お題ガチャより「ご褒美は何がいいかと聞いても「頭をなでてほしい」としか言わないアポに、遠慮しなくていいのになと思っているヴァ。アポはそれだけで十分なんだよ。」
「んー……」
ヴァッカリオは目の前で忙しそうに掃除機をかけるアポロニオを見ながら、つまらなさそうな声をあげた。
今日と言う今日は、アポロニオを褒めようと。そう思ってきたのに、アポロニオは苦笑いしながら「では頭を撫でてくれないか」と言って、ヴァッカリオに頭を撫でさせてそれで終わってしまった。
結局、ヴァッカリオがアポロニオを褒めて甘やかしたというより、ヴァッカリオのわがままにアポロニオが付き合った、という形に落ち着いてしまったのは気のせいではない。
そういうわけで、ヴァッカリオは掃除の邪魔にならないようにソファのうえであぐらを組んで、アポロニオを観察していたわけだ。果たして、どうやったら兄が喜ぶような褒め甘やかしができるのだろうか。
「ヴァッカリオ、おやつの時間にするか?」
「え、もうそんな時間?」
アポロニオをじーっと見ているだけで、知らない間にかなりの時間が経っていたらしい。うん、ぱたぱたくるくる動き回るお兄ちゃんを見ているとあっという間に時間が過ぎる。その辺の変な動画やテレビを見ているよりよほど有意義だ。
アポロニオが用意してくれたお手製のバニラアイスがテーブルの上に並べられる。ヴァッカリオは自分の手にはずいぶんと小さいアイススプーンを手に取って、アイスを一口運んだ。やはり死ぬほど甘かったが、目の前でアポロニオがきらきらした眼差しでこちらを見ているので、「とっても美味しいよ」と笑いかけた。途端に、アポロニオの顔に笑顔が広がって、大輪のヒマワリを想起させてくれる。
「甘すぎるだけで味がいいのは間違いないし、お兄ちゃんの笑顔っていう後かけソースがあればどんなものでも美味しくなるんだよねえ」
アポロニオが自分の分のアイスを用意しに行っている間に、ヴァッカリオはしみじみと呟いた。遠くキッチンから、チョコソースはいるか?と聞かれて、大声で「いらない!」と返す。ビターのチョコソースなら歓迎だが、アポロニオの事だからきっと幼児用の死ぬほど甘いソースだろう。
アポロニオが持ってきたアイスには、いちごのソースが掛けられていた。甘いのは勘弁、と思いつつも、それはそれでおいしそうだな、と思ってしまう。
スプーンですくってアイスを口に運ぶたび、アポロニオがにこにことした笑顔を浮かべる。自分で作った自分好みのアイス、さぞかし口に合うのだろう。嗚呼、兄が可愛くてかわいくて仕方ない。
「ねーお兄ちゃん」
「ん、なんだ?」
「褒めるときさあ、頭を撫でる以外に、なんかやって欲しいこととかないの? 美味しいアイス奢って欲しいとか」
アポロニオはヴァッカリオの言葉に小首をかしげて、目をしぱしぱと瞬かせた。その後、すぐに苦笑を浮かべると「私は頭を撫でてもらうだけでじゅうぶんだよ」と静かに言う。
「ふーん……昔、おいらが運動会で一等賞取った時は、特別に夕飯ハンバーグにしてくれたり、テストで100点取ったらご褒美でケーキ焼いてくれたりしたじゃん。お兄ちゃんは、そういうのやって欲しくないの?」
「ああ。……別に、遠慮しているわけでもないのだぞ?」
「そうかあ……」
腑に落ちない、と言った表情を浮かべるヴァッカリオに、アポロニオも少しばかり困った顔を浮かべる。
実際、そもそも褒めてもらう必要もないと思っているアポロニオだ。頭を撫でて欲しい、というのも一番最初にヴァッカリオが「撫でてあげようか?」と言ったからとりあえずそれに乗っただけで、別に自分の意思で毎回、それを言ってるわけではない。
「でもおいらはお兄ちゃんを褒めたいんだよね、褒めて甘やかしたい」
「ハッハッハ、ヴァッカリオもすっかり大人になったな」
「とっくに大人だっての。うーん、じゃあ……勝手にやろうかな」
「勝手に?」
アポロニオが不思議そうな顔をする。ヴァッカリオは空になったアイスの器を置いて立ち上がり、アポロニオのそばに寄った。
「なんだ、また頭でも撫でてくれるのか」
「うん。お兄ちゃんアイス美味しかったよ、ごちそうさま」
「ふふふ、あれぐらい、大したものではない……」
そう謙遜するアポロニオの頭をヴァッカリオは撫でた後、今度は前髪をかき上げて額に唇を落とした。そのまま、鼻先や頬にいくつも親愛の証を落としていく。
「お兄ちゃん、ごちそうさま。片づけはおいらがやるから、ゆっくり食べてていいよ」
「は……」
す、とヴァッカリオが屈めてた体を起こせば、そこには顔を真っ赤に染めて目を見開いたアポロニオがいた。お、珍しい反応だ、とヴァッカリオは思わず手を伸ばして、もう一度アポロニオの頭を撫でる。
「今の褒め方、嫌い?」
「きっ、嫌い、ではない、がっ! や、や、やりすぎではないか!?」
「え、そう? そんなことないでしょ、だってお兄ちゃんも昔よくやってくれたじゃん」
そう言われてしまい、アポロニオはぐぬ、と言葉に詰まって俯いた。落ち着きなく手をもじもじとさせている。
「し、しかし、そんな、アイスぐらいで……」
「アイスぐらい、じゃなくて、美味しいアイスありがとう、だよ。とても美味しかったし、準備もしてくれたし」
「う……そ、そうだろうか……」
なるほど。ヴァッカリオは理解した。そもそも、アポロニオには「褒められレパートリー」が少ないようだ。だから、褒めて欲しいとも思わないし、何かをやって欲しいとも思わない。根本的に褒められ方をわかっていないから……。
アポロニオは顔を真っ赤にして、言葉も告げず狼狽えてはいる。しかし、ヴァッカリオのやり方に「嫌だ」とは言わないし、否定する素振りも見せない。
「わかった、わかったよお兄ちゃん」
「な、なにがわかったと言うのだ?」
「これから、昔お兄ちゃんがおいらにやってくれたようにそっくりそのまま返してたくさん褒めてくね」
「!! い、いや、それは、別に、私になんかやらなくても、他の人とか……」
「俺が、お兄ちゃんに、やりたいって言ってんの」
逃げようとするアポロ二の手を取って、ヴァッカリオはじっと目を見た。アポロニオが露骨に視線を合わせないように瞳を左右に揺らしている。
「怖がらないで大丈夫だよ、お兄ちゃんが本当に嫌なことはやらないから。……ほら、アイス溶けちゃうよ」
ヴァッカリオに示されて、アポロニオは慌ててテーブルに視線を戻した。そこにあったバニラアイスはもうすでに形を崩していて、いちごソースと混ざりあってしまっている。
アポロニオがアイスにスプーンを運んでいる間に、ヴァッカリオは自分の食器をもってキッチンへと足を向けた。褒めて甘やかしたいのにあれ以上、構っていたらアポロニオを脅す事になってしまう。
いやあ、難しいね、加減が。ヴァッカリオはシンクに器を置きながら少しばかりため息をついた。それでもやりがいがありそうな事である。せっかく、体も治って寿命も存分に延びたのだから……有り余った時間は、アポロニオを散々に褒めて褒めまくって、「褒められ慣れ」してもらう事に費やそうかと思う。
とりあえず自分もハンバーグぐらい作れるようにならないとダメかな?とヴァッカリオは今後について頭をひねるのだった。
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