お題ガチャより「ガラス工芸体験で作ったグラスを交換したふたり。大事にしすぎて使うより眺めることが多いアポとそれでなにか飲むとやる気がみなぎるので毎日使うヴァ」
アポロニオの家にある食器類は、白色のものがほとんどだ。まれに、オレンジ色や黄色と言った本人のモチーフカラーの食器がところどころにある。
その中で、ガラス戸の向こう側にひときわ目立つ、紫色のグラス。そのグラスだけが、珍しい寒色系の色合いで、非常に目につく。少しだけいびつな形をしたそのグラスを、アポロニオは食器棚の前でうっとりと眺めていた。
このグラスは、アポロニオの中ではもっぱら観賞用だ。飲むためのコップやグラスは、他にいくらでもある。わざわざこの美しいグラスを汚す必要もない。
「見ているだけで元気が出てくるな……」
そう呟いたアポロニオは、よし、と気合を入れてエプロンを身に着けた。今から、明日、ヴァッカリオが来た時のための食材の仕込みを行うのだ。
アポロニオが眺めていたグラスは、ヴァッカリオが作ったもの。とある日に、ヴァッカリオと二人でガラス工房のグラス作成体験に参加した記念品だ。もともと、ヴァッカリオは自分で使うつもりで、紫色になる様に色付けの準備をしてもらい、酒飲み用の口が大きいグラスを作った、とのことだった。
アポロニオはアポロニオで、色付けには黄色を選択して、牛乳でも飲もうかと普通のコップグラスを作っていた。多少、歪んでいる場所もあるが、それなりにうまくできたと思っている。
そんなグラスが完成し、お互いに見せあった時。ヴァッカリオの方が言い出したのか、それともアポロニオの方が目で語ってしまったのか定かではないが、気づけばお互いのグラスを交換してニマニマしながらそれぞれ持って帰ったのであった。
自分の物より相手の物が欲しくなったのも、きっとあまりにも「ヴァッカリオらしい」グラスだったからだろう、とアポロニオは思っている。少しばかりそれが気恥ずかしいが、ヴァッカリオも喜んでグラス交換に応じてくれたから許して欲しい。
そういうわけで、アポロニオが作った「アポロニオらしい」グラスはヴァッカリオの家にあった。今、そのグラスにはなみなみとビールが注がれている。
「っはー! 仕事の後の一杯はやっぱりたまんないね!」
なみなみ、していたビールは一瞬でヴァッカリオの喉を通り過ぎて胃に落ちていった。半分ほどになったグラスをどん、とテーブルに置き、ヴァッカリオはつまみに手を伸ばす。
「お兄ちゃんのグラスで晩酌~♪ っと。いいね、ただ飲むより最高に疲れも取れるしむしろ元気が出ちゃうよ」
残り半分も一気に飲み干して、ヴァッカリオは新しい缶を開けてまたグラスにビールを移した。わざわざ、この手間をかけてまで楽しむ価値は十分にある。
ヴァッカリオの家にはその辺で買った安物で統一感ゼロの食器しかない。そんな中で、アポロニオ作のこのグラスだけは光輝いて見えた。……もしかしたら、本当に物理的に光り輝いているかもしれない、なぞの太陽神パワーで。
まあ、それはそれとして、そんなグラスで晩酌をするのが最近のヴァッカリオの楽しみだ。疲れた体に酒が染み渡るのはもちろん、まるでグラスが「お疲れ様」と自分を出迎えてくれているようにも感じる。
交換して大正解だ、とヴァッカリオはニマニマしながら3杯目に手を出した。このグラスで飲むと……何となく、健康に良いような気がする。残念ながらこれは本当にヴァッカリオの気のせいだ、そんな効用は一切ない。
いろいろな事が片付いたとはいえ、まだ落ち着かない日々が続いている。特に公務に復帰して表に出るようになったヴァッカリオは、いろいろとやることが山積みになっているのだ。
「あー……でも早く、グラス並べることができるようになったらいいねえ……」
同居の話は、すでに上がってはいる。後は、タイミングだけだが……なかなかそれが難しい。アポロニオの家にヴァッカリオが転がり込むことにはなるだろう。
自分が作ったへたくそな紫のグラスと、アポロニオが作った綺麗な黄色のグラスと。並べて鑑賞して、一緒にビールを注いで飲みあったらどれだけの幸福が得られるだろう、とヴァッカリオはしみじみと思う。
「さっさと面倒ごとも片づけるしかねえよなあ」
よし、とヴァッカリオは自分に喝を入れて、4杯目のビールを呷った。ビールがうまい、グラスが綺麗、やる気も出る! このグラスのおかげで、日々の活力が湧いてくるのだ。そりゃあ、ビールを飲む喉も止まらない。
ヴァッカリオはそうしてグラス片手にそのままテーブルに潰れてしまい……アポロニオからの、ナイトコールで慌てて目を覚ますことになる。グラスを眺めて時間を潰すアポロニオと、グラスで飲んで潰れるヴァッカリオと、やっている事は大して変わらないのであった。
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