパイはやめるか?」
アップルパイをキャンセルしてお兄ちゃんのおっぱいを予約するか? ヴァッカリオにはそう聞こえた。それだったらお兄ちゃんのおっぱいを予約したい……と思わないこともないが。
しかし、アポロニオがヴァッカリオの事を考えて作ってくれたアップルパイだ。焼き上がりのタイミングからしても、間違いなく二人で食べようと思って作ってくれたのだろう。それを思えば、アップルパイをキャンセルすることはできない。
「お兄ちゃんの料理、絶品だもんねえ……」
「どうした、急に褒めて……何もでないぞ?」
「今からアップルパイ出してくれるでしょ。別に体調悪いとかじゃないから、アップルパイちょーだい!」
ヴァッカリオがへらり、と笑って元気よく言えば、アポロニオはホッとした笑みを浮かべて「わかった、待っていなさい」と言い置いてスキップでもしそうな勢いでキッチンに消えていく。
その後姿を見送って。ヴァッカリオは目を光らせた。
「っていうか、別にアップルパイ食べた後にお兄ちゃんのおっぱい食べれば済む話だし?」
それを言ったら、元も子もないのだが。しかしながら、ヴァッカリオは大層に強欲な人間である。それこそ、アポロニオがどこかに落としてきた「欲望」の感情を後ろから歩きながら拾い集めた男だ。
昔から運動会があれば多忙なのをわかったうえでお兄ちゃんが来てくれなきゃ嫌だ!と駄々をこね、反抗期には兄貴の考え聞かせろよ、と強引に押し通し。そこからしばらく、抑えていたその感情も最近になって久々に陽の目を見て爆発している。
ストレートにお兄ちゃんが欲しい!と二十数年ぶりに駄々をこねたのは記憶に新しい。つまり。
「待たせたなヴァッカリオ……なんだ、何か嬉しいことでもあったのか?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべたヴァッカリオを見たアポロニオは、兄としての優しさをたたえた声音でヴァッカリオを気遣った。
「うん、ちょっとね。おっ、アップルパイ、綺麗に焼けてるじゃん」
「後は味がちゃんとしていればな……これぐらいか?」
「もうちょっと小さ目がいいな、足りなかったらおかわりするから。夕飯もあるしね」
まさかの四分の一を切り分けてこようとしたアポロニオをやんわりと制して無事に八分の一ピースを手に入れたヴァッカリオ。次に手にするのは、アポロニオお兄ちゃんの薄くて小さなおっぱいだ!
※コメントは最大500文字、5回まで送信できます